エピソード3.名ばかりの救世主❸
俺達は早朝から行動を開始しモンスターを蹴散らしながら魔の森の最深部にまで足を踏み入れていた。
「勇者!」
ティティスの言葉に勇者は頷き、口をパクパクさせ詠唱を唱える。
ーーゴォォォォン!!
数十匹程のリザードフライの群れを勇者の魔法で一瞬にして焼き払う。
すげー、相変わらず勇者すげー。
俺はモンスターの死骸から価値のある素材をそそくさと回収する。
「……もうすぐ着くわよ」
緊張が伝染するような声のトーンでティティスが呟く。
昨晩色々考えて考え抜いた結果、ヨトゥン戦に向けて三つのプランを思い付いた。
ーーまず一つ、占い師の予言通りなら俺が居ればヨトゥンを倒せるそうなのだ、即ち、ボス戦にだけ発揮する何らしらかの能力が俺に備わっているかも知れない、まずはそれに期待する。
ーーもう一つ、俺に何の能力も無いと分かった時には二人の戦闘の邪魔にならないようにサポートに徹する、それだけじゃなく昨晩じっくりと時間をかけてリザードフライの素材から摂取し作った自作の毒液袋を隙見てヨトゥンにぶちかます、正直効くかどうか分からないが、でももし毒が有効だった場合は良いサポートになるかも知れない。
ーー最後にもう一つ、俺が囮になり二人にヨトゥンの弱点を見つけてもらいそこを重点的に攻めて倒す、もはや作戦でも何でもないが、最終的にはそれしかないと思っている。
「なあ?ヨトゥンってどんな奴なんだ?」
「…………森の…巨人よ」
森の中に突然巨大な洞窟が現れる、いや、正確には突然現れた訳ではない、遠目からだと木々が邪魔だったり、後は角度的な事もあるのだろうが、とにかくずっと森、森、森だけが続く中突如巨大な洞窟が目の前に現れると誰だってビビる。
「……この中よ。二人とも、準備はいい?」
「はい」
遂に到着した、思ったよりもあっという間だった。
この洞窟の奥に森の巨人、ヨトゥンが居る。
過去に人類が何度もヨトゥンに挑んでいるようだが、今だに倒せない四天王の一匹でもある。
あー、やべーめちゃくちゃ緊張してくる、手汗やべぇ。
少し前の俺だったら、ボスとかテンション上がるわ!とかどこかゲーム感覚で思っていたかも知れない、でも今では自分の力を十分に理解している、俺はただの一般人、恐らく舐めて掛かったら一発で即死だ。
深く深呼吸を一回してから、俺はティティスに返事を返した。
「あぁ!行こうぜ!」
洞窟中はツタのような植物が地面、壁一面にビッシリと這っており緑一色でなんだか気持ち悪い、それに何か空気がよどんでいる気もした。
「つーか、まじで……雰囲気あるよな…」
「イチローは絶対前に出ない事、いい?」
「分かってるって。二人の邪魔だけはしねーよ」
洞窟の奥には開けた空間があり、その空間の中心部分にバカでかい木が一本生えている。
「何かすげーでかい木が生えてるんだけど?」
「………!?」
木を指差しながらティティスを見ると、彼女は憎しみを込めた瞳でそれを真っ直ぐに見つめ、低い声で呟いた。
「……イチロー、木じゃないわ。アレがヨトゥンよ!!」
暗くて分からなかったが、距離が近付くにつれてその容姿がハッキリとしていく。
木々と見間違えるような太い脚、そのまま視線を上げると土色の肌で四本の腕を持つ巨人の姿がそこにあった、牛に似たその顔は、俺達を見つけるなり口を裂けそうなほどに広げ、咆哮をあげる。
「ウォォォォオオオオオオン!!!」
ヨトゥンの咆哮を合図に勇者とティティスが一斉に動き出す、持ち前のスピードで最初に巨人の懐まで接近したのは勇者だった、彼女は一撃で仕留めに掛かったかのように空中で何回転もした後、そのまま体重を乗せた重い斬撃をヨトゥンに放った。
ーーグシャ!
勇者の渾身の一撃だと思われた斬撃で、ヨトゥンの肉体に傷を付ける事はできた、だがそれだけで大したダメージは与えられていないように見える。
始まった、遂に始まってしまった!俺は後方から二人の戦いを見守りながらも自分の身体に異変が起こらないか意識を研ぎ澄ます。
勇者の先制攻撃にヨトゥンは激昂し、再び咆哮をあげながら腕をブンブンと激しく振り回した。
「ウォォォォオオオオオオン!!!」
一発でも食らえばまじでやばそうな太い腕をかわしながら、ティティスは刃先の付いた鉄製のグローブでヨトゥンの足を殴り、刃先をグサッと刺し込む、しかし、それでもティティスの攻撃も大したダメージを与えられなかった。
正直言って勝てる気が全然しない。
前回は傷一つ付けられなかったと言っていたが、今回は少量なりともダメージを与えられてはいるようだ、しかし、所詮は少量、それなのに相手の攻撃は一撃でも当ればただではすまない程の攻撃力、力の差は圧倒的だった。
「くそ、くそっ!………何か身体光るとか、手から聖剣召喚されるとか、何か力が目覚める的なイベント起きないのかよ!?」
あの二人に頼りきって後方で観戦しているだけの自分に腹が立つ、しかし、いくら経ってもいくら待っても一番期待していたボス戦特有の能力なんて発動しない、やはりと言うべきか、俺にそんな能力など初めからなかったようだ。
「勇者!今よ!!」
ティティスがちょこまかと動きヨトゥンの意識を逸らしている間に勇者が強大な魔法を連続で放つ。
ーーゴォォォォン!ゴォォォォン!ゴォォォォン!
いつか見たであろう爆裂魔法が容赦なく連続でヨトゥンに放たれていた。
先に洞窟が壊れるんじゃないか?と思ってしまう程天井から砂ほこりが落ちて来ている。
ーードン!
爆破の煙と砂ほこりで視界がぼやける中、強い衝撃音が洞窟内に響いた。
何だ?何だ?何が起こったんだ?
目を擦り、周辺を見渡す、先程の魔法で更に激昂した様子のヨトゥンは四つん這いの体勢になり、虫をなぎ払うかのようにブンブンと四本の手を振り回している、あんな太い腕で叩かれたらたまったもんじゃない。
ヨトゥンの攻撃をかわし続けている勇者の姿はある、しかし、その周辺を見渡してもティティスの姿は見当たらない。
「ティティス!?」
ヨトゥンの攻撃範囲から離れている距離感を保ちつつも洞窟内を走る、走る、すると勇者達からはだいぶ離れた壁側付近でうずくまるティティスの姿を見つけた。
「ちょ、お前大丈夫かよ!?」
急いでティティスの元まで駆け寄り回復薬を飲ませる。
「あはは…ヘマしちゃったわ…。ごめん…まだ大丈夫だから」
彼女は脇腹を押さえながらフラフラと立ち上がり、勇者の元まで戻ろうと歩き出す、しかしふらつく脚はとても頼りなく、案の定途中で足を挫き転びそうになった。
「だからっ………そんな身体じゃ無茶だって!」
すかさずティティスを受け止め身体を支える、ケガのせいか呼吸が早い、それに回復薬を飲ませたのにまだ足りないのか全然効いていない気がする、やはりこんな身体でヨトゥンと戦うとか無茶だ。
「無茶でもっ!……無茶でも無理でもやらなきゃっ!占い師様の予言では、今日!ココで!あの巨人を倒せるはずなの!ずっと待ってたんだから!!……死んでいった皆んなの仇を……絶対に取るわ!!」
感情的な言葉を放つ彼女の視線はヨトゥンを捉えている、怒りや憎しみが交じった瞳が彼女の全てを物語っていた。
「……アンタはそこで待ってたらいいのよ……それ、もう一個貰うわよ?」
回復薬をもう一本飲み干した後、ティティスは身体を支える俺を突き飛ばすように押し除け、一人でヨトゥンの元までフラフラと歩き出す、しかし、回復薬を何本飲もうが彼女の身体はとても戦える状態じゃない。
ーーグシャ!グシャ!グシャ!
勇者は尋常じゃないスピードで連続して剣撃を繰り出し、ヨトゥンも先程よりも早い動きで勇者をなぎ払おうと四本の腕が気持ち悪い動きでブンブンと振り回されている。
「ウォォォォオオオオオオン!!!」
ヨトゥンの咆哮が洞窟内に響く、ティティスはその振動だけでバランスを崩し膝を付いてしまう、それでも無言で立ち上がり、再びヨトゥンの元まで進み出す。
正直あんな巨人を目の当たりにして怖くない訳がない、膝だってさっきからずっと震えてる、俺なんか一番期待していたプランが潰れた時点でこんな奴に勝てる訳ないって思ってしまった、なのに、勝算何てないのに、これが占い師の予言だからってそんな神頼みみたいなもんに縋って、コイツはまだあの巨人に挑もうとしている。
ーー後ろから彼女の腕を掴み歩みを止める。
「え、え?何!?」
「………俺が何とかしてくる」
「は?…アンタなんかが行ったら即死するわよ!」
「いいから!大丈夫だから!…考えがあるんだ」
「考えって?……どうする気よ?」
「まぁ、そこで見てろって。……選手交代だ!」
一方的に言い放ち、俺は森の巨人目掛けて走り出す。
「ちょ!ちょっとイチロー!!」
ティティスの声が後ろから響く、俺は更に走る速度を加速させた。
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次回、最弱主人公イチローがどこまでも悪足掻きをします、こうゆうシーンは王道ですが、やはり燃えますよね!




