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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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再度の検査入院 10

 両親は診察室に入り、神妙な顔で主治医の前に座っている。私の治療のことが話の中心になるということが分かっており、しかもそれが癌ということに関係するから、話をする前から緊張している。

 私がウェルナー症候群となり、その上で癌を患ったことから、医者と話す前に両親も私と同じようにネットで情報を集めていた。

 その時に気にしていたのが治療に関わる副作用だった。現在服用している咳止め薬は心配なさそうだが、手術となれば身体に傷跡が残る。嫁入り前の身体に傷を付けたくない、という思いがある。放射線や化学療法になれば脱毛など、外から見ても年頃の女性には耐えがたい状態になる。ずっとその状態が続くわけではないが、それでも心の傷は大きいはずだ。

 そういうことが分かっているからこそ、親としての悩みは通常以上になる。両親の心の中は代われるものなら代わってやりたいという気持ちで一杯なのだが、それは叶わない。

 だが、命には代えられない。涙を呑みつつの決断となるのだ。また、その場合、私に病気のことを話す必要が出てくる。その時のショックを考えたら、親のほうも精神的におかしくなりそうだと思っている。もちろん、当人はもっと辛いと思っているが、何もしなければ病気は進行するだけだ。その結果を考えれば、やらないことで後々後悔するだろう。そのことは十分理解している。かと言って、まだ高校1年生の娘が聞いた時のショックを考えると、その先の様子が見えない。

 医者との間に変な間が空いた。せっかく時間を取って話ができることになったのだが、会話が進まないでは埒が明かないので、父が話の口火を切った。沈黙は両親にとっては長い時間だったが、実際には2、3分くらいのことだった。

「先生、さくらのことですが、癌というのは間違いないんですね」

「まだすべての検査が終わったわけではないので、詳しいことは申し上げられませんが、癌ということは事実です。進行の状態には個人差がありますし、さくらさんの場合、ウェルナー症候群というベースになる疾患が関わっています。それが治療の判断の上で考慮しなければならないところです」

「・・・そうですね。さくらは普通の人とは違いますからね」

 父は改めて私が置かれている現状を再認識させられた。

「では先生、現時点では癌ではあるけれど、具体的な治療に踏み切れないところがあるということですか?」

「平たく言えばそういうことです。親御さんが懸念されていることは分かります。この病院にも若い女性がガンで入院されたことがあり、私が担当しましたから。その時、患者さんの生の声を耳にしていますので、おそらく娘さんの将来のことも含め、心配されていらっしゃるのだと思います。だからこそ、あえて申しますと、かけがえのない命のことですから、その点を基準にしていただければと思います。ステージⅣということであれば別ですが、幸い発見が早かった。ウェルナー症候群はともかく、癌に対する治療法はいくつかありますから、そちらでお考えいただければと思います」

「・・・先生のお立場からはそうおっしゃることはよく分かります。でも、さくらは未来がある女の子です。同じ女性として幸せな結婚もしてほしいと願っています。だから、いろいろ考えるんです」

 母が言った。

「お母さん、同じ女性としてのその気持ち、私にも分かるつもりです。でも、ここで命を失ってしまえば未来はありません。一縷の望みをかけた選択はできないでしょうか?」

「でも、その最終判断は当人がすることでしょう。さくらはもう高校1年生ですので、自分で考える力もあるはずです。話した時はすごく落ち込むかもしれません。立ち直れないくらいのショックかもしれません。だから近日中にさくらの様子を見た上で正直に病気のこと、話してみたいと思います。先生も同席していただけますか?」

「もちろんです。担当している看護師にもその旨お話ししておきますので、さくらさんの気持ちが落ち着いているタイミングでお話ししましょう」

 3人での話はここで終了した。


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