第99話 《侵食源》
外界。
そこには“死”の匂いが満ちていた。
カイン
巨大存在たちの間を、カインは歩いていく。
いや。
歩くという表現すら正しくない。
空間がない。
距離もない。
移動の概念すら曖昧。
それでも。
カインは“進んでいた”。
周囲には無数の外界存在。
星より巨大な影。
数学的に歪んだ生命。
感情の集合体みたいな何か。
だが。
襲ってこない。
ただ。
静かにカインを見ている。
まるで。
“案内している”みたいに。
その先。
外界の中心。
そこだけは異質だった。
巨大な黒。
宇宙そのものが陥没したみたいな領域。
光がない。
時間がない。
存在が沈んでいる。
見た瞬間。
カインは理解した。
「……これ」
「宇宙か」
正確には。
“宇宙だったもの”。
崩壊している。
壊れている。
死んでいる。
その黒い領域には、文明の残骸が浮いていた。
巨大都市。
崩壊した星。
砕けた人工構造体。
全部。
完全に停止している。
終わった世界。
死んだ宇宙。
カインの脳へ、外界情報が流れ込む。
ザザザッ――
断片的な記録。
滅亡。
崩壊。
法則破綻。
宇宙そのものが維持不能になった。
その結果。
壊れた現実が流出を始めた。
現在世界への侵食。
つまり。
外界は侵略者じゃない。
悪意でもない。
ただ。
“壊れた宇宙の残骸”だった。
世界法則が崩れているから。
別宇宙へ漏れ出す。
その過程で。
現在世界が侵食されている。
カインは静かに呟く。
「……災害、か」
誰かの意思じゃない。
憎悪でもない。
自然現象に近い。
宇宙崩壊。
その余波。
だから恐ろしい。
相手は軍隊でも神でもない。
もっと根本的。
概念レベルの破滅。
その時。
空間へノイズが走る。
観測者の声。
観測者
『侵食源確認』
『封鎖維持不能』
『現行世界崩壊予測』
数字が並ぶ。
99.2%
99.4%
99.7%
滅亡確率。
ほぼ確定。
カインは黒い中心を見つめる。
死んだ宇宙。
そこから。
壊れた現実が漏れている。
止めなければ。
現在世界も同じになる。
その時だった。
黒い中心部。
そこから。
“声”が聞こえた。
言葉じゃない。
感情。
悲鳴。
絶望。
滅びた宇宙そのものが泣いている。
カインの表情が少し変わる。
「……助けを求めてんのか?」
誰にともなく呟く。
そして。
ゆっくり手を伸ばした。
周囲の外界存在が一斉に静止する。
巨大存在たちが見守る中。
カインの指先が。
侵食源へ触れる。
その瞬間。
黒い宇宙が脈動した。




