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お母さん、私、恋したよ!  作者: 藤堂慎人
23/92

病院にて

 夏休みに入る3日前、病院から連絡があった。その電話には母が出た。

「高野さんのお宅ですか? さくらさんの検査の件ですが、学校は夏休みですよね。その期間を利用して入院による検査ということでお越しいただきたいのですが・・・」

「えっ? 検査なのに入院ですか。最初の時も入院して検査でしたが、そんなに色々調べるんですか?」

「はい、それで入院前に保護者の方にお話ししておきたいことがございまして、明日にでも病院にお越しいただけますか? その時に具体的な入院の日程をご相談したいと思います」

 その言葉から母に言い知れぬ不安感が募った。話しぶりから私には内緒で両親に伝えておきたいということなのだろう。

「分かりました。何時に伺えばよろしいですか? 主人は仕事なので行けませんので、私一人で伺います。入院についてはさくらにも夏休みの予定もあるだろうから、事前に話さなければなりませんで、少し余裕をいただければと思います」

「そうですか。では明日の3時ということでいかがですか? その時、具体的なことをお話しできればと思います」

「・・・はい」

 何の話だろうということが気になり、返事の言葉には力が無かった。

 次の日、母は約束通り、病院を訪れた。待合室で待っているといつもの診察室に呼ばれた。話をするのはいつもの先生だ。今回、母が一人で訪れたが、先生もいつもよりは表情が硬いような印象だった。

「高野さん、先日の定期検診の時、痰が出るとか血液が混じっているような感じだったとおっしゃっていましたが、それで血液検査で腫瘍マーカーもチェックしました。するとCEAやCYFRA21-1といった肺がんの場合に見られるデータが出たのです。診断の確定のために入院しての検査が必要になったのです」

 母にしては医者からの冷徹な話の様に聞こえる内容だった。

「・・・」

 母は沈黙した。ただでさえウェルナー症候群と診断され、普通の高校生に見えないところに、それ以上のショックを与えるような話に母の心は冷静さを保てないようになった。

「先生、さくらがその話を聞いたらどんなに絶望するか分かりません。ただでさえ容姿が普通の高校生に見えずに悩んでいるはずなのに、それにガンの疑いがあるなんて、私、さくらになんて話したらいいんですか? あの子はまだ16歳ですよ。ウェルナー症候群のため、ただでさえ短命ではと心配していたのに、ガンなんてことになると、もっと早く命を落とすかもしれません。苦しい思いもするでしょう。親より早く亡くなるなんてことになったら、私たちにも辛いことです」

 母は語気強く医者に言った。もちろん、医者に感情をぶつけてもどうしようもないことは頭では分かっている。しかし、親として言いようのない気持ちのはけ口が見つからない。医者もそのことは十分分かっているので、何も言わず黙って聞いている。

「高野さん、私もこれまでいろいろな患者さんに病気の告知をしてきました。皆さん同じように心を痛められます。それを分かっているからこそ、私も病気に対して何とか克服しようという気持ちで臨んできました。さくらさんの場合、ベースにあるウェルナー症候群が絡んでの発症リスクがあり、癌の場合、肺に発症するケースは多いという報告があります。私たちもできる限りの努力をします。ご両親もさくらさんのためにご協力ください」

「・・・分かりました。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。さくらのこと、よろしくお願いします。それで入院のことですが、何時が宜しいでしょうか?」

「検査は病名を確定するためのことで、その後が大切です。なるべく早めに検査して、治療に入ることができればと考えています」

「そうですか。今日の夜、さくらに検査入院のことを話します。主人は癌の話を知らないので、入院のことだけを3人で話し、夜、さくらが眠った頃に主人に話します」

「分かりました。病院のベッドは既に空けてありますので、すぐに対応可能です。ご連絡をお待ちしております」

 母は一礼をして診察室を後にした。

 そこから家に向かったが、母の頭の中はいろいろな考えが錯綜しており、歩みは遅かった。すぐに家に戻る気が起こらず、途中の公園でベンチに座ったり、喫茶店でお茶を飲んだりしたが、心が落ち着くことは無かった。

 しかし、暗い顔でばかりいたら、それだけで心配をかけてしまうという思いから、努めて笑顔を作ることにした。強張った表情であろうことは理解しているが、今の母にはそういうことしかできない。とにかく不要な心配をかけないことを最優先に考えることにした。


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