エピソード2.俺の異世界生活がこんなに可笑しい訳がない(仮)❶
女戦士のティティス、女勇者の勇者、この二人と魔王を倒す事になった異世界転移者の山本一郎18 歳、まさに今から俺達の輝かしい旅が始まる、はずだったんだが。
「え、それで…俺はどうしたら?」
「は?だから明日の朝に魔の森に出発、それまで解散、以上」
「いやいやいや、それは分かったんだけど、俺はどうしたらいいんだ?」
「自分で装備品揃えるなり、宿屋に泊まるなりしたらいいじゃない?」
ティティスはため息混じりに白状な言葉を並べる。
「え、いや、俺異世界に来たばかりなんだけど?右も左も分からないんだけど?」
俺達仲間になったんだから普通一緒に行動するだろ!?テンプレート的に!!
「右はこっちで、左はこっち、オッケー?それじゃあ解散」
「いやいやいやいや!お前もどんだけ解散したいんだよ!ちょっと待てって!まじで、俺本当にどうしたら…」
「あー、うっさいわね!?うじうじうじうじ!何?何なの?じゃあ私達はどうしたらいいのよ?」
完全にイライラした様子のティティスさん。
「いや、あの…それじゃあ、せめて装備品揃えるのまで付き合ってくれたら…」
「…はぁ。まったく、しょうがないわね。……そう言う事だけど、勇者は時間大丈夫?」
「はい」
不機嫌なティティスとは対照的な安定のポーカーフェイスで勇者は一言呟いた。
ーー下手にお願いしてやっと着いて来てもらう事になった武器屋、防具屋だったんだが、正直今は俺一人でくれば良かったと後悔している。
その事件は防具屋の後に立ち寄った武器屋で起きた。
ティティスの見立てでスムーズに俺に合いそうな剣が見つかりそれを購入、それまでは良かった、そう、それまでは良かったんだ。
「あ、あのー……勇者さん?さっきから何をやってるんですか?」
俺の問いかけなど耳にも入っていない様子の勇者はいつの間にか武器屋のカウンターの奥に入り込み、店主の物であろうタンスの引き出しを勝手に開けては閉め、開けては閉めと、何やら物色をしているようだ。
「ふん、兄ちゃんその剣を買うたぁ良いセンスしてるぜ!」
ガチムチで髭面の店主は勇者のソレに気が付いているはずなのだが、まるで勇者の行動が見えていないかのように笑顔で会話を続ける。
「どうしてもって連れて来られたんだから、そりゃ良い物を選ばなきゃね」
目利きにも自信ありますと言わんばかりのドヤ顔でティティスも勇者を止める事はせず会話を続ける。
「いや、店主!いいの?タンスの中勝手に物色されてるけど…っておい!今勝手にそれポケットに入れただろ!?」
ーー明らかに勇者はタンスの引き出しの中に入っていた回復薬的な便をポケットの中に入れ盗んだ。
「…そ、その剣で一匹でも多く、その…なんだ?モンスター倒して、くれよな…」
明らかに動揺している様子の店主、いやいや止めろよ。
「ちょ、勇者!戻って来いよ!」
更に強い口調で勇者に呼び掛ける、すると勇者は相変わらず何を考えているか分からない表情でコチラに一瞬振り返り呟いた。
「いいえ」
勇者はそれだけ言うと、今度は違うタンスや机の引き出しを物色し始める。
つか勇者の奴大人しそうな奴だと思ってたのにこんなキャラなのかよ!
「……も、もし…剣の…その、切れ味が悪くなったりしても、俺の店まで来てくれたら、しゅ、修復してやるからな!」
引き攣る笑顔で無理矢理会話を続けようとする店主。
なんと痛々しい。
ーー勇者は引き出しの中から次々とアイテムを盗んでいる。
「ふふ、もう…勇者ったら」
ティティスは必死に盗みを働く勇者の姿を見て微笑んだ。
やばい、やばい奴だ。
もしかして俺やばい奴等と仲間にされたんじゃないのか?このパーティー、本当に大丈夫か?
「はいはい!もう終わり!つか、盗んだの全部返せ!ほら、出せ!」
カウンターから身を乗り出し無理矢理勇者の首根っこを捕まえてから、ポケットの中に手を突っ込みアイテムを全部カウンターの上に並べて行く。
「ちょ、ちょっとイチロー!あんた勇者に何すんのよ!?」
勇者を咎めた俺を咎めようとするティティス。
「何もコレもねーよ!普通にありえねーだろ?人様の家のタンスを勝手に物色するなんてよ!ゲームの中の勇者じゃねーんだから!まじでありえねーから!」
しょぼんとしたような表情の勇者を横目に盗んだアイテムの最後の一個をカウンターの上にドンと置く。
「本当にすみませんでした、次からはこんな事させないようにするので」
ーー謝罪をして急いで店を出る、店主は最後まで愛想笑いを浮かべていただけだった。
「で?」
俺は完全に説教スイッチが入り、勇者を問い詰めていた。
「まじで何やってんの?勇者が盗みとかやべーだろ?」
俺の問いかけに勇者は不満そうな表情で俯いたままだ。
さっきも、しょんぼりしたような表情をしていたがコイツもこんな風に表情を表に出す事もあるんだなと思った、そんな事を思いながらも勇者からの返答を待っていたのだが相変わらず黙りのままだ。
「ちょ、ちょっとイチロー、そんなに怒らないであげてよ。勇者はタンスの中を漁るものなのよ?」
「は?」
ティティスの意味不明なフォローに思わず、は?となる。
「イチローの世界ではどうか分からないけど、この世界では勇者はそうゆうものなの!この王都に住んでる人は皆んな分かっている事なのよ?さっきの店主も止めなかったし、最後もイチローの言葉に困ってたでしょ?あんたが言う事は分かるけど、それは勇者以外の人達がやったらって話で、勇者はタンスの引き出しを漁ってもいいの!それがこの王都での常備なの!」
カルチャーショック!まじで?うそーん。
「……そうゆうもんなの、か?」
「そうゆうものなのよ。ね?勇者?」
「はい」
いつの間にか何考えてるのか分からない表情に戻ってた勇者はコクンと頷く。
「あー、なら…先生質問です!」
俺は質問権を得る為に挙手をしてみた。
「はい、どうぞ?」
ティティスが俺を指差し、質問権を与える。
「じゃあ、例えば…さっきの店とかの売上金とか盗まれても誰も文句言わないって事なんですかー?」
「売上金?ゴールドの事?」
「あ、そうそうゴールド!買い物に必要なやつ!」
俺は王様から貰ったゴールドが入った袋を見せる。
「うーん、そうね。そもそも勇者はタンスとか机の引き出し、もしくはツボの中を漁るけれど、それ以外の…うーん例えば鍵付きの箱とかの中は絶対に漁らないルールだから、皆んな最初からお金とか、大切な物とかはそういった物に保管するようにしているはずよ」
「な、なるほど……じゃあ、さっきの例で言ったら…あの武器屋で勇者が物色していたアイテムは、店主的には取られても良い物ばかりだったと…」
「ま、まぁ…多分だけど、そうよね」
あ、その感じ。
必ずそうとも限らない感じなのね?たまに、間違えてタンスとかに大事な物入れちゃってて、それを取られた事がある人もいる訳ね。
「って言う事だから。それにタンス漁りは勇者の唯一の趣味みたいなモノなの。だから、イチロー的には変なのかもだけど、多目に見てあげて?」
ティティスは一瞬切ない表情で勇者は見つめた。
「……分かったよ。どうやら俺が間違ってたみたいだ。……勇者、ごめんな唯一の楽しみを奪っちまって」
「いいえ」
此処は異世界、様々な文化、様々なルールや常備がある。
俺は一つ一つそれを学んでいかないとな。
まぁ、ぶっちゃけあんま確りこないけど、あんな王様が居る異世界だ、深く考えたら負けかも知れない。
「じゃあそろそろ解散するけど、大丈夫?」
「お、おぉ。まぁ、さっき宿屋も見つけたし、大丈夫っちゃ大丈夫だ」
「それじゃあ解散ね?明日の早朝に王城の門前に集合しましょう?」
「わ、分かった!」
「じゃあ、また明日」
それだけ言うとティティスは街の奥に消えて行った。
勇者の方を振り向くと、彼女もまたいつの間にか姿を消していた。
どうやら個々のプライベートを大事にするパーティーのようだ。
「取り敢えず、宿屋行くか…」
一人寂しく宿屋に向かいトボトボと歩く。




