第98話 《外側の宇宙》
外界。
そこは“宇宙”という言葉ですら足りなかった。
カイン
カインは静かに立っている。
だが。
立っている感覚すら曖昧だった。
地面がない。
重力もない。
上下という概念も存在しない。
それなのに。
落ちていない。
浮いているわけでもない。
ただ、“そこに在る”。
空間そのものが、人類の理解を拒絶していた。
遠方。
巨大な構造体が無限に折り重なっている。
都市にも見える。
生物にも見える。
数式にも見える。
視線を向けるたび形が変わる。
世界そのものが不定形。
さらに異常なのは“時間”だった。
一歩進む。
その瞬間。
幼い頃の記憶が視界へ割り込む。
次の瞬間には未来らしき光景。
崩壊した王都。
泣いているセリス。
笑うルナ。
全部が同時に存在している。
時間が直線じゃない。
過去も未来も混在していた。
「……なんだここ」
カインですら顔をしかめる。
普通なら脳が壊れる。
だが。
彼だけは耐えていた。
さらに。
音が見える。
遠方で響くノイズ。
それが色彩として空間へ浮かぶ。
逆に。
光景が“音”になる。
赤い空間が悲鳴を上げ。
黒い海が低音で唸る。
感覚器官の定義が崩壊していた。
そして。
感情すら物理化している。
恐怖は黒い霧。
怒りは赤い雷。
絶望は重力になる。
空間全体へ、無数の感情が漂っていた。
外界。
そこは。
法則そのものが異なる宇宙だった。
その時。
カインの脳へ、再び外界言語が流れ込む。
ザザザッ――
文字。
概念。
宇宙規模の情報。
だが。
カインだけが読み取れる。
そして。
真実を理解した。
「……箱庭」
その言葉が漏れる。
現在世界。
神々が管理していた世界。
あれは本来。
外界から隔離するための閉鎖領域だった。
巨大な封印空間。
防護世界。
つまり。
今までの世界は。
“箱庭”。
外界から生命を守るための隔離施設。
神々も。
観測者も。
全部。
箱庭維持システム。
だから。
世界は閉じていた。
だから。
外側を禁じた。
だから。
観測を恐れた。
全部。
外界が危険すぎたから。
カインは静かに空間を見渡す。
いや。
“空間”という言葉すら違う。
ここには物理法則がない。
現実そのものが不安定。
生命が存在できる環境じゃない。
それなのに。
何かがいる。
無数に。
巨大な影。
宇宙サイズの輪郭。
視認するたび構造が変化する存在群。
外界生命体。
人類が見れば即発狂。
神々ですら解析不能。
だが。
その全てが。
カインを認識していた。
ザザザザザ――
空間全体へノイズが走る。
巨大存在たちが動く。
近づいてくる。
星々より巨大な“何か”。
概念そのものみたいな存在。
その圧力だけで、宇宙が軋む。
だが。
カインだけは立っていた。
そして。
最も巨大な存在が。
ゆっくりと。
カインへ接近する。




