第89話 《神々の罪》
王都は崩れ始めていた。
空の裂け目。
流れ込む黒いノイズ。
外界汚染。
世界そのものが壊れていく。
そして。
AL-0の言葉が全員を沈黙させていた。
『古代滅亡現象と一致』
古代文明。
神代文明。
かつて世界を支配していた超文明。
その滅亡理由。
今、王都で起きている現象と同じ。
セリスが震える声で聞く。
セリス
「……どういうことなの」
「古代文明は、これで滅んだの?」
AL-0は答えない。
代わりに。
白銀の光が空間へ降りた。
神域接続。
現れたのはアストラだった。
アストラ
だが。
以前のような圧倒的神威はない。
疲弊している。
いや。
怯えていた。
運命神が。
セリスが鋭く睨む。
「あなたたちは知っていたのね」
「この世界が壊れることを」
アストラは否定しなかった。
長い沈黙。
その後。
静かに口を開く。
「……ええ」
王都の空気が重くなる。
ルナが身を乗り出す。
ルナ
「外界って何?」
「なんで古代文明は滅んだの?」
アストラは空を見上げた。
裂け目。
黒いノイズ。
あれを見つめる神の瞳は、どこか諦めていた。
「古代文明は」
「“外側”を観測してしまったのです」
その言葉に。
カイン以外の全員が息を呑む。
「観測……?」
アストラは続ける。
「この世界は閉じたシミュレーション世界」
「ですが、外には別領域が存在する」
「それが“外界”」
世界の外。
現実のさらに外側。
存在してはいけない領域。
古代文明は、そこへ到達しかけた。
そして。
見てしまった。
理解してしまった。
観測してしまった。
その瞬間。
汚染が始まった。
「外界は」
「認識そのものへ侵食します」
「見るだけで汚染される」
「理解するだけで壊れる」
だから。
古代文明は崩壊した。
最初は研究者。
次に都市。
最後には文明全体。
世界法則そのものが侵食され。
現実が維持できなくなった。
ルナが顔を青くする。
さっき自分が汚染されかけた理由。
理解しようとしたから。
セリスが唇を噛む。
「じゃあ……」
「神々は何をしてたの」
アストラは静かに目を閉じた。
「封印です」
「情報を隠し」
「世界を閉鎖し」
「外界を知らせないようにした」
神々の役割。
本来は人類守護。
創世神の意思もそこにあった。
だが。
外界を知った瞬間、人類は壊れる。
だから神々は選んだ。
隠蔽。
歴史改変。
文明制御。
観測禁止。
自由より安全。
可能性より維持。
その果てが。
今までの管理社会だった。
ゼノが鼻で笑う。
ゼノ
「随分勝手な話だな」
アストラは反論しない。
「……ええ」
「ですが」
銀の瞳が揺れる。
「我々は、世界を守りたかった」
その声には。
初めて感情があった。
恐怖。
後悔。
苦悩。
神々は冷酷だった。
だが。
最初から悪だったわけじゃない。
全部。
外界を恐れた結果だった。
レグルスが険しい顔で呟く。
レグルス
「つまり神々は」
「世界を閉じ込めることで、人類を守ろうとしたのか……」
「……はい」
その瞬間。
空の裂け目がさらに広がった。
ゴォォォォォ……
黒いノイズが流れ込む。
世界が軋む。
アストラはその光景を見つめながら。
静かに言った。
「我々は恐れていたのです」




