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ヘルデンリート・フィナーレ Das Heldenlied Finale ~Mein Bester Freund~  作者: 野原 ヒロユキ
俺は新しい時代の扉を開ける Ich will die Tür der neuen Zeit aufmachen
1/13

始まり

「おまえの目的は何だ?」

セリオンが尋ねる。

「フフフ、私の目的はな、この世界を滅ぼし、すべての生きとし生けるものを永劫の冬で滅ぼすことだ。かくして世界は破滅を迎える」

サタナエルが言う。

「そんなに世界が憎いのか?」

「私を受け入れぬ世界など滅びてしまえばいいのだ」

「そんなこと、俺が許すと思うか?」

「フッ、そうだな。おまえしだいだな」

セリオンとサタナエルの視線が交錯する。

もはやここにきて戦うしか、道はない。

セリオンは大剣をサタナエルは野太刀を構える。

セリオンは駆けた。

サタナエルも駆けた。

たがいの武器がぶつかる。

その瞬間、セリオンは目を覚ました。

セリオンは目を見開く。

セリオンは馬車の上で寝転んでいた。

陽光がセリオンの全身を照らしていた。

「夢、か」

セリオンはどうやら眠っていたらしい。

それにしても、生々しい夢だった。

どんな夢だったかはいまいち覚えていない。

それが不吉なものであったことは確かだが。

どうして自分はあんな夢を見たのだろう?

セリオンは夢の残滓を覚えていた。

親友と戦う夢……。

あれは未来を預言していたのだろうか?

「フッ、起きたか?」

セリオンの隣に一人の男がいた。

長い銀髪に、銀の瞳の男。彼は黒いコートを着ており、本を読んでいた。

セリオンが上半身を起こす。

セリオンは金髪の髪にアイスブルーの瞳、そして紺色の戦闘服を着ていた。

「サタナエル……」

セリオンが親友の名をつぶやく。

サタナエル・エレシュキガル(Satanael Ereschkigall)。

民間軍事会社アドヴェント社の戦士であり、セリオンの親友。

セリオン・シベルスク(Selion Sibersk)。

シベリア人の民族共同体テンペル(Der Tempel)の出身。

セリオンとサタナエルの出会いは、二つの組織が共同で軍事演習を行った時に由来する。

二人は戦士として激しく戦った。

その時は決着がつかなかった。

それ以来、二人はライバルとして互いを意識するようになった。

同時に親友になった。

もう二年は前のことになる。

「どうした? 浮かない顔をしているな?」

「ああ、夢を見ていた」

「夢?」

「ああ、不吉な夢だ」

「夢は未来を映し出すともいう……」

「冗談じゃない」

セリオンはそう思った。

あれが未来などあってほしくない。

何を好んで親友と対決しなければならないのか。

セリオンは親友のサタナエルを愛していたし、友情も感じていた。

あれは親友と真剣に戦う夢だった。

もしあれが現実になるならば、自分はサタナエルを殺さなくてはならない。

そんなことはしたくない。

それにあの夢はサタナエルが世界の敵対者となる夢だ。

どうしてそんな結末を望めるのであろう?

セリオンはサタナエルを見た。

「どうかしたのか?」

「いや、何でもない」

「本当か?」

「ああ」

「ウソが下手だな。おまえは明らかに動揺しているぞ?」

「……」

「まあいい。言いたくないならそれでいい」

サタナエルは再び視線を本に向けた。

彼が読んでいるのは哲学書だ。

馬車はゆっくりだが、確実に目的地に向かっていた。

白い天幕がゆっくりと揺れる。

太陽はさんさんと輝いていた。

空は晴れわたっている。

白い雲がときおり、陽光を遮っていた。

空気は新鮮で快適だ。

現在地はツヴェーデン(Zweden)の田舎だった。

ツヴェーデン連邦共和国。

国のリーダーは大統領。

連邦は州で構成され、各州には軍隊を持つ権利が認められている。

ツヴェーデンはエウロピア大陸の覇権国家だった。

セリオンとサタナエルは仕事に停職願いを届け出て、ツヴェーデンを旅していた。

二人とも仕事は充実していたが、二人は意気投合し、ツヴェーデン中を旅する計画だった。

その一環として、サタナエルの故郷に行くことにしたのだ。

聞くところによると、サタナエルは十歳までそこで過ごしたらしい。

「読んでいるのは哲学書か?」

「ああ、実に興味深い」

セリオンがサタナエルに声をかける。

サタナエルは本に視線を向けながら、応じた。

「よくそんな難しい本が読めるな」

「何、向き不向きが人にはあるということだ。哲学を理解するには抽象的な思考が不可欠だ」

彼が読んでいるのはセリオンでも知っている有名な哲学書だった。

Also sprach Zarathustra。ツァラトゥストラはかく語りき。

フリードリヒ・ニーツシェの代表的な著作である。

セリオンもこの本は手に取ったことがある。

もっともセリオンにはアレゴリーに満ちていてよくわからなかったが。

この本はサタナエルの愛読書であった。

「なあ、俺たちはずっと親友だろう?」

「どうした? 何か不安でもあるのか?」

サタナエルが本を閉じた。彼はセリオンを見つめる。

サタナエルはセリオンの言葉に動かされたようだ。

少なくとも、読書に集中できなくなったのは確かだ。

「俺はおまえと戦う夢を見た」

「私と戦う?」

「ああ、おまえは世界を滅ぼそうとし、俺はそれを止める……」

「はっはっはっはっはっは!」

サタナエルは声を上げて笑った。

いかにもそれがばかばかしいかのように。

「笑いごとか?」

「すまない。私はおまえを親友だと思っている。それは偽りなき心情だ。もちろん、私たちはライバルでもあるが。そんなことがあるわけがないだろう? 私は世界を滅ぼしたりはしない」

「そうだな……俺は少し、訓練につかれているのかもしれない」

「もう少しで、ネーベルハイム(Nebelheim)につく。私は待ち遠しくて仕方がない」

「ああ、おまえのふるさとだったな?」

「そうだ。暇がもらえる時は帰っていたが、最近は忙しかったからな。アドヴェント社の任務で忙殺されていた。五年ぶりか」

そう語るサタナエルはうれしそうだ。

セリオンには故郷がないからそれはわからない。

セリオンはツヴェーデンの首都シュヴェリーン(Schwellin)で生まれ育った。

つまり、首都生まれ、首都育ちなのである。

サタナエルは『天才』と呼ばれている。

彼はそれだけの才能があった。

彼が言うには戦うことしか能がないから、民間軍事会社に入ったのだという。

セリオンもサタナエルは天才だと思っている。

サタナエル自身は自分を『秀才』だと思っているようであったが。

彼は実際努力していた。

それを『天才』と呼ばれて、片づけられるのが嫌なのであろう。

そんな男も故郷には愛情を感じているようだ。

「うわああああああ!?」

馬車が急停止した。

何かあったのだろうか?

「どうかしたのか?」

サタナエルが御者に声をかける。

「グ、グラウ・ベーア(Graubär)だ! これでは前に進めない!」

セリオンが視線を先に向けると、灰色の大きなクマがいた。

まるで馬車を止めるかのように、立ちはだかっている。

「やれやれ、田舎はモンスターが多いな」

「待て、ここは私が行く」

「サタナエル?」

「本ばかり読んでいても、飽きてきたところだ。体の鈍りを治すにはちょうどいい」

サタナエルは長い刀『野太刀のだち』を取り出した。そのまま馬車から滑るように降りる。

グラウ・ベーアが突進してきた。

サタナエルは動じない。

セリオンにはサタナエルが不敵な笑みを浮かべているかのように思えた。

サタナエルの刀が振るわれる。

グラウ・ベーアはのけぞった。

サタナエルはその隙を逃さない。

サタナエルは刀でグラウ・ベーアの頭を貫いた。

グラウ・ベーアがあっさりと倒される。

死体は灰色の粒子と化して消え去った。

セリオンが見ていても、サタナエルの斬撃は際立っていた。

いったいどれほどの研鑽を摘めばあれほどの一撃を出せるのであろう。

剣は修練である。

スポーツと同様にひたすら修練するしかないのだ。

「まあ、こんなものか」

サタナエルが野太刀をさやにしまう。

サタナエルはセリオンの隣に戻ってきた。

「お疲れ」

「フッ、ただのウォーミングアップだ。これで前に進めるな」

グラウ・ベーアが消えたことにより、馬車は再び動き出す。

馬車の目的地はネーベルハイム。

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