語らい
「エスカローネと自由に私たちが面会できるようにしてもらおう」
「はっはっは、何か手違いがあったようだ。それについてはお詫びする」
アンシャルの面と向かっての抗議にフィリップ王は鷹揚にうなずいた。
セリオンはこの男は二枚舌を使っていると思っていた。
セリオンたちは裏側で、フィリップと面会していた。
ハヅキからの報告ではフィリップはガスパル側にいい顔をしておいて、テンペル側にそっけないらしい。
「エスカローネは私の『娘』でもある。私としてはそろそろエスカローネを連れて、ツヴェーデンに帰りたい」
「はっはっはっは! アイノは私の『娘』ですぞ? 娘の幸せを望まない親がいるでしょうかな?」
「それは具体的にどういうものなのか?」
「それは幸せな結婚でしょう。アイノはガスパル帝国の皇太子と婚約させたい。話も実にスムーズに進んでいる。王族にとっては政略結婚こそ務め。アイノもわかってくれるでしょう」
「政略結婚だと?」
アンシャルが目を細めた。
「アイノはもはやシベリア人ではありません。彼女はフィンスキア人だ」
「エスカローネはシベリア人だ! 今も、そしてこれからも!」
セリオンが抗議した。
「はあ……ここまで言って分からないとは、救いようがないな」
フィリップが仮面を取った。
「アイノは我々のものだ。アイノはこれからフィンスキア人として生きていく。子の幸せはフィンスキアでは親が決める。アイノはアロガント皇太子の妻となるのだ。おまえたちの役割は終わった。さっさとツヴェーデンに帰るがいい」
「その言い方、後悔するぞ?」
セリオンは脅すように言った。
「我々はアイノを守る。おまえたちのような下々の者とアイノを面会させる気はない。さっさと失せろ」
フィリップの本心をあらわにした言葉に、セリオンたちは唖然とした。
だが、同時にセリオンたちはここに来て覚悟を決めた。
こうなった以上、エスカローネを力ずくで連れ帰る。
エスカローネをフィンスキア側に渡すつもりはない。
「そうか。そちらがその気なら仕方がない。エスカローネは私たちが連れ帰る」
「アイノは渡さん」
その時、衛兵たちが一斉に武器を抜いた。
衛兵はセリオンたちを取り囲む。
一触即発の事態だ。
これが国王の意思か。
セリオンは武器を出そうとした。
「待て、セリオン」
「アンシャル……」
アンシャルがセリオンを制止した。
これは外交問題だ。
問題は外交的に解決されるべきである。
アンシャルはそう考えた。
「ここは引きさがろう」
「しかし!」
セリオンはなお引き下がらなかった。
愛するエスカローネと会えないだけでも気にくわないのに、武器を向けられておとなしく、しっぽを丸めて帰るだなどと。
「このような結末は私も認めない。何らかの方法で決着をつけることを提案する」
「ほう……それはどのような提案だ?」
アンシャルは会心の笑みを浮かべて。
「そうだな。セリオンとアロガントの決闘というのはどうだ?」
「決闘だと?」
「決闘で勝った側にエスカローネは帰属する。もちろん、私たちはセリオンが勝つと信じているが」
「はっはっはっはっはっは! 決闘とはおもしろい! アロガント皇子が負けるとは思えない。アロガント皇子は若くても武人だ。私はアロガント皇子にかけるがね。アイノはアロガント皇子のものになるのだ」
「いいだろう。これで話は決まったな。明日決闘を催そう。それまではエスカローネの身柄を預けておく。セリオン、サラゴン、アリオン、行くぞ?」
アンシャルはそれを言い残すと、部屋から出て行った。
セリオンたちもそれに続いた。
エスカローネは深夜、一人、起きていた。
最近はフィンスキア式のマナーやエチケットも習っている。
いったい、いつまでこんなことをさせるつもりだろう?
もういい加減に帰りたい。
ツヴェーデンに帰りたい。
そしてディオドラさんの顔を見たい。
その日は月が見えていた。
「きれい……」
「エスカローネ?」
「セリオン?」
その時セリオンがバルコニーから姿を現した。
セリオンだ。
エスカローネの胸が高鳴る。
エスカローネはずっとセリオンと会いたかった。
話したかった。
「セリオン、どうしてここに?」
「ああ、警備の隙をついて侵入した。エスカローネに会いたくてね」
「私も、セリオンと会いたかった」
セリオンが強く、エスカローネを抱きしめてくる。
エスカローネも同じことをする。
「エスカローネ……」
「ああ、セリオン……会いたかった……」
「俺もだ。エスカローネと会えるように侍女に話を出したんだが、断られたんだ」
「そうだったの。こっちも同じよ。セリオンとは会わせてくれなかったわ」
「このまま君をさらってしまいたい」
「そうして」
「いいのか?」
「うん、だってフィンスキア側は私を逃がすつもりがないもの。もはや実力行使しかないわ。それにこれ以上、セリオンと離れ離れになるなんて、耐えられない」
「そうしたいんだが……」
「どうしたの?」
「アンシャルがエスカローネのこれからを決めることにした」
「私のこれから?」
「ああ、これは外交問題になった。だから、エスカローネがテンペルか、フィンスキアかどちらに属するか決闘で決めることにした」
「決闘!?」
「決闘には俺が出る。相手はガスパル帝国のバカ皇子アロガントだ」
「俺が勝てば、エスカローネはテンペルのものになる。国際的に、エスカローネの帰属が決定されるわけだ」
「私はセリオンが勝つって信じているわ」
「ああ、もちろんだ。俺は勝つ。そして君を取り戻す」
「その約束は守られるの?」
「そうだな。俺もそう思っていた。俺が勝っても、フィンスキア側が約束を守るとは考えにくい。そこで、アンシャルたちも戦う覚悟だ」
「ごめんなさい、私のために……」
「いいんだ。エスカローネはみんなにとって家族も同然だ。そのエスカローネのためにみんなが行動するなんて当たり前だろう?」
「私もみんなを家族のように思っているわ。私のために動いてくれてありがとう」
「決闘は明日だ。これは俺一人の気持ちだけじゃない。エスカローネはみんなから愛されているんだ。だから、必ず俺が勝つ。信じてくれ」
「セリオン、愛してる」
「俺も君を愛してる」
セリオンとエスカローネは月夜のもとキスをした。




