第97話 《外界突入》
世界が終わりかけていた。
赤い空。
崩壊した月。
逆流する時間。
黒い海。
空間ノイズ。
王都はもう原形を保っていない。
それでも。
空の裂け目だけは、静かに脈動していた。
まるで。
世界そのものを喰らう口のように。
その前に立つのは一人。
カイン
誰も止められない。
いや。
止めたい。
だが。
全員分かっていた。
行けるのはカインだけ。
外界侵食。
観測汚染。
存在崩壊。
全部。
カイン以外は耐えられない。
ルナが唇を噛む。
ルナ
「理論上、生還確率は……」
途中で止まる。
言えない。
ゼロに近い。
いや。
そもそも“生還”という概念が成立するかも分からない。
外界は別宇宙。
法則そのものが違う。
人類未踏。
神々ですら接触不能。
そんな場所へ。
カインは一人で行こうとしている。
レグルスが拳を握る。
レグルス
「俺も行く」
即答だった。
だが。
カインは首を横に振る。
「無理だろ」
「お前、たぶん三歩で壊れるぞ」
「……ッ」
反論できない。
勇者ですら。
外界には耐えられない。
ゼノも珍しく真顔だった。
ゼノ
「俺でも無理だ」
「近づくだけで存在が削れる」
魔王。
神々と渡り合った存在。
そのゼノですら不可能。
つまり。
本当に。
カインしかいない。
アストラが静かに目を伏せる。
アストラ
「観測外存在……」
「あなただけが境界を越えられる」
神ですら認める。
唯一適合者。
世界でただ一人。
裂け目へ到達可能な存在。
セリスが前へ出た。
セリス
いつもの強い表情じゃない。
不安。
恐怖。
全部隠し切れていない。
「本当に行くの?」
カインは軽く笑う。
「まぁな」
「このままだと世界終わるし」
あまりにも普段通り。
だから余計に苦しい。
セリスは拳を握る。
震えていた。
「……帰ってこれるの?」
沈黙。
カインは答えない。
分からないから。
誰にも。
外界の先なんて。
その時。
セリスがカインの服を掴んだ。
小さく。
震える声。
「絶対戻ってきて」
その一言だけだった。
王女じゃない。
国家代表でもない。
ただ、一人の少女の願い。
カインは少し困った顔をする。
そして。
「努力する」
いつもの調子で笑った。
ルナが顔を背ける。
アイリスは黙ったまま剣を握る。
アイリス
誰も止められない。
止める資格もない。
だから。
見送るしかなかった。
カインは裂け目へ向き直る。
黒いノイズ。
世界の外側。
そこへ。
一歩踏み込む。
瞬間。
空間が反転した。
視界が壊れる。
上下左右が消える。
世界法則が剥がれる感覚。
普通なら即座に発狂。
存在崩壊。
だが。
カインだけは立っていた。
そして。
外界へ到達する。
そこは。
完全異質世界だった。
空が存在しない。
地面も定義できない。
色が成立していない。
巨大構造物が無限に重なり。
数学式みたいな海が流れ。
遠方では星そのものがノイズ化している。
現実が狂っていた。
そして。
“何か”がいた。
無数。
巨大。
理解不能。
世界の外側の住人たちが。
一斉に。
カインを見ていた。




