第83話 《最後の管理者》
静寂だった。
創世神コア最深部。
白い演算空間。
その中心で。
巨大球体が静かに脈動している。
『観測外存在KAIN』
『あなたは世界を修復しますか?』
問いだけが響いていた。
誰もすぐには答えられない。
重すぎた。
カインは黙ったまま立っている。
カイン
世界を救う。
簡単な言葉。
だが。
その意味は。
創世神ログで既に示されていた。
今の世界は閉じている。
神々によって固定されたシミュレーション。
未来は管理され。
可能性は制御され。
生命は“安定”のために抑圧されている。
それを壊す。
つまり。
世界法則そのものを再構築する。
AL-0が静かに告げる。
AL-0
『世界修復が実行された場合』
『現行世界法則は崩壊します』
セリスが顔を上げる。
セリス
「……崩壊?」
『文明体系変質の可能性大』
『生態系変化』
『魔法法則再構築』
『現在人類社会の維持保証不可』
沈黙。
つまり。
世界は救われるかもしれない。
だが。
今の世界は終わる。
国家。
文明。
常識。
全部変わる可能性がある。
ルナが唇を噛む。
ルナ
「そんなの……」
「実質、世界作り直しじゃない……」
ゼノが腕を組む。
ゼノ
「クク……」
「随分デカい選択を押し付けるな」
レグルスも険しい顔だった。
レグルス
勇者として人々を守りたい。
だが。
その“人々の世界”自体が消えるかもしれない。
アイリスが静かに聞く。
アイリス
「……もし、何もしなかったら?」
創世神コアが答える。
『世界閉鎖化は継続』
『可能性は減衰』
『最終的に生命活動停止』
『文明は固定化の後、終了します』
どのみち滅ぶ。
ただ。
ゆっくり死ぬか。
変化を受け入れるか。
その違いだけ。
カインは拳を握る。
初めてだった。
こんな選択。
敵を倒せばいい話じゃない。
力で終わる話でもない。
世界そのもの。
未来そのもの。
全部を決める。
そして。
誰より苦しかったのは。
カイン自身だった。
「……俺が決めるのかよ」
震える声。
自分は何者なのか。
ようやく分かった。
世界修復存在。
閉じた世界を壊す鍵。
でも。
そんな役目を押し付けられて。
はいそうですかと受け入れられるほど、強くない。
セリスがそっと隣へ来る。
「カイン」
優しい声。
カインは顔を上げない。
「もし俺が世界壊したら」
「みんな普通じゃいられなくなるかもしれない」
「今の世界、消えるかもしれない」
怖かった。
最強でも。
世界を壊す責任は重すぎる。
すると。
セリスは小さく笑った。
「……それでも」
「あなた一人に背負わせる気はないわ」
ルナも頷く。
「研究者としては超怖いけど」
「でも、止まった世界なんて嫌」
アイリスが静かに剣へ手を置く。
「お前が選ぶなら、私は従う」
レグルスも笑う。
「勇者ってのは、人の未来を守る仕事だ」
ゼノは肩を竦めた。
「好きにしろ」
「世界壊すなら付き合ってやる」
少しだけ。
カインの肩から力が抜けた。
その時だった。
神域全体へ警報が走る。
《WARNING》
《最高位神性反応接近》
《運命権限再起動》
白銀の光。
空間震動。
AL-0が即座に警告する。
『運命神アストラ再接近!』
空間が裂ける。
白銀神域展開。
圧倒的神威。
そして。
現れた。
アストラ。
アストラ
だが。
以前とは違う。
その瞳にあるのは冷静ではない。
焦燥。
恐怖。
そして。
決意。
アストラはカインを見据える。
銀の瞳が揺れる。
『……それを選ばせるわけにはいきません』
神域が震えた。




