治療開始 14
「今日、もう少し時間はある? 君のこと、主治医の先生にも話した。癌の告知となると、どうやって心を支えるかが大切ということだった。もし良ければ先生からの話、君にも聞いてもらえないかと考えた。どうだろう?」
「そんな大切な話、逆に僕が一緒に伺っても良いんですが? お父さんとも今日初めてお会いしたばかりだし、他人が首を突っ込んでも良いのかなって思いますが・・・」
「君が嫌であれば断ってもらって構わない。私は確かに今日初めて君にあったが、信頼は時間の長短だけで築かれるものじゃない。直感が必要なこともある。私たちの勝手なお願いだし、君のご両親にもお話ししていない頼み事だ」
「僕は自分で判断できます。親からも自分の判断を信じることの大切さをいつも言われています。明らかにおかしいことは断固として断りますが、この話は一人の人間の病気に打ち勝つためのことです。将来、医者になることを考えている自分が断る理由はありません。それに繰り返しになりますが、それだけではない僕のさくらさんに対する思いもあります。僕で良ければ同席させていただきます」
坂本は力強く答えた。両親はその力強さに頼もしさを感じていた。
父と母は坂本の確認が取れたことでナースステーションに行き、主治医との面会をお願いした。事前にその可能性を主治医から伝えてあったので5分後に3人で診察室に行くことになった。
ドアを開けると主治医が待っていたが、坂本の顔を見るなり驚いた顔をした。
「あのう、もしかしたら敦君?」
「はい、主治医って佐々木先生だったんですか?」
「・・・驚いた。高野さんの見舞いに来ていたのは敦君だったんだ。大きくなったね。もう高校生なんだ。君と最後に合ったのは小学生6年生の時だから、もう3年以上前になるね」
2人の会話に両親はもっとびっくりしていた。
「坂本君、先生の知り合いだったの?」
父が言った。
「はい、敦君のお父さんは私の先輩なんです。いろいろお世話になって・・・」
「じゃあ、坂本君のお父さんのお仕事はお医者様なの」
母も驚いた声で言った。
「だからさくらに対する態度や病気の人への接し方が違ったのね。さっき、医学部志望という話も理解できる。お父さん、坂本君にお話しして良かったわね」
母は父の方を向いて言った。
「こんな偶然、あるんだな。先生、坂本君、よろしくお願いします」
「敦君だったら話しやすい。前フリなしで話すと、高野さん、ウェルナー症候群という前提がある」
「それは高野さんも知っていますし、それに動じない、気丈な振舞についても理解しています。だからこそ力になりたいんです」
「敦君ならそう言うと思ったよ。やっぱりお父さんの影響かな。でも、高野さんの病状、それだけじゃないんだ」
「さっきご両親から伺いました。肺癌だそうですね。この癌は進行が速い場合があるって聞いています」
「現在は投薬で対応しているけど、効果は芳しくない。だから薬を強いものにし、放射線療法も取り入れたいと考えている。外科的な処置を最初に考えるべきだったかもしれないけれど、若い娘さんに将来も考え、身体に残るような傷を付けたくない。だから投薬で対応しようと思った。それだけで効果が出れば多少の副作用は何とか説明できる。でも、切らないまでも放射線療法となるときちんと病名を告知しなければならない」
「僕も父から履いていますが、病名の告知、特に癌の場合は慎重にしていると聞いてます。病名を知ることで絶望感に苛まれる方がいるからと・・・」
「さくらさんはその前にウェルナー症候群ということを聞いている。あのくらいの年頃であれば、ウェルナー症候群と耳にしても落ち込むと思う。でも、さくらさんはそれに耐えた。心の底は分からないが、普通に考えると必死に頑張っていると思う。そこに世間的には不治の病と認識されている癌と知れば、それまで何とか支えていた心が崩れてしまうかもしれない、と心配しているんだ」
「僕も父から患者さんの心の強さの大切さは聞いています。だから、少しでもそういう患者さんの役に立てる医者になりたいと思っているんです。佐々木先生だからお話ししますけど、高野さんにはそれだけの気持ちでいるわけではありません。入学してから、容貌のことでクラスのみんな、特に女子から変なことを言われたけど、それに耐えるだけの強さ、その上で頑張ろうという気持ちが見え、クラスメート以上の気持ちで見ています。だから、また一緒に勉強できるようにと夏講のノートなどを持ってきて、話をさせてもらっています。何かパワーをもらえるんですね。高野さんといると・・・」
両親はこの話を顔を見合わせながら黙って聞いていたが、目にはうっすらと涙が見えた。




