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ファーストペンギン〜世界で最初に“魔王“になった聖女〜  作者: 風谷 華


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21/22

第21話 最後の問い

討魔連盟本陣。

王都リュミエール南方の台地に築かれた堅牢な陣営には、連日千を超える兵が集い、

騎士たちの号令と訓練の音が響いていた。


だがその日、昼の太陽が陰り始めた頃。

――本陣正門が、音もなく開いた。


兵士たちが一斉に振り返る。


そこに立っていたのは、漆黒のドレスを纏い、風に髪をなびかせた女。


かつて“聖女”と呼ばれ、

いま“魔王”と称される女――リアーナ=カリステルだった。


彼女は一人だった。


従者も護衛もなく、ただ自らの足で、この討伐軍の中心へと歩みを進めていた。


剣も魔法も使わず、口を開くことさえせず。


ただ静かに歩いてくるという事実だけで、

――本陣の空気が張り詰める。


 


「魔王、現る……!」


最前線の兵士が声を漏らすが、誰も剣を抜こうとはしなかった。


 


なぜなら――その姿に、“恐怖”はなかった。


それどころか、

まるで「この場にいて当然」のように、彼女は佇んでいたのだ。





リアーナが静かに口を開いたのは、本陣中央――作戦司令塔の広間だった。


その場には、王族分家出身のアゼル・フェルダインと、

その傍らに並ぶ政務補佐官見習い――セレナ・レヴィルの姿もあった。


リアーナは彼らの顔を見ても、何の表情も浮かべなかった。


ただ、静かに言葉を紡ぐ。


 


「私は、戦いに来たのではありません。

あなたたちに、“最後の問い”をしに来ました」


 


一拍の沈黙ののち。


彼女は、投影石を取り出す。


それが発光し、空間に浮かび上がったのは――

既に王都で流れた、アゼルとセレナの密会の記録だった。


 


“……リアーナはもう終わりだ”

“魔力が弱まった聖女に、価値はない”

“私はセレナと再婚し、この国を導く”


 


その言葉が、再び場の空気を冷やし切った。


リアーナは目を閉じ、言葉を継ぐ。


 


「これが、“正義”ですか?」


「人を切り捨てる秩序。

力のある者を讃え、力を失った者を廃棄する体制――

それを、“正義”と呼ぶのなら」


「私は、あなた方の敵で構いません」


 


兵士たちの中に、呻くような声が漏れた。


 


「……なんで、俺、戦ってたんだ……」


「リアーナ様、聖女の時も、こんな声だった……変わってない」


「本当に“魔王”なのか……?」


 


誰も彼女を責められなかった。


なぜなら、その場にいた全員が知っていた。


あの密会の言葉は、

権力に生きる者たちが――都合のいい“理想の女”だけを望んでいたということを。


そしてリアーナは、それでも戦わなかった。

復讐も罵倒もせず、ただ、“問い”を差し出した。


 


「次に選ぶのは、あなたたちです」


「命じられて動くのか。

それとも、自らの意思で、生きるのか」


 


そう言って、リアーナは一礼をし、背を向けた。


誰も剣を抜かない。


誰も止められない。


なぜなら、彼女が差し出したのは“敵意”ではなく――問いだったから。


 


リアーナが去ったあと。


広間の空気は、もはや“討魔”を語る場ではなかった。


静かな崩壊が始まっていた。


 


正義とは、命令か。

自由とは、混沌か。


その問いが、人々の心に根を張り始めた。


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