闇の魔道士
エスカローネは部屋に閉じ込められていた。
セリオンたちがダンジョンに入ると、エスカローネたちはオルフェオによって身柄を拘束されたのだ。
エスカローネだけはスルトたちとは別の部屋に隔離された。
「セリオン……」
エスカローネはいとおしい人の名を呼ぶ。
セリオン以外にもアリオンやサラゴンまでここにはいない。
アンシャルがついているが……。
今戦えるのはスルトと自分だけだ。
セリオンはどうしているだろう?
エスカローネたちは敵の奸計にはまったのだ。
スルトやシエル、ノエルは分断された。
おそらく今回のミッション自体がオルフェオの陰謀だったのだ。
ロッタは正しかった。
事前の情報があったにもかかわらず、エスカローネはつかまってしまった。
今、エスカローネにできることはセリオンの安否を気遣うことだ。
セリオンなら大丈夫。きっと、無事なはず。
セリオンはシベリア人の英雄なのだから。
とその時扉が開いた。
エスカローネは立って、客を迎えた。
「姫、一人にさせて申し訳ありませんでした」
「オルフェオ・オクセンシェルナ……」
そこに悠然と入って来たのはオルフェオだった。
オルフェオは自信に満ちた顔をしていた。
「私をスルト団長たちといっしょにしてください」
エスカローネは強く要求した。
「姫、あなたがいるべき場所はここですよ?」
「何をどう言われようと、私の心はみんなと共に在ります」
「そうですか。ですが、無駄な期待はしないほうがいい。セリオン・シベルスクは死んだ」
「いえ、生きています!」
「なぜ、そう思える?」
「セリオンを私は信じていますから!」
「無駄なことだ! スヴァルトの強さにセリオン・シベルスクはかなわない!」
「セリオンは必ず勝ちます!」
「なぜ、事実を受け入れない!?」
エスカローネは思った。
この男は明らかに動揺している。
自信の仮面ははがれた。
それはエスカローネに希望を抱かせた。
セリオンはきっと生きている。
みんな無事に帰ってくる。
今エスカローネにできることはみんなの無事を、最愛の恋人の無事を信じることだ。
「なぜだ!? 私の計画は完ぺきだった! なのになぜあなたは私の愛を受け入れない!?」
「あなたが愛しているのは私への幻想です! 私は愛玩動物ではありません!」
「!?」
その時、オルフェオは信じられないというような顔をした。
オルフェオにはエスカローネが自分を愛さないことが理解できないのだろう。
エスカローネがオルフェオを愛することはない。
エスカローネが愛するのはただセリオンだけだ。
セリオンはエスカローネの半身のようなものだ。
オルフェオは踵を返して、去っていった。
ドアが乱暴に閉められた。
「セリオン、私はあなたを信じているわ」
エスカローネの独白は誰も聞いていなかった。
セリオンたちはダンジョンからシュトックホルムに戻ってきた。
四人はトラックで、王宮の前までやって来た。
「つきました! 王宮前です!」
「ありがとう」
セリオンがお礼を言う。
地上に残った騎士たちは陰謀にかかわってはいなかった。
セリオンたちは騎士たちと共に王宮に帰って来たのだ。
「よし、トラックから降りよう」
アンシャルが主導する。
セリオンたちは王宮を見た。
すると。
「なんだあ、あれ!?」
アリオンが驚く。
「跳ね橋が上がっておりますな」
「オルフェオはどうしているんだ?」
サラゴンとアンシャルが王宮を見る。
よく見ると、兵士たちが周囲にいた。
セリオンは兵士に状況を確認する。
「すまない。ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
「今どういう状況だ?」
「はあ……それが……王宮には魔法生物が放たれていいて……」
「魔法生物?」
「魔導士が召喚する生物だ。魔物とは若干違うが」
「アンシャル、どうすればいい?」
「そうだな、どうにかして王宮に侵入できればいいんだが……」
王宮の周囲は堀と水で囲まれていて、直接侵入することは不可能だ。
セリオンたちは途方に暮れた。
「あら? セリオンさん?」
「? ロッタ? どうしてここに?」
「それはこっちのセリフ。どうしてこんなところにいるの?」
そこに現れたのはロッタ・スヴェルドのリーダー・ロッタだった。
「ああ、実は、俺たちはシュヴィーデン王国との合同ミッションを行ったんだ。もっともそれはオルフェオに仕組まれたものだったが。俺たちはダンジョンに行ったんだ。そこで闇黒騎士に襲われた。それははねのけたんだが、急いで帰ってきて王宮に戻ろうとしたらこの状況だ」
「ふーん、なるほどねえ。いいわ。助けてくれた恩もあるし、私が協力してあげる」
「協力?」
「私の本名はシャルロッタ(Charlotta)って言うの」
「シャルロッタ?」
「この国の王女の名前よ」
「君は王女だったのか」
セリオンは既視感の正体を悟った。
青みがかかった髪……。
それはクリスティアーナ女王と同じ髪だ。
ロッタはクリスティアーナ女王の娘か。
「それでどうする? 私はお母様を助けたい。あなたは仲間を助けたい。利害は一致しているわね?」
「ああ、そうだな」
「それで、どうするの? オルフェオを倒してくれるんでしょう?」
「まあ、そうだな」
「ボートが用意してあるわ」
「ボート?」
「秘密の地下水路があるのよ。ただし、ボートは二人しか乗れないわ。私以外にもう一人だけしか来れないけど。それでもついてくる?」
「当然だ。いいだろう、アンシャル?」
セリオンはこの場の最高責任者であるアンシャルに許可を求めた。
アンシャルはもちろん、賛成する。
「ああ、それしか手はなさそうだな。セリオン、おまえに頼むことになる」
「セリオン、頼んだぞ?」
「俺も闇の魔導士と戦ってみたかったんだけどなあ。ここはセリオンに譲るぜ!」
三人とも、賛同してくれた。
となれば、あとは行動するだけだ。
「じゃあ、行くわよ? ついてきて」
セリオンはロッタの後について行った。
エスカローネ、シエル、ノエル、待っていてくれ。
セリオンとロッタはボートに乗った。
ロッタが漕いで、地下水路を進んでいく。
「こういうところは王族が通るのか?」
「まあね。いざという時の緊急通路よ。オルフェオもさすがにここまでは知らないわ」
地下水路は暗かった。
ほとんど光がない。
セリオンは明かりを頼りに周囲を観察する。
「私ね、お母様とはあまり接する機会がなかったのよ」
「ん?」
「独り言。私は教育係に預けて育てられたわ。だから、お母様とはあまり交流がなかったの」
「……」
セリオンはただ一点を見つめる。
その視線はロッタの顔だ。
「教育係はあのグスタヴよ」
「あの老人か」
「私はいつもわがままばかり言って、周囲を困らせていたわ。私だって王族が普通の家族になれないことくらいわかってる。ただ、昔はわからなかったのよ。お母様は私を愛していないの? そんなことを考えていたわ」
セリオンはただロッタの言葉を聞く。
ロッタは昔を懐かしむように話し出した。
「頭では理解してるつもり。けど、感情は、私の感情は納得していなかった……」
「ロッタはどうしたいんだ?」
「え?」
「母親と仲良くしたいんだろう?」
「私は……」
「ん? 階段が見えたな」
話しはここで終わった。




