第20話 真実の声、裏切りの記録
それは突然だった。
王都の各広場に設置された黒い投影石が、
夜の帳が下りる直前――一斉に光り出した。
街角の行き交う民が足を止める。
映し出されたのは、一人の男。
色素の薄い瞳に、皮肉な笑みを浮かべた男――魔王、ヨルン=ヴァルトだった。
「……今宵、皆さんにお見せするのは、ほんのひとつの“真実”です」
「偉大なる討魔連盟、その中枢にある者たちが
どのような“倫理”と“忠誠”で動いているかを――お確かめいただきましょう」
彼が帳簿を開くことはなかった。
代わりに、投影石の光がもう一つの映像を映し出す。
それは――王国政務局の密室だった。
夜更け、薄暗い室内で机を挟んで向き合う男女。
男はアゼル・フェルダイン。リアーナの夫であり、討魔連盟の政務中枢を担う男。
女は、彼の傍らに侍る可憐な補佐官――セレナ・レヴィル。
「……そうだ、リアーナはもう役目を終えた」
アゼルの声が、明瞭に響く。
「聖女の肩書も、魔力も、弱まっていく一方だ。
力が消えたら離婚する。――君との未来を、正式に築く」
セレナが静かに微笑む。
「……ありがとうございます、アゼル様。
わたくし、信じていました」
「リアーナ様は“優しすぎる”のです。王国のためになりませんわ。
でも私は……“正しく貴方の剣”になります」
彼女が差し出した指先に、アゼルが口づけをする。
その瞬間、王都の広場は静まり返った。
誰も言葉を発しなかった。
ただ、リアーナの顔を思い浮かべていた。
あの穏やかな瞳。
誰にも強く命じなかった彼女の姿を――
ヨルンの声が、静かに投影石から響く。
「これは、聖女が力を失った時に、
その“正義”と“忠誠”がどう扱われるかの記録です」
「討魔連盟は秩序を守るという。
では、彼らの秩序とは――“使えなくなった者を切り捨てる”ことなのか?」
「この国の正義は、“力がある者”にだけ微笑むのか?」
その問いかけに、民衆は黙って耳を傾けた。
怒りでも、悲しみでもない。
それは、共感だった。
「……あの人も、私たちと同じだったんだ」
「信じて、支えて、でも裏切られた」
リアーナという存在が、聖女でも魔王でもなく、
ただ一人の“裏切られた女”として心に届いた瞬間だった。
映像の最後、ヨルンは言った。
「真実とは、剣でも魔法でもない。
誰かが目を逸らすのをやめた時、それは力になる」
「私が掲げる旗は、“誰にも奪われない声”のためのものだ」
投影はそこで途切れた。
王都の空気は、今までにない重さに包まれていた。
その夜から、“聖女リアーナ”を支持する者が爆発的に増加する。
そして――
討魔連盟の中枢、アゼルとセレナの信頼は、
“公私両面”で一気に揺らぎ始めた。




