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ヘルデンリート・フィナーレ Das Heldenlied Finale ~Mein Bester Freund~  作者: 野原 ヒロユキ
俺は新しい時代の扉を開ける Ich will die Tür der neuen Zeit aufmachen
2/14

ネーベルハイム

セリオンたちはサタナエルの故郷ネーベルハイムに到着した。

二人は馬車から降りる。

ネーベルハイムは高原の村で、研究のためにアドヴェント社の社員が多数暮らしている。

木造の家々が建ち並んでいた。

サタナエルは村の入口で感慨深そうだった。

「ネーベルハイム……五年ぶりか……」

「どんな気持ちなんだ?」

セリオンが尋ねる。

「五年ぶりの故郷なんだろう? 俺にはそんな町はないから分からないんだ」

「そうだな。何度帰ってきても私はここに受け入れられていると感じる。私にとってネーベルハイムとはそんなところだ」

そう語るサタナエルはどこかうれしそうだ。

「この村には特に産業と呼べるものはない。アドヴェント社の息がかかった村だからな。しいて言うなら、クリスタル加工だろうか」

「クリスタル加工?」

セリオンは疑問を持った。

こんな辺鄙へんぴなところにある村に何か経済的なものがあるのだろうか?

時代は経済成長を求めていた。

現在は工業化の時代が過ぎて、情報化の時代であった。

ツヴェーデンは産業の構造を変えた。

かつては製造業の工場が建ち並んでいた。

それが工業化時代の象徴だったからだ。

だが、時代は変わる。

現在は情報化が求められていた。

通信技術の飛躍的発展により、世界ははるかに身近になった。

ツヴェーデンは情報化の時代に完璧に適応した。

ツヴェーデンは設計と販売に特化し、工場を発展途上国に移した。

そのため、一時的には国内の失業率が高まった。

失業率は必ずしも悪いものではない。

確かに失業率は否定的にとらえられる。

しかし、失業者は最先端産業のリスキリングを受けて、再び産業社会に戻る。

つまり、人材の流動化が起こるわけだ。

本来、もはや存在意義を失った企業……ゾンビ企業から人材の移動が発生する。

そのためには一定の失業率が必要なのだった。

それが今セリオンたちが生きている情報化時代のことである。

人々は経済成長のために組み込まれていた。

政治家たちは経済学の知識を振りかざし、しゃにむに経済を発展させることに余念がなかった。

ツヴェーデンでもこの方針はなかなか受け入れられなかった。

なぜなら、ツヴェーデンはマイスター制度を持つ製造の国だったからである。

今でも刃物などの製造業が存在する。

ただし、それらはもはや産業の花形ではないだけで……。

「ああ、村に近接する山からクリスタルが産出される。それが村の経済を支えてるのだ。それはシュヴェリーンに運ばれて取引される」

「そういうことか。この村にも自活できるものがあるんだな」

「私は思うんだ」

「ん?」

「時代は経済成長を求めている。どこの国でも経済成長が国の究極の目的だ。だから、国中を上げて経済成長のために人も物も駆り出される。だが、それは本当に人間の在り方だろうか? 多くの人々は誰もそれを疑わない。熱狂の前に冷静な声はかき消される」

「サタナエルは経済成長に反対か?」

「いや、そうではない。それによって戦争がほとんどなくなったのは確かだ。国々は経済的な発展を作った。それによって戦争は割に合わなくなった。それが結果的に平和をもたらした。ただ……」

「ただ?」

「経済を成長させることが目的だと、私たち軍人は肩身が狭い」

サタナエルは肩をすくめた。

セリオンはこれがサタナエルなりのユーモアだと悟った。

「そうだな。俺もそうだが、軍というものは金食い虫であって、何か経済に貢献するわけではないからな」

「フッ、私も戦うことしか能がない男だ。そんな私から戦うことが奪われたら、私は能無しになる」

世界的な情勢として、軍縮が進んでいる。

それは各国が軍事力を持つことが経済成長にマイナスだと判断したからだ。

もっとも、紛争地帯というものは存在するのであって、軍隊が消滅するわけではないのだが。

削減された軍人たちは民間企業に就職する。

その際に軍隊で学んだ技術や知識が役立つこともある。

「さて、いつまでこんなところで話している必要はない。村に入るとしよう」

「そうだな」

セリオンとサタナエルは村の中に入った。


 

二人はネーベルハイムの広場にやって来た。

ネーベルハイムは標高が高いところに位置するので、やや肌寒い。

広場では村人たちの姿を見ることができた。

「ここが、ネーベルハイム……へえ……いい村だな」

「フッ、そう言ってもらえると私もうれしい」

「ここはアドヴェント社の管理下に置かれているのか?」

「そうだ。この村の住人は基本的にはアドヴェント社の研究員だ」

「あれ? サタナエル?」

サタナエルのことを呼ぶ声がした。

二人はそちらを向く。

そこには一人の女性がいた。

茶色い髪を長く伸ばし、三つ編みにした女性で、瞳の色は緑だった。

服は赤いブルゾンに、白いロングスカートのワンピース。

「フィリア(Philia)……五年ぶりだな」

「そうだね……サタナエル……お帰り」

「ああ、ただいま」

「知り合いか?」

セリオンが割って入る。

「ああ、この女性は私の友人で名をフィリアという。フィリア、彼はセリオン・シベルスク。テンペルの英雄だ」

「セリオン・シベルスク!? あの暴龍ファーブニルを倒した!?」

「セリオン・シベルスクだ。初めまして」

「フィリアです。初めまして」

二人は握手をした。

セリオンは暴龍ファーブニルを倒した英雄ドラゴンスレイヤーである。

かつて、このツヴェーデンにはファーブニルというドラゴンがいた。

ファーブニルは人間に住みかを追われたため、人間を憎んでいた。

ファーブニルは人間を襲った。

ツヴェーデンに飛来したファーブニルはすさまじい被害をツヴェーデンにもたらした。

ツヴェーデン政府もファーブニルを討伐すべく、軍隊を送り込んだが、返り討ちに遭った。

そこで当時の政府が白羽の矢を立てたのが、セリオンだった。

セリオンはツヴェーデンのヴァイツゼッカー大統領からファーブニルの討伐を要請された。

それはセリオンを死地に追いやる行為であった。

セリオンはそれを受けた。

そうしてセリオンは暴龍ファーブニルを倒し、英雄となった。

「サタナエル……五年ぶりかな?」

「ああ、そうだな。最近は仕事が忙しくてなかなか帰郷できなかった。また、フィリアと会えて私はうれしい」

「サタナエルが意外とさびしがり屋だって、私は知っているよ?」

「まあ、そんなこともあるかもしれない」

「ふふふふ……」

「ははははは」

語り合う二人からは、どこか肩の荷が下りたように感じる。

それにサタナエルもどこか柔らかい。

柔和な感じがする。

そんなサタナエルはセリオンには初めてだった。

これは故郷の村ゆえに見せる顔なのであろう。

「セリオンさんも、ネーベルハイムにようこそ。私たちは歓迎します」

「ああ、俺は初めてこの村に来た。いろいろと教えてくれるとうれしい」

「サタナエル? ベレニーチェさんとはもう会ったの?」

「いや、これからだ」

「そう、じゃあ会ってあげて。きっとあなたのことを待っているはずだから」

「ああ、そうさせてもらう」

「ベレニーチェ? 誰だそれは?」

セリオンが質問をする。

「ああ、私の母の名だ。この村で研究をしているらしい。首都に来るよう何度も言ったんだが、首を縦に振らなくてな」

「ふふふ、ベレニーチェさんはここが気に入っているんじゃないかな?」

「そうかもしれない。ではセリオン。こっちだ。私が案内しよう」

「ああ」

二人はフィリアと分かれて、サタナエルの生家に向かった。


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