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成り上がりたい理由が初恋ではだめですか?〜全クランの入団試験に落ちた少年が死地で覚醒して最強の探索者へと成り上がる  作者: kiro


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首都陥落

『緊急事態(エマージェンシー)!! 


第一大陸、探索者居住区にて正体不明の空間の歪み(ゲート)が複数発生!』


エリーゼの通信機から響く絶叫と、爆音。 第35階層の冷たい空気の中、アリアは気を失ったリヒトを抱きかかえたまま、鋭く銀色の瞳を細めた。


「状況を報告しなさい、エリーゼ」


「……最悪です。ギルド本部の管制システムからの情報によると、居住区の上空および主要な広場に、突如として深層級のゲートが十数個も同時多発的に開いたと」


エリーゼの顔から、完全に血の気が引いていた。 深層の魔物が地上に溢れ出す『スタンピード』


それは本来、国家認定クランが数週間前から予兆を観測し、総力を結集して防衛線を構築しなければならないほどの災害だ。何の前触れもなく、しかも人口密集地のど真ん中で発生するなど、前代未聞の事態だった。


「防衛戦力は? 他のトップクランは何をしているの!」


「それが……現在、第一大陸の主力クランは運悪く出払っているようで……」


エリーゼは悔しげに唇を噛み、絶望的な報告を口にした。


「国家認定クラン『天穹の聖騎士団』を率いるSS級探索者『獅子王』レオンハルト様を筆頭に、『竜殺しの灰刃』のマスターであるS級『爆炎の魔女』イザベラ様や、『紫雷の閃騎士』ガウェイン様など……第一大陸が誇るS級以上の探索者たちは、こぞってダンジョンの大規模遠征で出払っています。加えて、他大陸との定例会議で残りのトップ層も不在……現在、地上で防衛の指揮を執れるのは、各クランの留守番を任されていたA級探索者たちのみです!」


「……ギデオン。あの男、最初からこの『空白の時間』を狙って……ッ」


アリアの奥歯がギリッと鳴った。 第一大陸の最高戦力の大半が地下深くや国外にいる、奇跡的なまでの手薄なタイミング。それを狙いすましたかのように蒔かれた『破滅の種』。


「帰還陣(ゲート)を開けなさい。地上へ戻るわよ」


アリアはリヒトを抱えたまま、帰還用の魔法陣へと飛び込んだ。エリーゼとアイラもそれに続く。


数秒後。第一大陸の探索者ギルド本部、地上エントランスへと転送された彼女たちの視界に飛び込んできたのは——文字通りの『地獄』だった。


「ギャァァァァッ!!」

「助けてくれ! 防衛線が抜かれたぞ!!」


かつて大勢の探索者たちで賑わっていた広大なエントランスは、血の海に沈んでいた。 ステンドグラスの窓は砕け散り、空はどす黒い魔力溜まりによって赤黒く染まっている。


上空に浮かぶ巨大な亀裂からは、『深淵の猟犬』や『魔殻の黒腕猿』といった深層の魔物たちが、まるで滝のように絶え間なく地上へと降り注いでいた。


「陣形を崩すな! 魔法部隊、一斉掃射!」


広場の中央では、A級探索者たちが決死の防衛線を敷いていた。 戦術級兵器と呼ばれる彼らの魔法や斬撃が炸裂し、数十体の魔物を吹き飛ばす。 だが——無意味だった。


倒しても、倒しても、ゲートからはその十倍の数の魔物が湧き出してくるのだ。深層の瘴気を帯びた変異種たちの暴力的な物量の前に、A級探索者たちの魔力とスタミナが急速に削られていく。


「アリア様!」

「ええ!」


アリアが片手で細剣を抜き放ち、魔力を広場へ向けて解放しようとした。 だが、その瞬間。 彼女の高い感知力が、上空のゲートからさらに凶悪な気配が産み落とされるのを捉えた。


「グォォォォォォォッ!!」


現れたのは、第33階層でリヒトが単独討伐した『暴虐の黒竜』——それと同サイズの変異種が、なんと「五体同時」に空から降ってきたのだ。


「嘘、だろ……」


A級の防衛隊長が、絶望に剣を取り落とした。


黒竜たちが一斉に極大の熱線(ブレス)を放つ。重武装のタンカーたちが構えた最高級の魔力盾が、まるで薄紙のように一瞬で蒸発し、十数人のA級探索者たちが悲鳴を上げる間もなく炭化して吹き飛んだ。


「——ッ!」


アリアは空気を凍らせて数発の熱線を相殺したが、その直後、足元から地響きを立てて無数の巨大な水晶蜘蛛がギルド本部の壁をよじ登ってきた。


(……不味い)


アリアは冷徹に戦況を計算し、戦慄した。 自分一人であれば、この軍勢を相手に何日でも戦い抜き、やがて全滅させることはできるだろう。


だが今、彼女の腕の中には意識を失ったリヒトがいる。背後には、乱戦になれば身を守りきれないS級のエリーゼと、D級のステータスしかないアイラがいる。


無限に湧き出す深層の魔物の群れから彼らを守りながら、この防衛線を維持することは——SS級のアリアであっても「不可能」だった。


「マスター!!応答してっ!!」


その時、背後でアイラが通信機に向かって半狂乱で叫んでいた。 雑音混じりの通信機から、途切れ途切れにクロエの声が響く。


『……アイラ、無事……ね。リヒト君は……』


「私たちはアリアさんと一緒にギルド本部にいます!マスター、すぐ助けに——」


『来ちゃダメっ!!』


通信機越しに、建物が倒壊する轟音と、魔物の咆哮が響いた。 ステラ・ノヴァの拠点は路地裏にある。防衛線が突破された今、最も早く魔物の餌食になる場所だ。


『ここはもう、囲まれたわ。……アイラ、リヒト君を絶対に守りなさい。私は……』


——ドゴォォォォンッ!! 凄まじい破壊音が響き、通信は完全に途絶した。


「マスター!?マスターぁぁぁっ!!」

「アイラ様、落ち着いて!今は移動が先決です!」


泣き叫ぶアイラを、エリーゼが強引に抱え上げる。 広場の防衛線は、すでに完全に崩壊していた。


残っていたA級探索者たちが、黒竜の牙に噛み砕かれ、猟犬の群れに引き裂かれていく。第一大陸の誇る精鋭たちが、文字通り蹂躙され、全滅していく地獄絵図。


「アリア様、ご決断を!このままでは全滅します!」


エリーゼの悲痛な叫びに、アリアはギリッと唇から血が出るほど強く噛み締めた。 戦乙女として、民と街を見捨てて逃げることなどあってはならない。


だが、今ここで強引に戦えば、腕の中にいる彼を確実に死なせることになる。


「……ギルドの地下、最深部にあるシェルターへ撤退するわ!」


血を吐くような命令だった。 アリアは迫り来る黒竜の群れに向けて絶対零度の吹雪を放ち、一瞬だけ視界を奪うと、その隙にリヒトを抱えたままギルドの地下階段へと身を翻した。


背後で、逃げ遅れた人々の悲鳴と、A級探索者たちの断末魔が炎に飲まれていく。 王都は完全にモンスターに占領された。


かつてない圧倒的な絶望と敗北感の中、未だ目を覚まさない青年の温もりだけが、アリアの腕の中で静かに脈打っていた。


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