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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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父親の帰宅

 2人はサラダを準備し、唐揚げの下準備を終えていた。そこから少し経った頃、父が帰ってきた。

「おかえりなさい」

 父の帰宅に母と私が2人で出迎えた。

「おっ、今日は2人でお出迎えか。嬉しいな」

 満面の笑みで父が言った。

「着替えて、ダイニングにいらしてください。今日は私とさくらで夕食を準備したわ」

「そうか、何を食べさせてくれるのかな」

「期待させるようなものじゃないけど、今日は暑かったからさらっと食べられるようにそうめんよ。それはサラダと唐揚げ。すぐに用意するから待ってて」

 父は頷いて自分たちの部屋で着替え、ダイニングにやってきた。

「一番落ち着く時間だな」

 そういう父に母と私が笑顔で答えた。

 サラダはテーブルに出してあり、母は唐揚げ担当、私はそうめん担当ということで手早く調理した。

 すぐに食事の準備ができたので、その分、会話が楽しめる。

「さくら、1学期は大変だったな。学校のほうはどうだ?」

「うん、もうずいぶん落ち着いた。話せる友達も増えた。2学期が楽しみ」

 笑顔で話す私に両親は少し安堵していた。だが、ウェルナー症候群を患っているという現実がある。だからこそ両親は娘に少しでも楽しい時間を過ごしてほしいと願っている。学校生活そのものについて両親には不安はあるものの、ここは娘の言葉を信じることにした。私も両親が気を使っていることはよく理解しているつもりだ。だからこそ、なるべく明るく振舞っている。大切な家族との食事の時間。笑顔は最もおいしい食事の調味料だ。私と両親は努めて明るい話題で場を明るくした。

 食事の後、お茶などを飲んでいると、適度な満腹感が私に眠気を連れてきた。

「お父さん、お母さん。ちょっと眠くなってきたから部屋に行くね。2人はそのまま話を続けていて」

 私はそう言って自分の部屋に行った。両親は目線で私を見送り、ビールを飲んでいる。

 他愛のない話を続けていた両親だが、私が部屋に戻り、少し時間が経った時、母の表情が真顔になった。その変化に父は何かに気付いた。

「さくらのことで何かあったのか?」

 父も緊張の面持ちになった。その表情に母は病院で聞いたことを話した。

「・・・さくら、重病なのか?」

「いいえ、まだ確定というわけではないわ。でも、この前の検査で癌の疑いが出たの。それで夏休みを利用して検査入院をと先生に勧められたわ」

「そんな・・・。ウェルナー症候群と言われ、ただでさえ普通の年頃の娘と違う人生なのに、癌なんてことになったら・・・。さくらが可哀そうすぎる。何とかならないのか」

「私たちで何とかできるなら何でもする。でも、今回の一連の話、親として無力さを感じるだけだわ。先生との話の後、私もいろいろ考えてみた。ここは先生の力に頼ることしかできない。私たちにできるのはその環境づくりしかない、と思ったの。あなた、何か良い知恵ある?」

 突然言われても父に返す言葉はなかった。しばらく考えた後、ポツリと言った。

「・・・そうだな、俺たちには医者に頼ることしかできない。となると、さくらにどう話し、検査入院をさせるかだ。現時点で癌の可能性が高いということは、検査では進行具合などを確認することも含まれているのだろう。そのまま治療のための入院ということもあり得る。そうなると、さくらは高校生活をまともに送れない。その時の心のケアも大切だ。クラスメイトや担任の先生にもいろいろ協力してもらうことも出てくるだろう。俺たちができることはそれくらいしかない。だが、まずは検査入院し、その上で再度対応を考えよう」

 父は落胆したような声ではあったが、できるだけ冷静に答えたつもりだった。母はその言葉に頷くだけだったが、その後ポツリと言った。

「さくらには何て言います?」

「ガンの疑いがあるから入院して検査するなんて本当のことは言えない。夏休みを利用した健康診断を時間をかけてやることになった、とでも言うか。病院の先生の話ではいつでも大丈夫ということだな?」

 父親は入院について再度確認した。

「ええ」

「それでは明日、俺は会社を休む。そして、俺も先生から話を聞く。2人で病院に行こう。さくらにはうまく理由を考えて、明日の夜、俺から言う。お前も一人で大変だったな。これからは2人でこれまで以上にさくらのことを見ていこう」

 母は父の言葉に目を潤ませ、静かに頷いていた。


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