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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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治療開始 6

 その日の午後、いつものように母がやってきた。

「さくらちゃん、昨日から元気がないみたいね。体調、大丈夫?」

「・・・うん。午前中、いつもの看護師さんに話したんだけど、吐き気がしたりして、食欲がないの。それで毎日やっている点滴のことを聞いたんだけど、ビタミン剤だって。私もスマホで調べたんだけど、確かにビタミンが私の病気にも効果的なケースがあると書いてあった。同時に過剰摂取の場合、今の私みたいな副作用もあるらしい。私、ビタミンって言うと身体に良いモノと思っていたけれど、必ずしもそうじゃないんだね。私の場合、薬的な感じで使っているから副作用が出たのかな。その話を見て少し安心したけど、食欲が落ちて食事も残しているから、それで元気がないように見えるのね。でも、理由が分かったから、私、無理してもこれからちゃんと食べて、みんなに元気なところを見てもらう。だからお母さん、安心して」

 私はできるだけ明るく答えた。その様子を見て母は涙ぐんでいた。それは治療の本当の目的を知っているからで、それが言えないところがあるからだ。だから母はここでは何も言えず、感情の方が出てしまったのだ。

 母は少しでも私の気持ちを明るくしようと、話を別の方に振った。

「そうそう、今日、また坂本君、お見舞いに来てくれるって聞いたけど・・・」

「お母さん、覚えていたの? そうなの、3時くらいだと聞いていたけど、せっかく来てくれるんだから、元気な顔を見せないといけないね。坂本君まで落ち込ませてはいけないよね」

「そうね。さくらちゃんがそういう気持ちでいれば、今の体調不良なんか吹き飛ばせるよ」

 いつものように私の世話を一通り終えた後、母は病室を出ていった。

「さくらちゃん、ちょっと買い物に行ってくるね」

 母はそう言ったが、実は主治医のところに行くつもりだった。予約を取っていたわけではないので、ナースステーションで話ができるかどうかを確認しなければならないが、私が薬の副作用を感じているという話を聞き、心配になったのだ。

 幸い、少しだけなら時間が取れるということだったので、すぐにセッティングしてもらった。話す場所は診察室だった。母はいつものようにノックして入室したが、その足取りは重かった。

「先生、お時間をいただき、申し訳ありません。さっき、さくらから副作用の話を聞いたもので・・・」

「はい、その件については担当の看護師から聞いております。どうしても抗がん剤の場合、副作用が出る可能性があります。弱い薬を使っていますが、それでも出ないということはありません。ただ、看護師の機転でビタミン剤ということにしていますが、ウェルナー症候群に効果的なことがあるという報告もありますし、その過剰摂取による副作用については重なるところがあります。さくらさんの場合、賢いお嬢さんですし、自分の病気についてもネットで検索して大体理解されたようです。その上で対応しようという強い気持ちをお持ちのようなので、おそらく看護師から聞いたことを検索されたと思います」

「そうなんです。そのことはさくらから聞きました。そしてそのことで今の状態について納得したようです。でも、今後癌が進行した場合、そのことがさくらの気持ちがぐらつかないかと心配しています」

「・・・ご心配のこと、分かります。それで薬の効果を確かめるためにも、明日、CTを撮ろうかと思っています。病巣が小さくなっていれば良いのですが、そうでない場合、強い薬にするか、外科的な対応に踏み切らなくてはならないかもしれません。さくらさんに心理的なストレスを与えないためと、若い娘さんですからできるだけ身体にメスを入れたくない、ということで選択したのですが、場合によってはその時点で最良の方法を取りたいと思います。娘さんには酷な告知になるかもしれませんが・・・」

 この話になった時、医者も声が小さくなった。母はその話にただ頷くだけだった。


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