フロム孤児院
セリオンはフィリアによって孤児院につられてこれた。
孤児院はにぎやかだった。
子供たちは晴れた天気のもと、外で遊んでいた。
「あ、フィリア先生だ!」
「ねーねー! フィリア先生、遊んで!」
「ごめんねー、先生はちょっとお客さんをもてなさないといけないの」
「お客さん?」
子供たちがセリオンを見る。
「この人誰?」
「あー、先生の彼氏だー!」
「ちょっと、何言ってるの!」
フィリアが子供を叱りつける。
「ごめんね、セリオン。ここはにぎやかすぎるでしょ?」
「ここが、フィリアの職場か。いいところじゃないか」
「ここはフロム孤児院って言って、シュヴェリーンから援助を受けているんだ。子供たちには戦災孤児が多いかな。ほら、例のツヴェーデン・ヤポニ戦争で……」
「そういうことか」
ツヴェーデン・ヤポニ戦争。
かつてツヴェーデンの少数民族ヤポニ人の反乱によって起きた戦争である。
この戦争でヤポニ人は『鬼獣』という兵器を利用した。
最終的にはツヴェーデン側が勝ったものの、セリオンたちの支援がなければ、ツヴェーデンは危なかったであろう。
その際に、戦災孤児が発生した。
それで、フロム孤児院でも、預かる孤児が増えたということだろう。
「ねーね、お兄ちゃん。私たちと遊んで!」
「遊ぶ?」
セリオンは困惑した。
セリオンは子供が嫌いではない。
ただ、セリオンは自身の人生であまり遊んだことがない。
だから、セリオンはどうしていいかわからなかった。
子供の年齢は五歳くらいだ。
シエルやノエルとは違う。
彼女たちは十二歳だ。
セリオンは子供と論理的な話をすることや剣術を教えることはできたが、このくらいの子供と純粋に遊ぶのには慣れていない。
子供たちはボールを持っていた。
「ああ、かまわないが……」
「じゃあ、ボール投げをしよう! えい!」
セリオンはサッカーボールほどの大きさのボールを受け止める。
狙いは不正確だった。
だが、それでもセリオンはそのボールを取ってあげた。
「ふふふ、子供たちはセリオンに任せておけば安心ね。じゃあ、セリオン、お茶の準備をしてくるから。セリオンは子供たちと遊んであげて。私はコルネリア院長に報告してくるね」
今度はセリオンがボールを投げる。
セリオンの狙いは正確だ。
セリオンは子供でもキャッチできるように威力を加減した。
「よいしょ!」
子供がボールを取った。
どうやら加減は大丈夫だったらしい。
「えい!」
また子供がボールを投げてきた。
今度はセリオンに正確に飛んできた。
セリオンは難なくそれをキャッチする。
「うまいな。よく投げた」
「へへへ! お兄ちゃんはボール投げうまいね! ねーねー、今度はサッカーやろう?」
「サッカーか……」
セリオンはサッカーにはいい思い出がない。
セリオンは幼いころから剣術を学んできた。
それはスポーツには時間を割かなかったとういうことでもある。
だから、セリオンはスポーツを苦手としていた。
「みんなー! おやつの時間だよー!」
フィリアが子供たちに声をかける。
セリオンは助かったと思った。
「わーい! おやつだー!」
「やったー!」
子供たちは我先にと、建物に入っていった。
「セリオン、子供たちの相手をしてくれてありがとう! 紅茶をようにしてあるから、中に入ってきて!」
「あ、ああ」
セリオンは孤児院の中に入った。
孤児たちはすでに席についていた。
もうお菓子を口につけている。
セリオンは奥の部屋に案内された。
「これはこれはようこそいらっしゃいました。私はこの孤児院を経営しているコルネリア・フロム(Kornelia Fromm)という者です。初めまして」
「初めまして、セリオン・シベルスクだ」
「セリオン……まさかあの英雄様では?」
「ああ、そうだ」
「こんな貧相なところによくおこしになられました。重ねてお礼を申し上げます」
「いや、いいんだ。フィリアがどんなところで働いているか興味があったからな」
「それでは席におつきください。紅茶をご用意しております」
「それではいただこう」
セリオンは紅茶を飲んだ。
「うまい」
「よかったあ。セリオンの口に合って」
「フィリアがいれたのか?」
「うん、お客様にはこれくらいのもてなしをしないとね」
フィリアもフロム院長も席に着く。
「フロム院長、フィリアがアドヴェント社に狙われていることは御存じですか?」
「ええ、アドヴェント社のエージェントが何度か孤児院に来ました。フィリア先生は子供たちに慕われております。そんな人をアドヴェント社に突き出すほど私は薄情ではありません」
「なるほど……子供たちは幸せそうですね?」
「当院ではそれを最も気にしております。当孤児院は男性の職員がいないので、それが困っていることですね。何かと女性だけだと、なめられることもあるのですよ」
「まあ、ツヴェーデンは父権制の国ですからね。どうしても、女性を一段低く見てしまいがちなんでしょう」
セリオンは再びカップに口をつける。
温かい紅茶がセリオンののどを通る。
「経営はうまくいっているのですか?」
「私どもは孤児の数によって、シュヴェリーン当局から支援を受けています。ただ、最近になって孤児が増えたのも確かです。ツヴェーデン・ヤポニ戦争で戦災孤児が増えたからでしょう。正直、当院はこれ以上、孤児を受け入れるのは無理な相談です」
「俺もその戦争には従事しました。当初はヤポニ側が有利に戦いを進めてきましたが、最終的にはツヴェーデンの勝利で終わりましたね」
「ヤポニ系の孤児が増えたと報告にはあがっております。ヤポニ系の場合、言葉の問題がありますので」
「ヤポニ人はヤポニ語を話していますからね」
ヤポニ人は東方からやって来た民族らしい。
昔は海上帝国を作るなど、繁栄を享受していた。
ただし、古代レーム帝国によって首都カルタゴを滅ぼされて、その繁栄に終止符を打たれた。
「当院でもツヴェーデン系とヤポニ系の虎児は互いに交流しない傾向があります。どうやら言葉が壁になっているようで……」
「そうですか。それは大変ですね」
「せんせーい! 大変だよー!」
「どうしたの、アル?」
フィリアが聞いた。
「テオがさらわれたんだ!」
「テオが!? 詳しく、先生に教えて!」
アルが語るところによると、テオが反社会的勢力に石を投げたらしい。
それでテオはさらわれて行ってしまったという。
「ああ、神様!」
フロム院長が祈った。
「セリオン……どうしよう……?」
「ここは俺に任せておけ。テオがどこでさらわれたか、アル、教えてくれるか?」
「うん、兄ちゃん!」




