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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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治療開始 4

 それから3日後、また坂本が見舞いに訪れた。同室の人たちの視線が注がれる。これまでと異なる雰囲気に坂本は違和感を覚える。

「この前の時と感じが違うな。何かあった?」

「ううん。何もない」

「でも、何か違う。僕の動きや言葉に反応するって感じなんだ。この前、変なことでも言ったのかな?」

「そんなことないと思う。気のせいだよ」

 本当は部屋の雰囲気が違うのは私が恋バナをしたせいなのだが、そんなことは絶対に言えない。でも、部屋の皆は坂本が何を話すか、それに対して私がどう答えるかなど、2人の会話を耳立てて聞いている。もちろん、同室の人たちはそういう雰囲気を出さないようにしているつもりだが、坂本も鈍感ではない。これまで見舞いに来た時の雰囲気も知っている。だからこそ、違和感があるのだ。

 私はそのことを察して談話室のほうに行こうと誘った。

「ごめんね、坂本君。嫌な気持ちにさせたみたいで」

「嫌な気持ちなんてないよ。ただ前回と違った感じがしただけ。あの病室で若い女の子は高野さんだけなんで、皆さんのマスコットみたいになっているのかな? 高野さん、気が利くし、多分、病室でも会話の中心になっているんじゃないかな」

 確かに会話の中心になっている部分はある。そしてそれは坂本のことが関係しているということが喉まで出かかったけれど、それを言ったら見舞いに来てくれないかもしれない。私にとって、それは大変辛いことなので、絶対に言えないことだった。だから、会話をなるべく違った方向に持っていくようにした。

「ねえ、坂本君。私、今、なかなか勉強できていないけど、2学期から大丈夫かな。心配だよ」

「だからノートを持ってきているじゃないか。夏講のノートだけど、僕も夏休みはこれだけ。高野さんにはこうやって届けているから、僕たちの勉強の進度は同じ。2学期も一緒のスタートになる。僕たちまだ1年生だろう。だから、夏講に行っている人の話を聞いても同じようなものだし、学校で教わったこともあまり進んでいないだろう。これからしっかりやれば問題ないよ」

「そうかなぁ」

「もし、遅れたと感じたなら、僕がサポートするよ。どこまでできるか分からないけど、復習にもなるし、自分にも目標ができる。だから、そういうことを迷惑をかけているなんて思わず、頼ってよ」

 私は坂本の言葉を聞いてとても胸が熱くなった。そして、目にうっすらと涙が滲んだ。

「高野さん、どうしたの?」

「えっ、大丈夫。ちょっと目にゴミが入ったみたい」

 私の言葉に坂本が顔を近づけてきた。もう少しで額が触れそうになった。

「ごめん。気になったもので・・・」

 坂本の行為に、私は赤面した。談話室には他の患者さんやお見舞いの人がいる。そんな場に似つかわしくないことになり、私たちは無言になった。角度次第ではキスでもしているかのように見えたかもしれない。坂本もそう考えたのか、やはり顔が赤くなっている。

「高野さん、喉が渇いたね。冷たいものを買ってくるよ。何が良い?」

 私としては坂本が買ってきてくれるものなら何でも良いのだが、妙に暑いのでさっぱりした炭酸系の飲み物をお願いした。

「ごめんね、お見舞いに来てくれたのにお金出させてしまって」

「こんなこと、気にするなよ。こういう時って、男の方が出すものなんだろう?」

 私は坂本の言葉にドキッとした。

「こういう時って、デートしている時のことかな?」

 小さく心の中でつぶやいた。

 買ってもらった飲み物を口にした時、これまでも飲んだことがあるにもかかわらず、この世で一番おいしいものを飲んだ、という感じになった。そのことで、思わず顔がほころんだが、坂本には見られないようにうつむき加減だった。

≪日記≫

『今日、坂本君がお見舞いに来てくれた。

 この前、同室の人に坂本君のことを話したから、みんなの視線がいつもと違った。

 私の気持ちも変わっていたから、どこかで坂本君に気付かれたかもしれない。

 でも、そんなことを知られたら、坂本君、きっと見舞いに来てくれなくなる。坂本君なら、こんな私より同年代の可愛い子とお付き合いをするのが似合っている。

 私は片思いでも良い。だって夢の中では私も普通の女の子。坂本君と普通のデートができる。青春を謳歌できる。

 だから、現実の世界ではたとえ同情からであっても、今日のように見舞いに来てくれる、それだけで良いのだ。』


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