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ヘルデンリート・フィナーレ Das Heldenlied Finale ~Mein Bester Freund~  作者: 野原 ヒロユキ
俺は新しい時代の扉を開ける Ich will die Tür der neuen Zeit aufmachen
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ガスパル人

セリオンは王宮に入り、エスカローネと会おうとした。

だが……。

「どうして、エスカローネと会えないんだ?」

「申しわけありません。アイノ様は御多忙ですので」

「恋人に会えないのはおかしいだろう?」

「申しわけありません。このことは私どももうかがってはおりませんので」

侍女は明らかに冷たかった。

まるでセリオンとエスカローネを会わせないようにしているかのようだ。

セリオンはこれ以上は無駄だと持って、一時的に引き下がることにした。

(やはり、俺たちの接触を禁じてきたな。このまま俺たちを会わせないつもりか)

フィンスキア側はエスカローネとしてのアイノ姫を抹殺しようとしていることは明らかだ。

セリオンはハヅキからすでにエスカローネの身辺情報は手に入れている。

セリオンはエスカローネを救出するつもりだった。

最悪、乱闘を起こしてでもエスカローネを連れ帰る、という決意だった。

セリオンはアリオンのもとに戻ってきた。

「どうだった?」

「ダメだ。アイノ様はお忙しいの一点張りだ。まあ、最初から会わせるつもりがないんだろうな」

「どうする?」

「今回はいったん引き下がるさ。強引に進めることもない」

「そっか」

「ん?」

「どうしたんだ、セリオン?」

「あれは……」

そこに羽振りのいい一団が現れた。

「クルエル(Kruel)、昨日アイノ姫が王宮に帰還したらしいな?」

「はい、アイノ様はツヴェーデンにいらしたそうで」

「ツヴェーデン、か。我らが敵国よな。で、たいそう美しいと聞いている。そこのところはどうなのだ?」

「アロガント(Arrogant)様にふさわしい美しさをお持ちだとか」

「ふむ、そうか。一度あいさつに訪れてみるか」

「だれが、あいさつに行くんだ?」

「ちょっ、セリオン!」

「何だ、きさまは?」

アロガントがセリオンを見る。

それはごみを見るかのような視線だった。

アロガントは美男子で、緑の甲冑を着こんでいた。

セリオンはアロガントのことを知っていた。

アロガント皇太子……ガスパル帝国の皇子で、皇帝ドミナントの息子。

武技に誉れ高いといううわさだ。

そばに控えるのはアロガントの側近で将軍のクルエルだ。

クルエルはいかにも歴戦の武人を思わせる傷の数々を持っていた。

体つきは武骨なほど筋肉質だった。

「俺はエスカローネの恋人だ」

「エスカローネ? 誰だそれは?」

「アロガント様」

クルエルがアロガントに耳打ちする。

「ほう……ということはきさまがセリオン・シベルスクか。青き狼、英雄と呼ばれる……」

アロガントの目にあるのは侮蔑。

「シベリアはガスパル帝国の属州にすぎん。残念だったな。属州シベリアは永遠にガスパル帝国のものだ」

「俺たちがシベリアを奪還してみせる。ガスパル帝国の軍事力など張りぼてだ」

「きさま、栄光あるガスパル帝国を侮辱するつもりか?」

「ガスパル帝国に最初から栄光なんてあったか?」

「きさま、死にたいらしいな?」

「おまえこそ、死にたいらしいな?」

一触即発の事態に発展した。

シベリア人にとってガスパル人は憎むべき敵である。

シベリア人のふるさと、シベリアはガスパル帝国に占領されていた。

これは国際的な問題だった。

セリオンたちシベリア人にってシベリアの地に帰ることは悲願なのだ。

実のところフィンスキアはガスパル帝国との関係に苦慮していた。

フィンスキアはガスパル帝国と国境を接している。

そのため、フィンスキアは国の独立をかけてガスパル帝国に働きかけていた。

実際、フィンスキアはガスパル帝国と何度か戦争を経験している。

おそらくアロガントの滞在はエスカローネの帰郷とは偶然の一致だろうが、ガスパル側の要人がいるということはシベリア側には火薬庫のような問題を引き起こした。

そこでフィンスキアの救世主となるのがアイノ姫だ。

フィンスキア側はアイノをガスパル帝国に嫁がせて、国の独立をはかる可能性がある。

アイノはカードというわけだ。

老獪ろうかいな政治家なら思いつきそうなことであった。

だが、セリオンはそれを認めるつもりはない。

フィンスキア側もセリオンの許可など取ろうとしないだろう。

セリオンとアロガントは武器に手を付けた。

「何をしているのですか?」

「!?」

「おお!?」

そこに現れたのはエスカローネ=アイノだった。

彼女は白いドレスを着ていた。

「エスカローネ……」

「おお!? 美しい!?」

アロガントはアイノの美しさに驚嘆していた。

まるで雷に打たれたかのように立ち尽くしている。

「双方、武器を収めてください。ここは王宮です。武器はふさわしくありません」

「お初にお目にかかります、アイノ姫。私はガスパル帝国の皇太子アロガントと申す者です」

アロガントはアイノの手を取ると、その手の甲にキスをした。

セリオンは自分の胸からどす黒い感情が湧きあがるのを感じた。

まるで自分の恋人を汚されたみたいだ。

「アイノ姫がそう言うのなら、ここは武器を収めましょう。それにしてもあなたはお美しい。アイノ姫は御結婚はなされているのですか?」

「いえ、私は独身です」

「そうですか。よいことを聞きました。それでは卑しいシベリア人のことはアイノ姫に免じて許しましょう。それでは」

「……」

セリオンは沈黙を貫いた。

アロガントはセリオンをバカにする視線を向けると、去っていった。

セリオンは心中穏やかではなかった。

「セリオン殿も、武器は収めましょう」

「……あ、ああ」

エスカローネは目を閉じていた。

それがどういう意味かは分からなかったが。

エスカローネはどうしたんだろう? 

俺のことは忘れてしまったのか?

セリオンの胸が痛んだ。

「セリオン、ここは行こうぜ?」

「アリオン……だが……」

セリオンはなおもエスカローネにこだわった。

エスカローネは瞼を閉じていてセリオンはエスカローネのことが分からなかった。

セリオンはしぶしぶうなずき、アリオンに同意した。

セリオンとアリオンは一時、王宮を去ることにした。

セリオンはこれであきらめたわけではない。

ここはひとまず、矛を収めるべき時だった。

「わかった。一時、去ろう」

エスカローネはどうしてしまったのだろう?

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