↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り上がりたい理由が初恋ではだめですか?〜全クランの入団試験に落ちた少年が死地で覚醒して最強の探索者へと成り上がる  作者: kiro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/37

テディの憂鬱



「……おい、見ろよ。あいつがあの『雷霆の黒竜王』をぶっ飛ばしたっていう、特例昇格のA級探索者……」


「ああ、間違いない。バカでかい戦槌を持った、あの優しそうな少年だろ。なんでも、二つ名が……」


第一大陸探索者ギルドの地上エントランス。 復興作業で活気づくロビーを歩くリヒトの背中に、周囲の探索者たちからヒソヒソと囁き声が突き刺さる。


「……【微笑みの黒鋼熊(スマイリー・テディ)】、だっけ」


「おいバカ、笑うな。あんなファンシーな名前だけど、中身はデカい武器を振り回して戦う最凶の狂戦士らしいぞ」


「プッ、でもスマイリーって……」


(……死にたい。俺の再生能力でも、この精神的ダメージは回復できない……っ!)


リヒトは真っ赤になった顔を両手で覆い、ギルドの廊下を逃げるように小走りで進んだ。


隣を歩くSS級探索者【極光の剣姫】ことアリアは、周囲のヒソヒソ話を「市民に親しまれている証拠ね」と完全にポジティブに脳内変換しており、どこか誇らしげに胸を張っている。


「アリアさん……俺、もうギルドの表口から出入りできないかもしれないです」


「何を言っているの、テディ。A級の特権階級なのだから、もっと堂々としなさい」


「名前で呼んでくれませんか!?」


絶望するリヒトの背中を、後ろからトテトテと追いかけてきたアイラが「テディリヒト、可愛いよ!」と無邪気にポンポンと叩いた。


ギルド本部を抜け出し、三人が向かった先は、一時的に場所を移転したクラン『ステラ・ノヴァ』の仮設拠点だった。


王都防衛戦で元の路地裏の拠点は半壊してしまったが、マスターであるクロエが「実家(名家)のポケットマネー」をあっさりと切り崩し、商業区の一等地に立つ真新しいビルを丸ごと買い取ってしまったのだ。C級探索者でありながら、その財力と権力は完全にS級クラスである。


「遅いわよ、スマイリー・テディ君」


真新しい地下工房の扉を開けると、真新しい白衣に身を包んだクロエが、ニヤニヤと笑いながら出迎えた。


「マスターまでそのいじり方……」


「いいじゃない、可愛くて。それに、可愛いテディベア君には、私から最高のプレゼントを用意してあるわよ」


クロエが指を鳴らすと、工房の奥のシャッターが重々しい音を立てて開いた。 そこに鎮座していたのは、見慣れた漆黒の戦槌——いや、違う。


「アバランチ……?なんか、前より一回り大きく、いかつくなってませんか?」


「ええ。王都奪還戦であなたが砕いた『雷霆の黒竜王』の魔石と鱗、それに私の実家のコネで取り寄せた最高純度の黒星鉱を合成して、完全改修(フルチューン)を施したわ。……名付けて、【絶撃の戦槌アバランチ・ノヴァ】よ」


リヒトが恐る恐るその柄を握り、持ち上げてみる。 ズンッ、と腕に伝わる圧倒的な超質量。以前のアバランチすら赤子に思えるほどの重さだが、限界突破を果たしたリヒトの【筋力】には、むしろこれくらいがちょうど良く手に馴染んだ。


「魔力伝導率も引き上げてあるから、アリアのお姫様の極光魔法(エンチャント)を受けても、そう簡単にはヒビすら入らないわ。……まあ、微笑むクマさんが持つには、ちょっとばかり狂暴すぎる鈍器だけどね」


「すっごい……!ありがとうございます、マスター!」


リヒトが目を輝かせて戦槌を振るう横で、アリアもまた、クロエに向けて静かに頭を下げた。


「クロエさん。リヒトの装備だけでなく、クラン『戦乙女の剣』への膨大な復興支援物資まで……。いくら名家とはいえ、本当にご迷惑をおかけして」


「いいのよ。私の可愛い団員(アイラ)と、その保護者(リヒト)を気にかけてくれたお礼。それに——」


クロエは丸眼鏡の奥の瞳を、スッと細めた。


「明日から向かうんでしょ?ギデオンが隠していた、『未踏破領域』に」


その言葉に、工房の空気がスッと引き締まった。 未踏破領域。ギルドのマップには存在せず、第三大陸のSS級が秘密裏にラボとして利用していた未知の階層。人工魔神という規格外の化け物を生み出した、狂気の底。


「ええ。第一大陸の威信にかけても、あそこを放置するわけにはいかないわ。私とリヒトで先遣隊として突入し、内部の安全を確保する」


「私も行くよっ!リヒトのサポートは私の役目だもん」


アイラが胸を張ると、リヒトも頼もしそうに頷いた。


「準備は万端です。……行こう、俺たちの新しい戦場へ」


翌朝。


第35階層の最奥、崩落した谷底の先に現れた重厚な黒鋼のゲートの前に、リヒト、アリア、アイラ、そしてエリーゼたち調査隊の姿があった。


『——生体認証を確認。これより、未踏破領域のゲートを開放します』


無機質なシステム音声と共に、重々しい金属音を立てて未知への扉が開かれていく。 だが、その奥から現れた光景に、リヒトたちは息を呑み、絶句することになる。


「……嘘、でしょ。ダンジョンの地下に、こんな空間が……?」


アリアが驚愕に銀色の瞳を見開く。 ゲートの先に広がっていたのは、見慣れた洞窟でも、魔素の漂う自然の地形でもなかった。 それは、青白いネオンがどこまでも続く、高度に機械化された『見知らぬ巨大都市の廃墟』だったのだ。


底知れぬ狂気の遺物と、世界の真実が眠る未踏破領域。 【極光の剣姫】と【微笑みの黒鋼熊】の、新たな冒険の幕が今、静かに上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。