シュヴィーデンの歓迎
セリオンたちは謁見に招かれた。
セリオンたちの前には玉座に座った女性。
シュヴィーデン女王クリスティアーナ(Christiana)だ。
彼女はやや青みがかかった長い髪に、赤いドレスを着ていた。
女王のそばにオルフェオが立っていた。
「本日はテンペルの方々とお会いできてうれしく思います。シュヴィーデン王国は国を挙げてあなたがたを歓迎いたします」
「女王陛下と謁見できて我々もうれしい。テンペルとシュヴィーデン、この交流がよく行くことを私は願う」
スルトが皆を代表して答えた。
「具体的なことはオルフェオに任せております。本日は宮廷で晩餐会を予定しています。今夜はシュヴィーデンのもてなしを楽しんでください。それではスルト総長、晩餐会でまたお会いしましょう」
そう言うと、クリスティアーナ女王は退席した。
オルフェオが残される。
「それではスルト総長、こちらへどうぞ。ダンジョンの件について具体的に話し合いましょう」
「それでは案内してもらおう。アンシャル、同行してくれ。ほかの者は晩餐会の準備をしておくのだ」
スルトはそうセリオンたちに伝えると、オルフェオの後について行った。
こうして謁見は終わった。
宮中晩餐会――。
シュヴィーデンでも社会的に上層にいる人たちが招かれた。
出席者たちは音楽を聴いたり、話し合ったり、ダンスを踊ったり、食事を食べたりした。
セリオンはこういう場が苦手だ。
それはエスカローネも同じだろうが。
セリオンは騎士の制服でこの場に臨んでいた。
エスカローネはいつもの格好だ。
「何というか、この場は緊張するな」
「セリオンも? 私も同じよ。ふふっ、私たちは似ているわね」
「うまいー! お~い、セリオン! これうまいぜ!」
「アリオン……おまえはそればっかりだな」
アリオンはグルメに目がない。
宮廷で出される料理はアリオンには最高だろう。
「ふふふ! アリオン君らしいわね」
「アリオン! いくら何でも少しは自重しなさいよ!」
「そーだよー。アリオンは羽を伸ばしすぎだよー」
シエルとノエルがアリオンをたしなめる。
この二人はいつもこうだ。
アリオンとはあまり仲が良くない。
というよりも、この二人はアリオンをライバル視していた。
実のところ、アリオンの学校での成績はトップクラスだ。
二人はシベリア語が母語ではないため、苦戦している。
シエルとノエルはブリュッセル語が母語で、ツヴェーデン語は学んでいたが、シベリア語は一から習得しなければならなかった。
アリオンはシベリア語とツヴェーデン語のバイリンガルである。
「なんだよ。別に料理を食べるのは俺の自由だろ?」
アリオンがムッとする。
スルトを見ると、クリスティアーナ女王と会話していた。
その雰囲気は和やかだ。
「皆様方、晩餐会は楽しんでおられますかな?」
「オルフェオ……」
セリオンがつぶやく。
そこに宰相のオルフェオ・オクセンシェルナが現れた。
横には黒い甲冑の騎士を連れている。
「紹介いたしましょう。こちらは側近騎士のスヴァルト(Svart)です。それではごあいさつを」
「……スヴァルトだ。ダンジョンではよろしく頼む」
「セリオン・シベルスクだ。こちらこそ、よろしく頼む」
二人はそう言うと握手した。
セリオンの手にスヴァルトの冷たい手が当たる。
「あいさつも済んだところで、フラウ? 私と一曲踊ってくれませんか?」
オルフェオがエスカローネを誘う。
「あ、あの、私はダンスは踊れないんです」
エスカローネは緊張して。
「ご安心を、私がリードいたしますので」
「もういいだろう? 彼女はいやがっている。それとも、シュヴィーデンの紳士はいやがる女性に無理やり踊らせるのか?」
セリオンが間に入った。
「ははは、これは手厳しい。そういうことであれば致し方ありません。それでは皆様、お楽しみください。行くぞ、スヴァルト?」
「はっ」
二人は去っていった。
「あの男、またエスカローネに近づこうとしていたな」
「私、あの人は苦手だわ」
「ふーん、あの人剣は使えるのかな?」
アリオンが疑問を抱く。
「どうだろうな。体の付き具合や立ち振る舞いから、彼は剣士ではなく、魔法使いじゃないか? それよりも、あのスヴァルトとかいう男は間違いなく剣士だ。気をつけろ」
「? 何を気を付けるんだよ?」
「あいつからはそこが読めない何かを感じた」
「なんだか、抽象的ね?」
「まあそうとしか言いようがないんだ。今度のミッション、もしかしたら何か起こるかもしれないな」
「起こるって何がだよ?」
「それは俺も分からない。ただ、警戒はしておくんだ。何かあってからでは遅いからな」
セリオンたちは後日、シュトックホルムの観光に出た。
シュトックホルムの美しい町並みが広がる。
セリオンはこの町並みを歩けるだけで、この国に来たかいがあったと思う。
エスカローネはセリオンと手をつないでいる。
「すてきな町並みね」
「ああ、そうだな」
「ツヴェーデンとは違う趣がとてもいいわね」
「ああ、うっ!?」
その時セリオンはある人とぶつかった。
「すまない。気を取られていた」
セリオンはその人物の顔を見る。
それは……。
「なっ!?」
その人物はサタナエルだった。
セリオンの目の前にサタナエルがいた。
セリオンはとっさに離れて、大剣を出そうとした。
「ありえない……おまえは俺が……」
サタナエルはフッと笑うと、氷雪を降らせて、去っていった。
「っ!? 待て!」
「!? セリオン!?」
サタナエルは氷雪をまき散らせながら、路地裏に去っていった。
セリオンはサタナエルを追う。
セリオンも路地裏に入る。
「おまえは……サタナエルなのか?」
「もちろんだとも。久しぶりだな、セリオン」
「おまえは生きているのか?」
「当然だ。川に落ちただけで私が死んだと思うか?」
「これは幻か?」
「その通り。これは実体ではない。残念だがな」
「おまえはどこにいる?」
「私はシュトックホルムの王宮にいる」
「何だと?」
「フッ。よかったな、セリオン。シュヴィーデンでミッションがあるらしいじゃないか」
「何でそれをおまえが知っている?」
「私は知っていて当然だとも。さて、セリオン、ここからが本番だ。こちら側に来る気はないか?」
「何を言っている?」
「闇の側に来るんだ、セリオン。そして闇に染まって私のパートナーになってくれ」
「おまえは闇に堕ちたのか?」
「違うな。もともと私は闇の側に立っていた」
「それがネーベルハイムでの虐殺か」
「それで、どうする?」
「地獄に落ちろ!」
セリオンは大剣を振りかぶってサタナエルの頭に振り下ろした。
幻は消えた。
「フフフフフ、それでいい」
サタナエルの声が響いていた。




