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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
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病院から帰った夜

 母は暗い気持ちで自宅に戻った。それは表情にも表れているはずだが、そのことでさくらに余計な心配を掛けてはまずいという思いがあった。だから、玄関を開けた瞬間から意図的に明るい顔をしようと思っていたが、逆にそのことで変に緊張した表情になっていた。変に作りすぎていることがバレバレなのだ。

 帰宅時、まだ父は帰っていない。私は自宅にいた。病院に行ってくるとは伝えていなかったので、表情のことで変に勘繰られても困るという気持ちはあったが、役者ではないので感情やそこから発せられることについてのコントロールには限界がある。

「お母さん、どうしたの? 何か表情、固いよ。何かあった?」

 私は母の様子がおかしかったので尋ねた。

「何でもないの。さっき変な人がいてね、自分からぶつかっておいて文句を言われたの。それ以上何もなかったから良かったけれど、そのことが気になっていたのよ」

 母は咄嗟に嘘をついた。病院でのことは話さない、まず主人に話すと決めていたので、そのまま話題をスルーしようとしたわけだ。最近、いろいろ変なことがあるということをテレビなどで知っていた私は母の話に一応納得した。

「そう、何もなくて良かったね。最近変な人が多いようだから気を付けてね」

「ありがとう。さくらもね。夏はいろいろ犯罪が多くなるようだから、気を付けてね。絡まれるようなことがあったら、すぐに逃げるとか周りに助けを求めるのよ」

「分かった」

「さくら、お腹空いたでしょう。もうすぐお父さんも帰ってくでしょうから、夕飯の支度するね。手伝ってくれる?」

「もちろんよ、今、夏休みだから家のことはいろいろ手伝うわ。遠慮なく言ってね」

「今日は暑いから喉の通りが良いようにとそうめんを考えているの。でもそれだけではいろいろ不足するからサラダとかしっかり体力も付けるようにと肉料理も考えているの。さくらは唐揚げが好きだからそれをメニューにしたいと思っている。そうめんはすぐにできるし,揚げ物は温かいほうがおいしいから、お父さんが帰った時に作るわ。今はサラダ作りを手伝って」

「はい」

 素直な明るい返事だ。両親にとっては自慢の娘に育っている。だからこそ最初にウェルナー症候群のことを聞いた時は大変ショックだったし、今またガンの疑いがあるなんてことは夫に話すことさえ躊躇う自分がいることを感じている。そういう自分に対し、母は心を叱咤激励していた。


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