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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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さくらと坂本

 一方、私は坂本が見舞いに来てくれたことで大変幸せな気分だった。この時点では病気のことは全く頭になかった。しかし、病気が理由で坂本がわざわざ私のために時間を取ってくれるのも事実だ。その意味では、自分の体調の悪さに感謝しているところを自覚している。本当は間違っているのかもしれないが、私にとってはそういう今を大切にしたいという思いで一杯なのだ。

「高野さん、体調はどう?」

 坂本は病室に入るなり、まず私の体調を気遣ってくれた。見舞いということであれば当然と考える人も多いと思うが、坂本が私に言ってくれたとなると、同じ言葉であっても受け取り方や心への響きがまるで違う。

「・・・ありがとう。おかげさまで元気! 坂本君こそ、私のために時間を作ってくれて大丈夫なの?」

 私は少し言い淀んだが、咄嗟に適切な言葉が出なかったのだ。

「うん、大丈夫。僕はクラスメートのことはいつも考えているつもりだ。クラス委員ということもあるけれど、前に話したように弟の経験があるので、特に高野さんのことは気になるんだ」

 クラス委員という言葉や弟の病気の経験というところには少し気になったが、私のことを気にかけてくれていることが分かったことは嬉しい。坂本に対する意識はそういったちょっとしたところで強くなっていくわけだが、病室で話が弾むことを楽しみにしつつも他の患者さんもいるということで談話室のほうに移動した。

 話している際、どうしても咳が出る。呼吸器の問題を抱えているので当然だが、私は本当の病気のことは知らない。だから深刻に捉えていない。咳が出た時は坂本も心配するが、話題を他に持っていくことで咳に絡んだ懸念が続くことはない。

「今、夏休み中だけど、高1の夏、1回しかないのに、楽しい思い出、作れなかったな。退院の日取りが分かれば違うと思うけれど、まだ聞いていない。少しくらいは夏休みそのものを楽しみたいな」

「分かるよ。自分自身は病気の経験は無いけれど、家族に具合の悪い人がいると気を使う。それが苦痛というわけではなく、何とか少しでも気持ちを軽くしてあげられないかと考えることで多分、気持ちが落ち込んだこともあったかもしれない。・・・あっ、ごめん。高野さんやご両親のことを言っているんじゃないんだ。変なことを言ってしまったね。忘れて下さい」

 坂本の言葉に一瞬、表情が曇ったことは自覚しているが、悪気で言ったのではないことは分かっている。私自身、両親をはじめ、いろいろ迷惑をかけていることは自覚している。もしかすると私に言えないこともあるのでは、と思うところもある。

 そういうことを考え始めたらきりがないので、みんなの前ではできるだけ明るく振舞っているつもりだ。そして今、自分のやりたいこともあるだろうけど時間を作って見舞いに来てくれた坂本の気持ちもある。だから話題を変えることにした。

「ねえ、坂本君。夏講、受けているでしょう。高校に入ったばかりだけど、大学のこと、考えているの?」

「うん、一応ね。だから夏休みの講習会を受講した。さくらさんは残念ながら今病院にいるけど、2学期になったら、また一緒に勉強しよう。これ、前回の続き。高野さんの少しでも役に立ちたいと思っている。高野さん、頭良いから、このノートからでも勉強できると思う。遅れたなんて思わないこと。この夏、まだ高1だからといって何の準備もしていない人もいる。高野さんは入院中でも勉強している。だから他の人より進んでいるんだ。僕もまた夏講の授業の後、ここに来るよ。あっ、そんなことは入院していることが前提になるね。今の言葉は取り消し。退院したら一緒に勉強するところはそのまま残しておいて、2人で頑張ろう」

 坂本は爽やかな笑顔で言った。私は何も言葉が出ずに黙って頷くだけだった。だが、心の中では言葉に言えない感謝の言葉で溢れていた。

≪日記≫

『今日、坂本君が見舞いに来てくれた。とても嬉しい。

 また、夏講のノートまで持ってきてくれた。

 その上、退院したら2人で勉強しようということまで言ってくれた。こんなうれしい言葉を聞けるのは、神様の計らいなのかな。よく分からない病気にかかり、落ち込むことも経験したが、その分、嬉しいことも経験した。

 やっぱり、神様は平等なんだ。

 よし、早く病気を治し、2学期から頑張るぞ。坂本君、よろしくお願いします!』


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