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成り上がりたい理由が初恋ではだめですか?〜全クランの入団試験に落ちた少年が死地で覚醒して最強の探索者へと成り上がる  作者: kiro


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共鳴



B級への特例昇級とパーティ結成の認可。 ギルド本部での手続きを嵐のように終わらせた後、三人は路地裏にある『ステラ・ノヴァ』の地下拠点へと戻ってきていた。


「いやあ、傑作だったわ! ジンの奴、完全に顔面蒼白だったじゃない。ギルドの幹部連中も、あんなに綺麗に顎を落とすなんてね!」


白衣姿のクロエは、デスクの上に置かれた魔導ランプの光を浴びながら、腹を抱えて大笑いしている。 その向かいのソファでは、真新しい銀色のB級タグを首から下げたアイラが、まだ夢でも見ているかのように、自分の胸元をそっと撫でていた。


「私、本当にB級に……。昨日まで、D級だったのに」


「アイラ、それ、すごく似合ってるよ」


隣に座っていたリヒトが、淹れたての温かいお茶が入ったマグカップを彼女に手渡しながら、ふんわりと笑いかけた。 その声はひだまりのように温かく、少しだけ間の抜けた響きがある。


ギルドの修練場で、数十トンもある魔獅子を一撃で粉砕した狂戦士と同一人物だとは、到底思えない。


「あ、ありがとう、リヒトさん……」

「リヒトでいいよ。これからは同じパーティの仲間なんだし」


アイラがマグカップを両手で包み込むように受け取ると、リヒトは嬉しそうに目を細めた。 三十回以上もパーティから追い出され、誰からも恐れられてきたアイラにとって、こんな風に隣で優しく微笑みかけてくれる存在は初めてだった。まだ少しだけ緊張してしまうが、彼から伝わってくる体温が、アイラの凍りついていた心を少しずつ溶かしていく。


「さて、お茶会もいいけど、ここからが本番よ」


クロエが笑いを収め、タブレットを操作して空間にダンジョンのマップを投影した。 第20階層までが青色で表示されているのに対し、第21階層から下は、禍々しい赤黒い光で明滅している。


「第21階層以降が、熟練の探索者でも命を落とす真の死地よ。これまでの階層のように、ただステータスが高いだけの魔物が単独でうろついているわけじゃないわ。軍隊のように統率された群れ、地形を利用したトラップ、そして致死性の毒や精神攻撃(デバフ)……。一切の油断が死に直結する領域よ」


「命を落とす……」


「でも、君たちならやれるわ」


クロエは自信満々に言い切った。


「アイラの『死神の領域』は、敵の戦術や連携の前提となるステータスを強制的に半減させる。そして、そのデバフを完全に無効化(レジスト)し、逆に適応によって基礎スペックを跳ね上げるリヒトが、弱体化した魔物をすり潰す。……控えめに言って、ダンジョンの生態系を破壊するレベルの最凶コンボよ」


リヒトは傍らに立てかけてある漆黒の戦槌、【アバランチ】を見つめた。 A級探索者すら振るうことを諦めた超質量兵器。これとアイラのサポートがあれば、もっと深くへ潜れる。あのSS級の『戦乙女』、アリアの背中を追うために。


「行こう、アイラ。俺たちの力を、試しに」

「……うんっ!」


アイラは力強く頷いた。


——その日の午後、第一大陸ダンジョン・第21階層。

転送陣を降りた瞬間、二人の肌を撫でたのは、刺すような冷気と濃密な魔力の霧だった。 周囲は青白い光を放つ巨大な水晶の柱が乱立する、迷路のような空間。視界は極端に悪く、足音すらも霧に吸い込まれていくような不気味な静寂が支配していた。


「リヒト、すごく嫌な気配がする……。あちこちから、たくさんの目がこっちを……」


アイラがローブの裾をギュッと握りしめ、リヒトの背中に隠れるように身を寄せる。 まだ中層とはいえここから難易度が切り替わるといわれるこの階層では、魔物の知能も跳ね上がる。彼らは侵入者をすぐには襲わず、確実に仕留められる包囲網を敷いてから牙を剥くのだ。


「大丈夫だよ、アイラ。俺がいるから」


リヒトはアイラを安心させるように優しく微笑みかけた後、ゆっくりと振り返り霧の中を見据えた。 その瞬間、彼の瞳から「温厚で頼りない青年」の気配が完全に抜け落ちた。 極限の死線を潜り抜けてきた強者の、研ぎ澄まされた氷の刃のような眼差し。背中のホルダーから【アバランチ】を音もなく引き抜き、低く腰を落とす。


「……来る。十、いや、二十。上からもだ」


リヒトの静かな声が響いた直後。 水晶の柱の陰から、そして頭上の岩肌から、一斉に無数の影が飛び出してきた。 第21階層の厄介な群れ、『深淵の猟犬(アビス・ハウンド)』。


一匹一匹がC級上位に匹敵するスピードと殺傷力を持ち、巧みな連携で獲物を死角から引き裂く魔物の群れだ。


「アイラ、お願い」

「——っ、『死神の領域(デス・エリア)』!!」


アイラが両手を胸の前で交差し、祈るように固有スキルを解放する。 ドクンッ、と。 彼女を中心に半径20メートルの空間が、生命力を奪い取る呪いの領域へと変貌した。


「ギャンッ!?」 「グル、ルゥゥ……ッ!」


四方八方からリヒトたちに襲いかかろうとしていた猟犬たちが、領域に踏み込んだ瞬間、空中で目に見えて失速した。 【敏捷】も【筋力】も強制的に半減させられ、着地に失敗して水晶の床に無様に転がる。彼らの自慢の連携は、アイラのデバフの前に完全に崩壊していた。


一方で、領域の中心に立つリヒトの肉体は、【絶対適応】によってアイラの呪いを「敵対環境」として認識し、完璧にレジストしていた。


「そこだ」


リヒトの姿がブレた。 猟犬たちが体勢を立て直すより早く、リヒトは【筋力95】の爆発的な脚力で水晶の床を蹴り、群れの中央へと飛び込んでいた。 一切の無駄がない、洗練された殺意。 アバランチが唸りを上げ、真横に薙ぎ払われる。


——ゴガァァァァンッ!!


水晶の柱ごと、三匹の猟犬がまとめて粉砕された。 衝撃を100%伝達する黒星鉱の特性により、発生した衝撃波が後続の猟犬たちの内臓を揺らし、血を吐かせて吹き飛ばす。


デバフで体が重くなり、逃げることすらままならない猟犬たちにとって、B級領域の筋力で振るわれる超質量兵器は、回避不能の天災に等しかった。


「次」


リヒトは立ち止まることなく、返しの刃(打撃面)で背後から迫っていた猟犬の頭部をカチ上げ、そのまま上段から別の個体を床ごと叩き潰す。 まさに蹂躙。 アイラのスキルで「ただの的」と化した凶悪な魔物たちを、リヒトが圧倒的な暴力で刈り取っていく。ものの三分で、二十匹近い深淵の猟犬はすべて魔石へと変わっていた。


「ふぅ……終わったよ。怪我はない? アイラ」


アバランチを肩に担ぎ直し、リヒトは振り返った。 先ほどまでの冷酷な狂戦士の気配は嘘のように消え去り、いつものふんわりとした、少しドジを踏みそうな青年の笑顔に戻っている。


「す、すごい……。私のスキルが、あんなに……」 「アイラのタイミングが完璧だったおかげだよ。これなら、この階層でもどんどん先に進めそうだね」


リヒトが伸ばした手を、アイラは今度はためらうことなく、しっかりと握り返した。 自分の呪いが、この人の力になる。 狂戦士と死神。ギルドから見放された二つの『変数』が、ダンジョンの底へ向かって、いよいよ本格的な快進撃を始めようとしていた。


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