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WILD BLOOD  作者: 西禄屋斗
第12話 ようこそ、悪の科学同好会へ 【 全 12 回 】
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失敗した者は決して許さぬのが、我が組織の掟

 琳昭館りんしょうかん 高校校舎地下、《秘密結社 悪の科学同好会》の部室──もとい、アジト。


「何をしていたんだ、《ビューティー・ビー》!」


「申し訳ございません、《悪魔大使》さま!」


 擬人化したハチのようなコスチュームにわざわざ着替えた 早乙女さおとめ 蜂子ほうこ は、悪の女幹部ビューティー・ビーとして《悪魔大使》からの叱責を受けた。首領の前で頭を垂れ、うやうやしくひざまずく。


 だが、《悪魔大使》となった 田隈たくま 太志たいし は怒りが収まらなかった。手にしたムチをじ切らんばかりに力がこもる。


「《ワニ》を発見しておきながら、みすみす取り逃がしてしまうとは!」


「お言葉ですが、あの状況では如何いかんともし難く──」


「黙れ! 言い訳など見苦しいぞ!」


「ははっ!」


 《ビューティー・ビー》は再び顔を伏せた。今の《悪魔大使》は子供が癇癪を起こしたようなもので、とても手がつけられない。しかし、あんなに野次馬がいる中で逃げた《ワニ夫》を捕まえろというのは、土台無理な話だ。


「──それにしても、私の造り上げた《ワニ夫》と互角に闘ったという、その男子生徒、いったい、何者だ?」


 《悪魔大使》は《ビューティー・ビー》からの報告により、《ワニ夫》と格闘を演じたアキトのことを知った。話を聞く限り、とても人間とは思えない。


 ……当然だろう。彼は 吸血鬼ヴァンパイア なのだから。


 試作第一号とは言え、サイボーグ手術を施した《ワニ夫》が人間相手に敗走したとは信じられないことだった。


 《悪魔大使》の問いかけに、《ビューティー・ビー》はおずおずと顔を上げる。


「調べたところによりますと、名前は仙月せんづきアキト。まだ転校して来たばかりの一年生とのことです」


 そう報告して、《ビューティー・ビー》は頬を染めた。あのどさくさの中、アキトに思い切り胸をまさぐられたことを思い出したのだ。あんなことは心酔している《悪魔大使》──太志にも許していない。


 M(マゾ)っ気のある《ビューティー・ビー》は、自分がワイルドな性格のアキトに惹かれているのを自覚していた。思い出しただけで顔が熱くなる。


 そんなことがあったなどとは露ほども知らない《悪魔大使》は、アキトの情報を聞いて眉をひそめた。


「仙月? 何処かで聞いたような気がするが」


「あのワニの飼い主も仙月美夜と申しておりました」


「何と! ということは、その二人は兄妹ということか? なぜ、そのような偶然が……怪しい。ひょっとして、我々を探るために接触してきたのか? むう、もう少し詳しく調査してみる必要がありそうだな」


「そちらはお任せください」


「いずれにせよ、悪の組織に歯向かおうとする正義のヒーローがいてこそ、こちらも対抗心に火がつくというもの! 次こそ怪人第二号で、その転校生とやらを血祭りに上げてやる!」


 《悪魔大使》の野望は、決してついえることはなかった。そう、まだ世界征服という覇業への第一歩を踏み出したに過ぎないのだ。バッ、とマントをひるがえす。


「──ところで《ビューティー・ビー》よ」


「はっ」


「失敗した者は決して許さぬのが、我が組織の掟」


「………」


「分かっているな、《ビューティー・ビー》?」


「お、お許しください、《悪魔大使》さま!」


 不穏な空気を感じ、《ビューティー・ビー》は後ずさったが、サディスティックな《悪魔大使》が彼女を見逃すわけがなかった。


「おしおきだ!」


 残忍とも言える笑みを浮かべると、《悪魔大使》は、いつの間にか手にしていたリモコンのボタンを押した。


 すると天井から二本のアームが伸びてきて、《ビューティー・ビー》の両腕を捉えてしまった。さらに違うボタンを押すと、先端に羽根やねこじゃらしのようなものをつけた別のアームが現れる。


「ど、どうか、お許しを……!」


「許さん」


 様々なギミックが《ビューティー・ビー》の身体をこちょこちょとくすぐり始めた。《ビューティー・ビー》は立ったまま、その肉感的な身体をくねらせ、官能的な動きで身悶える。


「ひゃーっ! あふっ! お、おやめください、《悪魔大使》さま!」


 目から涙をこぼしながら《ビューティー・ビー》は許しを乞うた。


 だが、《悪魔大使》は部下が苦しむ様を鑑賞しながらニタニタと笑うばかり。これぞ、まさしくS(サド)


「ダメだ。私がいいと言うまではな」


「ああっ、くっ、くすぐったいです! あはっ! あひぃ! もお、ダメ!」


 そう口では叫ぶ《ビューティー・ビー》も、《悪魔大使》にいじめられて、満更でもなさそうだった。変態としての度合いでは負けていない。


 こうして、《秘密結社 悪の科学同好会》の陰謀第一弾は失敗に終わった。






「元気を出して、美夜みやちゃん」


 すっかりしょげ返っている美夜をかおるは姉のつもりで励ました。


 美夜が兄たちと住んでいるマンションへと帰る道すがら。美夜と薫の他に、アキトとつかさも一緒だ。


 あれから美夜たちは、ゴエモンの姿を捜して八方手を尽くしたが、とうとう見つからず終いだった。


 都会の町中でワニを見かければ大騒ぎになるはずだが、そのような情報はまったく上がって来ず、恐らくは学校近くの川から下水にでも潜り込んだのだろうという結論に至った。


 せっかく甦ったペットのゴエモンがいなくなってしまったことに、飼い主である美夜はひどく落ち込み、つかさも薫も放っておけなくなったのである。


 しかし、いかにして一度死んだはずのゴエモンが生き返ったのか。最大の疑問がアキトたちに残った。


 ただ一人、事情を知っている美夜を兄であるアキトが問いつめると、ポツポツと謎のT氏について喋った。


 学校の地下室とサイボーグ手術――すぐには信じられないSFじみた話であった。


 それならばと、美夜はもう一度、地下室へ行くことを提案し、カメラをワニガメに壊された寧音ねね、そして大神おおがみの協力も得て、問題の場所を探し当てたのだが──


「あなたたち、何をしているの?」


 校舎裏で地下への入口を発見した一行に声をかけてきたのは、新任スクールカウンセラーの毒島ぶすじまカレンだった。


 意外な人物による、あまりにもタイミングの良い登場。美人カウンセラーを前にして、アキトたちは戸惑った。


「実はボクたち、学校の地下室を捜していて」


 良くも悪くもバカ正直なつかさが答えると、カレンはいつもの妖艶な笑みを向けてきた。


「確かに、ここが地下室への入口だそうよ。でも、かなり前から閉鎖されていて、今は中へ入れないって聞いているけど」


「えっ!? でも私、昨日、入りました!」


 すかさず美夜が反論した。するとカレンは怪訝な顔をするどころか、益々、穏やかで優しい表情を作った。


「そんなはずないわ。この扉は錆びついてしまって、鍵だって使えないんだから」


 そう言ってカレンは、鉄扉のノブをつかんで開けようとしてみたが、それを裏づけるようにビクともしない。アキトも試しに同じことをしてみたが、カレンの言う通り、鉄扉は完全に錆びついていた。


「う、ウソ……ウソよ!」


 信じられない、と顔を強張らせたのは美夜だった。ここから地下へ入ったのは間違いない。助手を名乗る女子生徒に案内され、T氏の研究室も見た。そこへゴエモンを運び込み、サイボーグ手術で甦らせてもらう約束をしたのだ。


 だが、美夜自身も鉄扉を確かめてみたが、簡単に開けられそうな代物ではなかった。もちろん、吸血鬼ヴァンパイア の力なら、こじ開けるのは造作もないが、薫たちの前でははばかられる。昨日の出来事は夢か幻だったのか、と美夜は自分の記憶を疑う。


「何や、つまらん」


 秘密の入口ということで、特ダネを期待していた寧音がガッカリした。


「さあ、下校時間はとっくに過ぎているわ。校内にワニが出現したなんて騒動もあったし、みんな、気をつけて帰るのよ」


 カレンに促されるまま、一行は退散するしかなかった。今ひとつ、釈然としない気持ちを抱きながら。


 かくして、すべてが謎のまま、一日が暮れようとしていた。一番、納得していないのは、もちろん美夜だ。


「そんなはずないわ……そんなはず……」


 自宅マンションのエレベーターに乗っても、美夜は一人で呟いていた。意気消沈した彼女を慰めるように、薫が肩に手をやる。


「私たちは誰も美夜ちゃんがウソをついているなんて思っていないわ」


「……どうだかな」


 後ろでボソッと言ったのはアキトだ。危うくゴエモンに殺されかけ、妹の言うことを信用していないらしい。


 次の瞬間、疑いをかけられた美夜ではなく、薫の足がアキトの爪先を思い切り踏みつけていた。途端にアキトの顔が赤くなり、次に青く変化する。


「いっっっっっ、てぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 足の指が潰されたような痛みに、アキトは悲鳴を上げた。ゴエモンと闘ったときよりも、本日最大のダメージかも知れない。


 薫は何事もなかったかのように澄ました顔をしていた。


「ゴエモンなら、そのうちきっと見つかるよ。だから、そんな顔しないで」


 つかさも落ち込んでいる美夜を元気づけようとした。それでも美夜の表情は晴れない。


 エレベーターを十三階で降り、四人は部屋の前に辿り着いた。アキトが鍵を取り出して開けようとする。ところが鍵は回らなかった。


「あれっ? ドアが開いてら。珍しく兄貴のヤツ、早いな」


 上の兄で、区役所勤めの影人かげひとが帰宅しているのか、と思いながらアキトがドアノブに手をかけ、開けようとすると──


「キシャアアアアアッ!」


「どわあああああああっ!」


 アキト目がけて、黒々としたものが飛びかかって来た。それを見て、一同、仰天する。


「ゴエモン!」


 中でも喜びの声を上げたのは美夜だ。


 アキトに襲いかかったもの──それは紛れもない、学校から何処いずこかへ逃走したと見られていたゴエモンであった。


 不意討ちに成功したゴエモンは倒れ込んだアキトの上にのしかかり、頭に噛みつこうと躍起になっていた。それをアキトは必死になって、口を閉じさせまいと両手で阻止する。その上に、さらに美夜が飛び乗った。


「お帰り、ゴエモン! 良かった、無事で!」


「良かないわぁ! 美夜! 早くこいつをどけさせろ!」


 愛情たっぷりにゴエモンへ抱きつく妹に、餌になりかけのアキトは怒鳴った。


 よもや思いもしなかった目の前の展開に、茫然と立ち尽くすのはつかさと薫だった。アキトが食べられそうになっているというのに、助けようという気にもなれない。


「まったく、何がどうなって……」


 と、薫がぼやけば、つかさが、


「あっ! ひょっとしてゴエモンの帰巣本能が働いて、美夜ちゃんの元に戻って来たのかな?」


 と、ポンと手を叩いて結論づけた。果たして、ワニに帰巣本能はあるや否や。


「おい! 早くどかせってんだよ!」


 ゴエモンたちの下敷きになって、身動きの取れないアキトが喚く。


 何はともあれ、これにて一件落着――なのであろうか?

 第12話おわり

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