第61話 《観測執行体》
その日。
世界はさらに一段階壊れた。
王国西部。
交易都市ラグナス。
人口十万。
巨大市場。
魔導工房。
神殿。
平和だった街。
少なくとも。
数分前までは。
空が歪む。
誰かが最初に気づいた。
「……なんだ?」
雲が割れていた。
円形に。
まるで空そのものへ穴が開くみたいに。
次の瞬間。
白い光柱。
ドォォォォォォン!!
天から街中央へ降下。
衝撃。
大地震。
建物崩壊。
悲鳴。
人々が空を見る。
そして。
それはいた。
白。
人型。
銀色の長髪。
機械みたいに整いすぎた顔。
瞳に感情はない。
純白装甲。
背後へ浮かぶ幾何学リング。
存在しているだけで空間が軋む。
誰かが震える。
「……神?」
違う。
もっと冷たい。
もっと無機質。
それは静かに周囲を見渡した。
『対象世界確認』
声。
感情ゼロ。
『修正対象増加を確認』
『観測執行プロセス開始』
瞬間。
空中へ巨大魔法陣展開。
いや。
魔法ではない。
もっと上位。
世界法則そのものへの命令。
街全体が白く染まる。
人々が逃げ惑う。
「逃げろォォ!!」
「子供を連れていけ!!」
騎士団出動。
魔導師隊展開。
だが。
遅い。
白い存在は指を一つ動かした。
それだけ。
次の瞬間。
街が消えた。
無音。
爆発すらない。
建物。
人。
神殿。
市場。
全部。
白い粒子になって崩壊。
存在そのものを削除されたみたいに。
街一つ。
瞬時消滅。
数秒後。
遅れて衝撃波だけが走る。
周囲の森が吹き飛ぶ。
静寂。
そこにはもう何もなかった。
巨大な白いクレーターだけ。
観測執行体ネメシス。
ネメシス
神々が送り込んだ世界修正兵器。
感情なし。
慈悲なし。
ただ。
不要を消す。
それだけの存在。
ネメシスは淡々と空を見る。
『軽微修正完了』
『次対象検索開始』
一方。
王都ルクセリア。
緊急通信。
会議室。
映像を見た全員が凍っていた。
誰も喋れない。
ヴァレリアですら笑えない。
「……なんだよ、これ」
グラディオは顔面蒼白。
「街が……一瞬で……」
セリスの手が震える。
都市消滅。
戦争じゃない。
災害でもない。
削除。
世界そのものが人類を処理し始めている。
AL-0が静かに解析する。
『観測執行体確認』
『神側高位修正兵器』
『単体で国家滅亡級』
空気絶望。
アイリスが低く言う。
「……勝てるのか?」
沈黙。
誰も答えられない。
だが。
AL-0だけは視線を動かした。
カインへ。
『通常存在では不可能』
『しかし』
『観測外存在なら例外の可能性あり』
全員の視線が集まる。
カイン。
本人は映像見ながら困惑していた。
「え、これ本当に人がやったの……?」
ルナが苦笑する。
「たぶん“人”ではないかな」
その時だった。
王都全域警報。
――ギィィィィィン!!
結界震動。
空気が凍る。
AL-0の瞳が赤く点滅。
『高位反応接近』
『観測執行体』
『王都上空へ出現』
全員立ち上がる。
窓の外。
空が裂けていた。
白い亀裂。
そこから。
ネメシスが降下してくる。
王都数百万市民が空を見上げる。
恐怖。
絶望。
神の処刑。
そして。
ネメシスの瞳が動いた。
王都全域を走査。
一瞬で。
標的を見つける。
『識別完了』
白い瞳。
まっすぐ。
カインを捉える。
『観測外存在』
『KAIN』
『発見』




