アドヴェント社 Die Tochter des Planeten
民間軍事会社アドヴェント(Advent)社。
ツヴェーデンの首都シュヴェリーンに本社を置く大企業である。
この会社は政府や国防軍とも関係が深く、民間企業でありながら、優秀な戦士を輩出していた。
ただし、それは表の顔であった。
この会社は裏の顔を持っている。
現在、この会社では重役会議が行われていた。
参加者はフョードル・マリノフスキー社長、アルカージー・フョードロヴィチ副社長、軍事部門代表ゲオルギー。兵器部門代表アゴスティーナ、情報部門代表クサナギ、研究部門代表サイジョウらだった。
「目下、星の娘はシュヴェリーンに滞在しております。今のところ目立った動きはありません。どうやら彼女は孤児院で働いているようです。監視――観察のため、エージェントを配置しております」
クサナギが報告した。クサナギは黒い髪を長く伸ばし、青いスーツを着ていた。
顔立ちは東洋風であった。
「それで、彼女に動きはあったか?」
フョードル社長が尋ねる。
フョードルはデブデブと肥満した体に、紺のスーツを着ていた。
この男は経営者として有能であったが、女好きという欠点を持っていた。
「いえ、今のところ特に動きはありません。しいて言えば、教会をよく訪れることくらいでしょうか」
クサナギの報告は淡々としていた。
「教会か。物好きねえ。いまさら教会に何の用があるって言うの?」
アゴスティーナがばかばかしいとでも言いたいようだ。
彼女は赤い、スリットのあるスカートを着ていた。
「がっはっはっは! まあいいではないか。星の娘が神に救済を願うのは理にかなっている」
豪快な答え方をしたのはゲオルギーであった。
彼は筋肉質な体をしていた。
それにあごひげをたくわえていた。
「星の娘を泳がせすぎではないかね? そろそろ私は解剖がしたいんだがね」
そう答えたのはサイジョウ博士だった。
彼はマッドサイエンティストだ。
彼は基本的に人間嫌いで、もっぱら魔物の研究をしていた。
「解剖は却下だ。そんなことをしたら、星の娘は死んでしまう」
「はっはっはっはっは! その前に『繁殖』させれば問題はないだろう?」
彼が言う繁殖という言葉に、会議の参加者は眉をひそめた。
これはデリケートな問題だ。
人間を家畜と同じように見なすサイジョウにそれぞれが反感を持つ。
サイジョウはそんなことなどかまわず笑っていた。
この男は狂っている。
それが参加者の共通理解だった。
「問題はそう言うことではない。わしは生きている間に『約束の地』に行きたいものだ。時間は無限ではない」
フョードルはアドヴェント社の創業者である。
彼一代で会社は大企業の仲間入りを果たした。
シュヴェリーンではアドヴェント社のことを知らぬ者はいない。
アドヴェント社は民間企業だが、軍隊を保有する。
ツヴェーデン政府と協力して、軍事活動を行っていた。
アドヴェントとは『到来の日』に由来する。
フョードル自身はさして信仰に興味なない。
彼は神話に出てくる『約束の地』を訪れるために、アドヴェント社を立ち上げた。
約束の地はそこに星の真実があるという。
息子のアルカージーはそれらを黙って聞いていた。
アルカージーはフョードルの息子で、年齢は二十五歳。
金髪の美男子で、父から経営能力を引き継いでいた。
今は父から実務を習っている。
「サタナエルの一件はどうだ?」
ここで初めてアルカージーが発言した。
その言葉に皆が顔をしかめる。
この話題には触れたがらないようだ。
サタナエルはこの会社の軍人だった。
「サタナエルは現在行方不明です。目下、捜索をしておりますが、有効な情報はありません」
クサナギが言った。
「フン! サタナエルめ! 目をかけてやった恩を忘れおって! あいつのせいでメディアから集中砲火を浴びたのだぞ!」
フョードルは怒りをあらわにした。
フョードルからすればアドヴェント社の顔に泥を塗られた気分だろう。
彼はそもそも、軍事会社を経営したかったのではない。
彼は約束の地へと行くために、儲かる軍事会社を設立したのだ。
利益はそのために使われるべきだった。
そこがアルカージーと違う。
アルカージーは明確に、軍事会社の経営をしたかった。
自分には経営の才能がある。
それをアルカージーは自覚していた。
父とは違って、約束の地などに興味はない。
彼はこの会社をもっと成長させたかった。
アルカージーは本社でマーケティングをしていた。
「星に娘はわざわざ泳がせているのだ。せいぜい、動いてもらおうではないか。それでは会議を終わりにする」
セリオンは市街地を歩いていた。
セリオンは教会に寄付するため、おカネを預かっていた。
教会の名前はサンタ・マリア・デル・フィオーレ(Santa Maria del Fiore)だった。
セリオンは教会の扉を開けた。
今は礼拝の時間ではないため、人気はない。
「さて、募金箱におカネを置いていくか」
セリオンは寄付金を募金箱に入れる。
「ん? 誰かいるのか?」
セリオンはひざまずいて祈っている女性がいるのを発見した。
その後ろ姿に見覚えがある。
待て、俺はこの人を知っている?
「? 誰?」
女性が振り向いた。
「セリオン!」
「フィリア?」
「うわー、セリオンだあ! えへへへ、久しぶりだねえ!」
そこにいたのはフィリアだった。
彼女は満面の笑みを浮かべてくる。
「フィリアと会えるとは思わなかった。ここで祈っていたのか?」
「うん、神様に今までのことを報告していたんだ。セリオンはどうしてここに?」
「俺は教会に寄付を持ってきた」
「寄付?」
「ああ、テンペルからの寄付だ」
「そうなんだあ……えへへ、セリオンと会えて私はうれしい!」
「俺もうれしいよ」
「そうだ! セリオンも祈って行かない?」
「ここでか?」
「うん! きっと神様も喜ぶよ!」
「あ、ああ」
セリオンは不審信者ではなかったが、あまり一人で祈る習慣はない。
とりあえず、セリオンはひざまずいて手を握る。
セリオンはエスカローネのことを祈った。
エスカローネがシベリア人だと国際的に認められたからだ。
セリオンは立ち上がる。
「フィリアはどうしているんだ? 今はどこで生活している?」
「私は今、孤児院で働いているんだ。子供たちといっしょで楽しいよ! そうだ! セリオンはこれから時間は空いている?」
「ああ」
「それなら、孤児院に連れて行ってあげる!」
「孤児院?」
「フロム孤児院。男の人がいなくて困ることもあるんだよねえ」
「そうか。それは楽しみだ」
「じゃあ、行こう!」




