エピソード3.名ばかりの救世主❹
走る、走る、巨人との距離が近付く度に奴がどれだけデカかったのかを嫌でも実感させられる、怖い、めちゃくちゃ怖い!何あの顔?牛みたいな顔って言うかもはや悪魔じゃん!勇者を叩き潰そうと四本の腕は相変わらず気持ち悪い動きをしている、その現場に俺はどんどん近付いて行く、正直プラン1が潰れた時点で、残るはプラン2とプラン3のみだ、しかもその二つは正直作戦でも何でもない、ただのヤケクソ作戦だ、プラン1が潰れた時点で俺はすぐに行動を起こす予定だった、でも、正直あんな巨人を目の当たりにして、怖くて俺は動けなかった、そんな事しても無駄だろうって思っちまった、一瞬でもそう思ってしまった自分が、すぐに動こうとしなかった自分に腹が立つ、脳裏には先程見たボロボロの状態で立ち向かおうとするティティスの姿が過る、あんなん見たらやるしかない!やるしかないだろ!!
「くそ、くそ、くそ、くそ!やるしかねぇ!やるしかねぇだろぉぉぉぉぉ!!」
叫び声に反応したヨトゥンが四つん這いの状態で、今度は俺目掛け腕を振り回してくる。
ーーブンッ!
まさに紙一重の状態でヨトゥンの攻撃をかわす事ができた、できたのだが、奴の腕が振りかぶる時の音が半端ない、あの二人みたいに鍛えていない俺が食らったらまじで即死、即死だ。
「このクソ牛野郎がぁぁぁぁぁ!!」
走る速度を落とさず、俺は走り高跳び宛らの大ジャンプをきめて毒液袋を巨人の顔面目掛けぶちまけた。
「勇者!いいか!?闇雲に攻撃してもコイツには無駄だ!今から俺が囮になって時間を稼ぐから!だからコイツの弱点を見つけろ!」
暫く間があった後に勇者から一言、返事が来た。
「はい」
その言葉を聞いた俺は一瞬口元が緩んだ、おそらくだがこの化物にも必ず弱点はある、それさえ見つけて、勇者の火力で集中的に攻めれば勝てる、かも知れない、そう、かも知れないだけなのだ。
「それでもやるしかねーんだ!!」
自分に言い聞かせるように独り言を狂ったように叫ぶ、ヤケクソ作戦を決行している今の心境もヤケクソである、俺は地面に着地した瞬間に再び走り出した。
「ほらほら!ほらほら!俺はココだ!掛かって来いよ!」
両手をパンパンと叩きながらヨトゥンを挑発し、俺に意識を逸らす。
「ウォォォォオオオオオオン!!」
そんなに俊敏な動きできるのかと思うくらいの動きで、巨人は四つん這いで追いかけ回してくる。
ーーブンッ!
再びヨトゥンの腕が俺のギリギリの所をかすめ空振りしていく、マジであぶねぇ!一瞬ダメかと思った!つか毒効いてないのか?めっちゃ俊敏に動いて来るんだけど!
ーーグシャ!グシャ!グシャ!
勇者は相変わらずのスピードでヨトゥンの身体を隅々と攻撃していき弱点を探している、その事が癇にさわったのか巨人は再び勇者の方に方向転換をする。
「…お前の相手は俺だっつーの!!」
ーービチャ!
方向転換をしようとするヨトゥンの横顔に俺は再び毒液袋を盛大にぶちまけた。
「ウォォォォオオオオオオン!!」
至近距離での咆哮にキーンと耳鳴りがする、それに凄い迫力だ、あまり考えないようにしていたが、やはりめちゃくちゃ怖い、恐怖でさっきから足が震えている、それでも一応挑発は成功、巨人の意識をコチラ側に逸らす事には成功した、後は、これから放ってくるであろう攻撃をどうやってかわすかが問題だ、先程は奇跡的に二回も攻撃をかわす事ができたが、正直次もできるかと言われたら自信はない。
ーーグシュ!
勇者はヨトゥンの脳天に剣を突き刺した。
「ギャァァァァァァァァァ!!」
途端にヨトゥンは絶叫をあげ初めて表情を歪めた。
来た!遂に来た!間違いなく今勇者が突き刺した頭のてっぺん、脳天が巨人の弱点だ。
「勇者!そこだっ!そこを重点的に攻めろ!!」
ーーグシュ!グシュ!グシュ!
勇者は容赦無くヨトゥンの脳天に剣を何度も何度も突き刺す。
「ギャァァァァァァァァァ!!ギャァァァァァァァァァ!!」
ーーブンッ!ブンッ!ブンッ!
悲痛に悶えながらもヨトゥンは四本の腕をがむしゃらに振り回す、巨人は理性を失っているからか、俺は今回も攻撃を全て避け切れる事ができた、そのはずだった。
ーードン!!
え?と思った瞬間鈍い音が洞窟内に響き、俺の視界が、見ていた景色がブレた。
一瞬何が起こったのか分からなかった、気が付いたら俺は地面に這いつくばっていた。
上手に呼吸が出来ない、苦しい、めちゃくちゃ苦しい、そうか、俺、ヨトゥンの攻撃を食らっちまったのか。
「………お、俺………生き…てんじゃん…。……げほっげほっ……」
一発もらえば死ぬかと思っていた、本当に俺は運が良いのか生き延びているようだ、けど、時間が経てばどんどんどんどん身体に痛みが走ってくる、こうゆうのは後から痛みが来ると言うが本当だ、めちゃくちゃ痛い、死ぬ程痛い、死ぬ程痛いのだが、こうもしていられない、俺は震える手で何とか回復薬を取り出しそれを一気に飲み干す、しかし全然ダメだ、ティティスもそうだったが全然効かない、それでも俺はもう一個回復薬を取り出し再び口にした。
ーーグシュ!グシュ!グシュ!
勇者は暴れ回るヨトゥンに振り落とされないようにしがみ付き、容赦無く脳天に剣を突き刺し続ける。
「ウギャァァァァァァァア!ウギャァァァァァァァア!!」
勝てる、これは勝てそうだ、弱点をピンポイントで攻められたのが効いたのかかなりのダメージを与えられている気がする、このまま続けて攻めれば、勝機は見える。
「……げほっげほっ………」
何本目になるのか分からない回復薬を飲み干す、正直気休めにしかなっていないが、無いよりはマシだ。
ーーダンッ!ダンッ!ダンッ!
集中的に弱点を攻められているヨトゥンは暴れ回り、気が付けば再び奴の姿が近くにまで来ていた。
やばい、逃げないと、逃げないとまずい!そう思っているが、分かっているのだが身体が全然言う事を聞かない。
「……くっそ……や、べぇ……」
ーーダンッ!ダンッ!ダンッ!
荒い足音を立てながら、ヨトゥンが間近に迫って来る、そして地面に這いつくばる俺と巨人の真っ赤な目が合ってしまった、やばい、まじでやばい、やられる!と思った次の瞬間巨人の太い腕が俺に迫って来た。
「ウギャァァァァァァァア!!」
ーーギュゥ!
巨人の太い手で身体を握り締められ空中に吊るされる、内臓が破裂するんじゃないかと思う程の圧迫感が身体に襲う、死ぬ、死ぬ、まじで死ぬ、もう少しなのに、もうちょいなのに、こんな所で、こんな所で終わるなんて、徐々に頭が真っ白になっていき意識が遠ざかっていくのを感じた。
ーー子供の頃から空想癖がある子供だと親に言われてきた、小さい頃に見た夢が忘れられなくてもう一度同じ夢を見たいとずっと駄々をこねたり、夢と現実が分からなくなり意味不明な事を言って両親を困らせたりした事もあった、そんな俺の空想癖は成長するにつれて少しはマシにはなっていったが、それでもマシになった程度で、高校生にもなり皆んなが部活や恋人を作り青春を謳歌する中俺は皆んなが興味を持つ事に全然興味を持てなかった。
そんな俺を唯一夢中にさせてくれたのが、異世界ものの作品だった、そこには子供の頃から空想していた世界観にそっくりな世界の物語が繰り広げられており、小説やアニメやゲームで様々な作品に出会い、その全てが俺を夢中にさせてくれた、次第に俺も作品の主人公のように異世界に行きたいとも思うようになり、ずっと憧れていたんだ、ある日目が覚めたら異世界に居て、美少女に世界を救ってと言われる、そんな妄想を幾度となくしてきた、そう、ずっと憧れていたんだ、この世界に来る事を。
「イチロー!?」
女性の声が聞こえる、俺の名を呼ぶ女性の声、ただ少し発音が違う俺の名は一郎だ。
「ちょっと!イチロー!イチロー!?」
ヒステリックに叫ぶ女性の声はだんだんと強くなり、その声で俺の意識がどんどん覚醒していく。
「イチロー!?イチロー!?」
あれ?この声はティティス?でもなんでアイツ、こんなに叫んでるんだ?
「ウギャァァァァァァァア!?」
突然、耳を突くような巨人の叫び声が聞こえ俺の意識は完全に目覚めた、そうだ、そうだ、そうだった!俺は今!四天王と戦っている最中だ!パッと目を開け、周りを見渡す、勇者は必死にヨトゥンにしがみ付き繰り返し弱点を攻撃している、そしてその足元付近にはフラつきながらも俺に呼びかけるティティスの姿があった。
「…くっ……う、ぐぅぅ…」
「イチロー!?…よ、良かった…」
俺が生きている事が分かりティティスは安堵の表情を浮かべた。
ーー俺にはやはり何の能力もない、それは分かってる、けど、それを分かった上で俺はこの巨人に挑んだんだ、ティティスにあんな格好付けた捨て台詞をはいて、結局はこのザマかよ?だせぇ、めちゃくちゃカッコ悪い、俺が、俺が憧れた主人公はこんな貧弱な奴じゃない!きっと、この世界の皆んなが待ち望んでた救世主もこんなんじゃない!
「ギジャァァァァァァァァア!?」
遂に勇者の攻撃に耐えられなくなりヨトゥンは一瞬怯み、俺を握り締めている力も緩んだ、今だ!今だ!今だ!このチャンスを逃せば次はない!最弱なら最弱なりに最後まで悪足掻きをしてやる!
「……はぁはぁ……こっの、クソ牛野郎がぁぁぁ!」
力が緩んだ隙にヨトゥンの掌から抜け出し、そのまま巨大な腕を駆ける、駆ける、脳裏には何故か子供の頃道路の白線からはみ出さないように無邪気に走ってた記憶が過る、もしこの白線をはみ出さずに向こうまで走りきれたら、きっと良い事があるって、そう出来るって無邪気に信じれたあの頃の記憶と重なり、痛む足など忘れ突っ走る、剣の才能はないって分かってからずっと使わず眠っていた相棒を俺は乱暴に取り出し、勢いよく巨人の眼球を突き刺した。
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森の巨人との戦いもクライマックスへ!
次回もお楽しみに!




