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エピソード5.未知なる森へ❷

「イチロー!目よ!アンタは目を狙わないと!」


ティティスの喝が飛び交う中、俺達は新領域での戦闘に明け暮れていた。

この森に生息しているのは殆どと言っていい程のメタルタートルと言うモンスターで、文字通りメタルな甲羅に覆われたカメのモンスターなのだか、見た目以上に凶暴で、カメだと舐めて掛かり初っぱなから二人に迷惑をかけてしまっていた。


「分かってる…けどっ!………くそ!回転したら目を狙えねぇって!?」


そう、カメのモンスター定番なのかも知れないが、メタルタートルは一定のサイクルで甲羅に閉じ籠りくるくると回転アタックをしてくるのだ、まるで昔動画で見た某カメの怪獣の映画のようで笑えるが、これもまた避けるだけで本当に必死で俺レベルだと反撃する事すら出来ない状態だ。

二人がビックリする勢いでメタルタートルを倒していく中、俺の成果は今だにまぐれで倒せた一匹だけだった。


「相手との距離を出来るだけ離さないように攻撃を避けなさい!回転し終わった後、一瞬隙が出来るからそこを狙っ…」


「それが出来ねーから苦労してんだって!?」


ティティスが助言を言い終わる前に食い気味で反発する、ただの言い訳で弱者のヒステリックで最高にかっこ悪いが、弱い人間って言うのは強い人間と比べて心に余裕が無くなりやすく、かっこ悪い醜態を晒しやすいのだ、そう、今の俺がまさにそうだ、それに俺くらいになるともう既に二人に何度も何度も醜態を晒しまくっており、もう今更背伸びしてカッコつける必要もない、逆にそれを求められてもいない、しかしそれが今の俺にとってカッコ悪くもがむしゃらに頑張れやすい環境で、やり易くもあった。


ーーグルグルッ!

土が擦れる鈍い音と共にメタルタートルの回転アタックが迫って来る。

来る、来る、来る!ティティスの言い分は分かる、つまりギリギリで避けなければ反撃のタイミングがないよって事だろ?くそ、でもマジでこえーって!?

相手の進行方向を見極め、ギリギリで、ギリギリで避ける、ギリギリで避ける、ギリギリで避ける!


「…うおっ……で、出来たっ!?」


ティティスの助言通りに回転アタックをギリギリで避ける事に成功した、しかし、ここで喜んではいけない、ティティスの言う相手の隙を狙わなければ。


俺は全意識を甲羅の中に引っ込んでいる中身に集中させ、息を大きく吐きながら散々使い慣らした相棒(ロングソード)を逆手に持ち、静かに頭上まで持ち上げ構える。


ーーニョッ!と突然顔を出したメタルタートルは本当に無防備な状態だった、俺は大声をあげながらメタルタートルの目、目掛けて剣を思いっきり突き刺す。


「うおぉぉおおお!」


ーーグシャ!

いきなり目を突き刺されたメタルタートルは『ギジャァァ!』と苦しそうな悲鳴をあげ、完全に怯んでいる。


「このカメ野郎がぁぁぁあ!」


ーーグシャ!グシャ!グシャ!

この隙を逃すまいと俺は何度も何度も何度も同じ箇所に剣を突き刺し、無事にメタルタートル二匹目を倒す事に成功したのだった。


「はぁはぁ……やった、ぜ……」


「お疲れ」


ティティスは、ポンと肩を叩き労いの言葉をかけてくれた。

新領域で戦闘が始まってからと言うもの、まじで機嫌が悪かったティティスも少しずついつもの感じに戻りつつあった、何か苛々する事があったのだろうが、新しい敵との戦闘や俺を鍛える教育スイッチが入った事によりある程度気が紛れたのかもしれない。


ーー周りを見渡すと、俺が一匹に苦戦している間にいつもの如くティティスと勇者でアホみたいな量のメタルタートルを倒したのだろう、メタルタートルの死骸は凄い事になっていた。


「…お、おぅ……逆に何か、お疲れ…」


え、何が?と首を傾げるティティスと空の雲をボーッと見つめている勇者を見ると何だがこんなに頑張っている自分が虚しく思えてくる、しかし、そう、しかしだ!俺は誰かと比べるより、昨日の自分と比べて生きる!俺が昔好きだった漫画のあるキャラが言ってくれたある台詞でその事の大切さに気が付けたんだ!自己満だと言われるかもしれない、でも、だってそうだろ?ただの一般人である俺が異世界で地味ではあるがこうやってモンスターを倒せている事自体が凄い事なんだ。



日も暮れ始め、焚火用に使う薪を探していた丁度その頃それは起きた、最初に周囲の異変に気が付いた勇者は辺りをキョロキョロと見渡している、その様子を見てティティスも意識を研ぎ澄まし周囲を観察し出した。


「……変ね………森が凄く静かだわ……」


「はい」


言われてみれば、先程まで聞こえていたメタルタートル達の鳴き声が全く聞こえなくなっている、それどころか魔の森の木々達が放つ例の『鳴き声』も心なしが小さくなっている気さえしてきた。


「…な、何かあるのか?…」


「しっ……静かに…」


唇の前に人差し指を立てるティティスに注意をさせる、二人は武器を取り出し確実に警戒体制に入っていた。


ーードンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

遠くの方から確実に大きい何かの足音が聞こえてくる。


「イチローは下がってて!……何か、来るわよ!?」


ーードンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!

ティティスの叫び声に重なるように地面を蹴る振動音がどんどん大きくなってくる。


「…お、おいおい……何だよ!?」


二人の後方で俺は再び相棒(ロングソード)を取り出し構える。


「グガァァァァァア!!」


ーードドンッ!ドドンッ!ドンッ!

凶悪な咆哮と馬鹿でかい足音を立てながら、そのモンスターは森の中から姿を現した。


「…テュ……テュランノス…!?」


テュランノスと呼ばれるそのモンスターは、正に四足歩行型のドラゴンと呼ぶに相応しい容姿をしていた、緑色のワニのような皮膚はとても分厚そうで俺なんかの攻撃ではダメージを与える事すら出来なさそうだった。


「グガァァァァァア!!」


獲物を見つけすっかりと興奮した様子のテュランノスは激しい咆哮をあげる。


「……嘘でしょ……こんな所でっ…!?」


青ざめた表情のティティス、彼女に限ってそんな事はないのだろうが、心なしか足が震えているように見えた。


「………っ!!」


しかし最初に攻撃を仕掛けたのはティティスだ、彼女は拳を振りかぶったままテュランノスの脇腹付近まで接近し、思いっきり激しい一撃を打ち込んだ。


「ガァァ!?」


苦痛に歪んだ表情のテュランノスは、口を大きく開きティティス目掛けて膨大な量の炎を吐き出す。


ーーボォォォォ!

離れている俺ですら熱いと感じる程の熱量だ、ティティスは何とか避ける事に成功したように見えるが膨大な炎を吐き続けるテュランノスに接近する事が出来ないでいた。


「…くっ………鬱陶しいっ……」


反撃のタイミングを見計っているティティスはイライラしたように吐き捨てる。

勇者はそんなティティスを援護するようにテュランノスに飛び込み、そのままドラゴン面した横顔を斬り付ける。


「ウギャァァ!?」


その一撃で更に激昂したテュランノスは横顔を斬り付けた勇者へとターゲットを変えた、しかしその隙を逃すまいとティティスは再びテュランノスに殴り掛かる。


ーーブンッ!

一瞬何が起こったのか分からなかった、テュランノスが信じられない速さで身体を一回転させ長い尻尾で逆にティティスを返り討ちにした。


「…うっ…!?」


まさかのカウンターを食らわされ、その場に倒れ込むティティス。


「ガウッ!」


テュランノスはその場に倒れ込むティティスをこともあろう事か咥えだし、勇者が攻撃しようとする箇所にティティスを突き出し攻撃させないようにしている。


「ティティス!?」


剣を握り締めたままその場から動けずに居た俺はようやくその瞬間に走り出す事ができた、あのままだと勇者も迂闊に攻撃できない、ましてやあのまま口から炎を吐かれてもティティスがやばい、っていうかどちらにしてもめちゃくちゃやばい状況だ。


「…くそっ……離せっ……離しなさいよっ!?」


ティティスは暴れ、なんとか逃げようとするものの鋭い牙がそれを阻止する。


「グゥゥゥ!!」


テュランノスの口の中が赤く光り始める。

やばい、確実にティティスを咥えたまま勇者に向かい炎を出すつもりだ。


「勇者!俺が適当にコイツに攻撃して注意を逸らす!その隙に攻撃して奴の行動を止めてくれっ!」


「はい」


「うぉおおおおおお!」


俺の攻撃じゃ奴の頑丈そうな皮膚にダメージを与えられないのは分かっている、ただ注意を逸らしさえ出来れば後は勇者が上手くやってくれるはずだ。

剣を構えたまま全速力で走り助走を付けテュランノスを斬り付けた、そのつもりだった。


ーーブンッ!

空気を切る振動音が聞こえた次の瞬間に俺の意識は途切れてしまった。


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次回予告


目が覚めたら既に夜だった、そこで周囲を見渡したイチローが見たものとは。

無力だと自分を悲観し流す涙と決意の朝。

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