治療開始 16
3日後、私の体調は変わらない。それどころか身体の不快感は少しずつ大きくなっている感じがしている。
「本当に薬、効いているのかな? 副作用って聞いたけど、こんなこと、ずっと続くなら投薬を止めて欲しいって思うことがある。でも、自分のためだ。文句を言わず頑張ろう」
心の中で独り言を言っている。不安だし、気分は優れないけど、自分がしっかりしていないとお父さん、お母さん、先生、看護師さんたちに心配をかけてしまう。何よりも、最近毎日見舞いに来てくれる坂本に申し訳ない、という思いでいる。同室の人に対しても同じような気持ちでおり、皆さん病気で入院しているところで暗い雰囲気でいれば心理的に良くないので、人の前では明るく振舞っている。だから、ベッドの周りのカーテンが閉まっている時とか、毛布をかぶっている時にだけ少しだけ苦しい表情をしている。自分の心の中でも、そういう時だけ弱い自分でいることを認めている。
この日もいつものように午前中の予定が行なわれた。午後には今日も両親が来てくれることになっているし、坂本も見舞いに来てくれることになっている。私はその時間を楽しみしており、それがあるから元気なふりを周りにできるのかもしれない、と思っている。
朝、いつもの検温の時、看護師さんが今日は午後2時、診察室に行くようにと言われた。病状についての問診があるのだと理解した。見舞いに来てくれる時間が重ならなければ良いなと思う自分がそこにいた。
予定の時間になった。両親も坂本もまだ来ていない。私は診察の時間に来てくれたら申し訳ないと思いながら病室を出た。
診察室のドアを開けると私は驚いた。見舞いに来ると思っていた両親と坂本がそこにいたのだ。
「・・・どうしたの、みんな? 何でここにいるの? 私、病室で待っていたのに」
想定外のことだったので、私は瞬間的に言葉が出なかった。と同時に、この雰囲気に今日は診察ではないことが分かった。
「今日、診察の日じゃなかったの?」
両親がいることは百歩譲ったとしても、坂本がここにいる意味が理解できなかった。
「さくらさん、お座りください」
主治医が促した。私はその言葉に従った。ただ、身体が重く、その動作はゆっくりだった。
「どうですか、体調は?」
周りに親しい人がいる中で、本当の体調を言うのを私はためらった。それよりもいつもと違うこの雰囲気がとても気になり、自分のことを言うより前にその理由を尋ねなければならないと思った。
「体調のことの前に、何故ここにみんながいるんですか? これでは話したくても話せません」
いつもと異なる強い口調で言った。その様子に周りは少々驚いたが、私の気持ちを推し量ってもらえれば分かるはずだ。そういうつもりで言った。
「驚くのも仕方ありません。でも、ここにいる皆さんはさくらさんのことを真剣に考えている方ばかりです。だから今日のお話の席に集まっていただきました」
主治医が静かに答えた。
「何か話があるというなら両親は分かります。でも、何で坂本君がいるんですか? 私、坂本君に病気のこと、あまり知られたくない。病名は伝えてあるけど、もし今日のことが深刻な話ということであれば、余計な心配をかけるかもしれない。坂本君はこれから勉強を頑張って、志望校に合格しなければならないんです。私、坂本君の負担になりたくない」
私はいつもの冷静さを失っていた。同席してるのが両親だけならともかく、坂本には絶対に心の負担をかけたくなかったのだ。ただでさえ最近は毎日見舞いに来てくれるし、そんなことだったら自分の勉強ができないじゃないか、という思いがあったのだ。
またしばらく、沈黙の時間が過ぎた。しばらくして、父が口を開いた。
「今日はいろいろ話さなくてはならないことがある。先日、私たちは坂本君といろいろ話をした。そして偶然にも坂本君と主治医の佐々木先生とは知り合いだったんだ。お父さんも医者で、佐々木先生の先輩だという。坂本君も医学部を目指しているそうだし、今、さくらの精神的な支えになってくれていることを知っている。中途半端な気持ちでここに来てくれたんじゃないんだ。落ち着いて先生の話を聞いてくれ」
私が知らなかった坂本のことを父から聞き、少し心のわだかまりが解けたような感じだった。坂本のことと私の気持ちがみんなの前で言われたことに少し照れくさい気持ちもしたが、逆にそのことでこれまで伏せていたことを隠さなくても良いんだ、という思いも出てきた。そのことで最初に感情的になった部分も少し落ち着きを取り戻し、主治医の話をしっかり聞こうという気持ちになっていた。




