エピソード3.名ばかりの救世主❷
いつの間にか夕暮れ時になってしまい木々の間からオレンジ色に染まった木漏れ日が差し込んでくる、そんな中俺は後方で勇者とティティスの戦闘をサポートするのに徹していた。
状態異常を治すアイテムを使ったり、回復薬を使ったり、更には倒したモンスターから価値のある素材を回収したりなど、我ながらかなり飲み込みが早いほうだとは思う。
「そろそろ日も暮れてきたし今日はここで野宿しましょう?」
ちょうど良い感じに開けた場所があり、ティティスのその一言で俺達は野宿をする事になった。
ーー俺とティティスが集めてきた薪に、勇者が魔法で火を付けバチバチと燃える焚火を三人で囲む。
辺りはすっかり暗くなっており、冷える身体を焚火が温めてくれた。
「あー、焚火ってこんな温かかったんだなー」
「アンタお爺ちゃんみたいな顔なってるわよ?」
「いやー、俺も結構良い仕事したからなー」
最初こそは手際も悪くティティスにダメ出しをされまくってこそいたが、先程ティティス先生からもお褒めの言葉を頂いた次第だ、そう、今の俺は自分の立場を十二分に理解していた。
「まぁ、正直私達もアンタのサポートのおかげで戦闘に集中しやすかったわ、ね?勇者?」
「はい」
勇者は食料に持ってきていた干し肉を火で炙りながらティティスに相槌をうつ、だがぶっちゃけ視線は干し肉にしかいっていない。
正直この二人のやり取りにはまだ違和感はある、だがこれが普通と言われるとそれまでだったりする。
「あ、てかさ?今から戦いに行こうとしている四天王のヨトゥン?って奴と前に戦った事あるんだろ?」
そう言えばさっきそんな風な事を言っていたような気がしたので尋ねてみる。
「………」
俺の質問に無言になるティティス。
「…ティティス?」
彼女は暫く間を置いた後に語り始める。
「………あるわ…私と勇者、それと複数人の兵士を引き連れてね?でも、私達ヨトゥンに傷一つ付ける事すらできなかった……」
「傷一つも?……まじかよ…」
これだけ強い二人が傷一つ付けられなかったとなると余程の強敵なのだろう、想像すると身震いがして来た。
「占い師様には救世主が来るまで絶対に挑むなって言われてたんだけどね?……私も馬鹿だったから、アンタが来るまで待ってられなかったのよ」
焚火に照らされるティティスは一瞬自傷気味に笑ったように見えた。
「…待てなかったって言うと?」
「……王様も言ってた通りもうこの世界はやばいわ。魔の森の浸食は日に日に進み、毎日沢山の人が危険に晒されているの、亡くなったり犠牲になる人達だって少なくないわ。…だから、そんなの我慢できなくて、私達だけで四天王に勝てるかもなんて思い込んで挑んだのよ…。五年前も人類がヨトゥンに敗北していたのを学習もせずに、ね」
「…………」
ティティスは話す途中で度々悔しそうに唇を噛みしめる。
「まぁ、当たり前だけど私達の時も結果は敗北。同行してくれた兵士は私達を庇って全滅したわ。……占い師様の言い付けを守っていたら、彼等は死なずにすんだ…私が、私が馬鹿だったから……私が彼等を殺したの…」
「……………」
なんて声をかければいいのか分からなかった。
正直、ティティスの話を聞いて重いなって思った。
でも、その重いなって思える程キツイ現実の中を彼女等は生きてきてて、俺が来るまでの間にもこの世界は動いてて、色んな事が起こってて、そこにはきっと色んな涙や怒りや後悔があって、俺は異世界に来た事にテンション上がってて、自分は特別だとか思い込んでて、自分の事ばっかりで、正直こんな当たり前の事に気付けていなかった。
俺に出来る事をやるとか、今のままじゃ無理だ!俺はもっとこの世界の事を知らないといけないような気がした。
とにかく今の話は凄く胸に刺さったんだ。
「……あのさ?その占い師の予言って外れた事なかったんだろ?」
ただ元気付けようと思った、占い師の予言はぶっちゃけまだ信じられないけど、俺が同行する事で勝てると信じているんなら。
「え?あ、うん。そうよ」
「なら、さ?今回こそぶっ倒せるんだろ?ヨトゥンの奴をさ」
暗い雰囲気を吹き飛ばせるようにと、無理矢理作ったありったけの笑顔でティティスに笑いかける。
「……うん。え、てか何?その胡散臭い笑顔?凄く気持ち悪いんだけど、急にどうしたの?」
ティティスさんストレート過ぎ!せっかく頑張ったのに。
「あー、いや、一応元気付けようかと思って」
「あの気持ち悪い顔で?」
「いや、だからティティスさんストレート過ぎ!つか気持ち悪い顔で悪かったな!」
「あの顔で元気付けようとか辞めてよ?それに元気付けてやろうって発想が何か上から目線な感じがして腹が立つんだけど、更にあの気持ち悪い笑顔で言われたら尚更よ」
「……………」
あ、あれー?普通こう言うシーンでヒロイン励ます主人公って大概フラグ立てていかないですか?なのになんでですか?僕がフツメンだからですか?そう言えばラノベの主人公も自分はモテないフツメンだ的な設定が殆どだけど、よく見ればキャラデザなんだかんだイケメンでしたね、そうでしたね、まぁ、別にフラグ立つとか期待はしてなかったんですけど、ここまで顔をdisられるとも思ってなかったんでビックリです。
「あー、何かイチローの気持ち悪い笑顔見てたら緊張感もなくなっちゃったなー。あ、勇者のソレ美味しそう!私も真似しよう!」
今何個目になるのか分からない干し肉を頬張る勇者を見て、ティティスも同じように干し肉を袋から取り出し焚火の火で炙り出した。
「えー、凄く良い香りするんだけど」
disられたかいがあったのか、なんだかんだでいつものティティスに戻っていた。
こうやってはしゃいでる所見ると普通の女子って感じもする。
「あー、そう言えばさ?まだ二人にお礼言ってなかったよな?」
「ん?何が?」
ピンと来ていない表情のティティスと勇者が振り向く。
「亜人達から助けてくれてありがと」
「いいえ」
勇者は一瞬干し肉を食べる事を辞め、一言呟いた。
「なーんだ、何かと思ったらそんな事?アンタは一応救世主なんだから死なれたら困るに決まってるでしょ?ただ、それだけよ」
ティティスからは想像通りの返事が返ってきた事に少し口元が緩む。
「それでも、助かったよ。あの時まじで駄目かと思ったからさ」
会ったばっかりの時はまじで当たり強いしすぐに放置されるし何考えてるのか分からなかったけど、なんだかんだで良い奴等だよなって今は思う。
「よーし!俺も二人の真似して食べよっかな!」
干し肉が入っている袋を漁る、漁っているんだが、干し肉がどこにも見当たらない。
「え、嘘!?」
俺は袋を持ち上げ、中を広げ確認する。
うん、ないね、干し肉もうないね。
「ゆ、勇者さん?それ何個目でしょうか?」
ハムハムと小動物のように干し肉を食べている勇者はピタッと動きを止め、俺の質問に対して暫く無言で考えた後、恐る恐る指を二本立て俺に見せた。
「いやいやいやもっと食ってるだろ!」
勇者は暫く考えた後、しょんぼりした表情で食べかけの干し肉を差し出してきた。
「それはいらねーよ。あー……まぁ、食っちまったもんはしょうがないし……まじでそれは勇者が食べていいぞ」
その言葉で勇者の表情はパッと明るくなり再び干し肉を口にしようとするが、何を思ったのかギリギリで俺の顔色を伺ってきた。
「だから良いって。俺は適当にキノコでも焼いて食べるから」
そこまで言ってやっと勇者は安心したのか、嬉しそうに残りの干し肉を食べ始めた。
そんなに美味しそうに食べられたら文句も言いずらい、それに勇者には助けられてばっかりだからこれくらい譲らないとな。
ーー近くに生えてるキノコを引き抜き、焚火の火で炙る。
あんま美味しくなさそうだけど、今日はコレで我慢するしかないな。
「ちょっと…ねぇ?それ食べられるの?」
「へ?いや、大丈夫じゃねぇの?」
ティティスは俺が持っているキノコをジーっと見つめる。
「ちょっとコレ辞めた方がいいわよ?」
「ま、まじ?」
ティティスは俺からキノコを取り上げ地面に投げた。
あぁ、サヨナラ俺の焼きキノコ。
「……………はい、半分あげるから」
ティティスがさっき炙っていた干し肉を半分千切って差し出してきた、見た所まだ一口も食べていない奴だ。
「え?てか、お前まだ食べてなかったの?」
「アンタがぎゃーぎゃーうるさかったからね」
ティティスも全然食べてないのに俺が半分貰っていいものなのか?
「ちょっと!いるの?いらないの!?」
「あ、いります!いります!食べさせて頂きます!」
ティティスの行為に甘え俺達は炙った干し肉を半分ずつ食べた。
一個が結構なボリュームなので、意外と半分でも食べた感じがした。
ーー魔王、四天王の一匹であるヨトゥンが居る場所はココからそう遠くはないようだ、つまり明日辺りにヨトゥンと戦う事になるだろう。
先に二人を寝かせて焚火の番をしながら物思いにふける。
「…………勝ちたいよな」
静かに寝息を立てるティティスと勇者を見つめる。
俺には特別な力は何もない、でもそれでも、何か二人の力になれる事はないだろうかと色々と思考を巡らせていた。
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調子に乗って浮かれムードだったイチローも身の程をわきまえていきます。
そして次の話は遂にヨトゥン戦。




