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ヘルデンリート・フィナーレ Das Heldenlied Finale ~Mein Bester Freund~  作者: 野原 ヒロユキ
俺は新しい時代の扉を開ける Ich will die Tür der neuen Zeit aufmachen
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エスカローネ

回想。

二十年前。

十五歳のディオドラはその日、散歩するために公園に行った。

ディオドラは不安だった。

つい一週間前にセリオンを出産し終えたばかりだ。

ディオドラは赤子のセリオンをアンシャルに任せていた。

ずっと、アパートにい続けるのも精神的に悪いだろうと、アンシャルが気を利かせたのだ。

ディオドラは今、大変な重圧のもとにいた。

これからは出産し終えた子供を育てねばならないのだ。

ただ、兄のアンシャルがいっしょだとその不安も休まるのだった。

ディオドラは兄を信頼している。

兄なら立派な父親になることができるだろう。

これからセリオンを導いてくれる。

そうディオドラは信じていた。

ディオドラは修道女であったが、今は一介の婦人にすぎない。

子供を出産すると言う行為は修道院では認められない。

それは姦通と見なされる。

それが『神の子』であっても、である。

ディオドラは公園のベンチに座ろうとした。

その時、そこに人が倒れているのを発見した。

「どうかしましたか!?」

ディオドラが倒れている人に近づく。

それは女性だった。

一人の金髪の女性が倒れていた。

「もし……!?」

「あっ……Mein Kind……Aino」

「子供?」

女性は一人の子供を抱えていた。

セリオンと同じくらいだろうか。

この会話はツヴェーデン語で行われた。

ツヴェーデンは覇権国である。

そのため、ツヴェーデンの言語が事実上の共通語となっていた。

女性は子供という前に、ディオドラの分からない言葉で話した。

それはこの女性の手がかりのなるはずだったが、それを理解できないディオドラには有力な情報たりえない。

赤子はディオドラは直感で女の子だと思った。

女性はディオドラに女の子を渡すとそのまま息を引き取った。

「大丈夫ですか!? 今すぐお医者様を呼んできますね!」

女性はすぐさま病院に運び込まれた。

だが、処置もむなしく、女性はなくなった。

同時に警察が動いた。

警察は女性の身元を決定するものを発見できなかった。

つまり、この事件は警察にもお手上げだったわけだ。

問題はこの女の子をどうするかだった。

ディオドラは女の子を直接女性から受け取った。

その時の女性の顔がディオドラには忘れられない。

安堵したような顔……。

ディオドラに託せば、安心できるという顔……。

ディオドラはその女の子を自分の手で育てることにした。

「ディオドラ、いいのか?」

「ええ、兄さん。私、この子を育てるわ」

「だが、セリオンだけでも負担んだろう?」

「双子だったと思えば何ともないわよ」

「この女の子の名前は?」

「聞けなかったわ。もしかしたら、あの女性は言ったかもしれなったけど、私には聞き取れなかったわ」

「そうか。それでは名前をつけねばならないな」

「兄さん、お願いできる?」

「ああ、任せてくれ。そうだな……天空の乙女(Die Jungfrau des Himmels)という意味を込めて、エスカローネ(Eskaroone)とはどうだろうか?」

「エスカローネ……いい名前ね。あなたの名前はエスカローネよ」

こうして、エスカローネはディオドラのもとセリオンと共に育てられることになった。

「ああ、そうだ」

「どうしたの、兄さん?」

「これなんだが……」

「星のペンダント?」

「唯一の所持品だったようだ。私もこれはわからない」

「これが何かの手がかりになるといいんだけれど……この子に渡しましょう」

そう言うと、ディオドラは星のペンダントを赤子にかけた。



二十年後。

エスカローネ、ニ十歳。

その日アンシャル・シベルスクは小国フィンスキア(Finskia)の駐ツヴェーデン大使ブリギッタとテラスでランチを取っていた。

「フィンスキアもここ最近は経済の調子がいいようだな?」

「まあ、国民も自信をつけてきたというところでしょうか」

「小国とはいえ、フィンスキアの潜在能力は高い。サウナ外交も進んでいるようじゃないか」

この二人はノヴァーリア(Novalia)料理のパスタ料理を食べていた。

アンシャルとブリギッタはそれぞれの国を代表している。

アンシャルはシベリアを、ブリギッタはフィンスキアを。

ブリギッタは女性の大使だった。

駐ツヴェーデン大使はシベリア大使を兼任することが多い。

それでアンシャルとブリギッタは会話をしていたのだ。

「それで、わざわざ私のところに押しかけて来たのはどういうことだ?」

この会談は極秘で行われた。

「二十年前……この国にエウフェミア(Eufemia)様が来たことが分かっています。アンシャル・シベルスク殿、この写真に見覚えはありませんか?」

「この写真は……エスカローネが身につけているものだ」

「アンシャルさん」

「ああ、エスカローネか。ちょうどいい」

「何かあったんですか?」

「まあ、な。おまえはペンダントを持っていたな?」

「はい、これですか?」

エスカローネが星のペンダントを取り出す。

「!? アンシャル殿、その方は?」

「ああ、こちらはエスカローネだ。私の娘でもある」

「こんにちは。初めまして。エスカローネ・シベルスカです」

「……あなたが持っている物は生まれた時から身につけていましたか?」

「? はい、そうですが?」

アンシャルは嫌な予感がした。

アンシャルの嫌な予感はよく当たる。

「アンシャル殿、この女性にDNA検査を行ってもよろしいですか?」

「ああ、かまわないが。なぜだ?」

「二十年前の事件が再び現実に現れました。検査結果によっては人生が一変するかもしれません」

「どういうことだ?」

アンシャルは困惑した。

なぜ、検査が必要なのか?

大使は何を隠しているのか?

アンシャルには謎だったが、ここは大使の思惑に乗ることにした。

数日後、検査結果がアンシャルたち家族に知らされた。

知らされたのはアンシャル、ディオドラ、セリオン、エスカローネだった。

それは驚愕の事実だった。

「セリオン……私、不安だわ」

「俺がついている。心配するな」

「うん……」

セリオンは不安そうなエスカローネの肩を抱き寄せた。

エスカローネがセリオンにしがみつく。

そこにブリギッタ大使が現れた。

「検査結果を公表します。これはできれば内密にしていただきたいのですが」

「スルトには知らせる必要があるだろう。それ以外には会見まで避ける」

アンシャルは約束した。

「わかりました。検査結果では、エスカローネさんとフィンスキア国王との親子関係が確認されました。エスカローネさんはフィンスキア王女アイノ(Aino)姫です」

その瞬間、全員が息をのんだ。

事実は鮮烈だった。

エスカローネはフィンスキア王国の王女だった。

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