第55話 《世界崩壊》
王都ルクセリア。
夜。
それは、静かに始まった。
最初は噂だった。
「神は本物じゃない」
「世界は作られたものらしい」
「創世迷宮で真実が見つかった」
誰も信じなかった。
だが。
数日後。
世界が変わる。
創世ログ。
その断片情報が流出した。
神殿内部。
魔導通信網。
各国諜報。
迷宮遠征参加者。
様々な経路から情報が漏れる。
そして。
止まらなかった。
『神々=管理AI』
『世界=人工シミュレーション』
『世界修正=不要データ削除』
『観測外存在』
人々の理解を超えていた。
だからこそ。
世界は壊れた。
――教国中央神殿。
巨大な神像が燃えていた。
「嘘つきだァァァ!!」
「俺たちは何を信じてたんだ!!」
信徒たちが暴走する。
神官へ投石。
祭壇破壊。
聖典焼却。
炎が夜空を赤く染めていた。
一方。
別の街。
逆に祈る者もいた。
「違う!」
「神は神だ!」
「これは悪魔の嘘だ!!」
信仰を守ろうとする者。
真実を拒絶する者。
怒る者。
泣く者。
狂う者。
世界中で衝突が始まっていた。
神殿焼討ち。
都市暴動。
宗教戦争。
各国軍ですら制御不能。
王都でも混乱は広がっていた。
「神殿が閉鎖されたぞ!」
「教会騎士が市民を斬った!」
「いや先に暴徒化したのは民衆だ!」
情報が錯綜する。
広場。
人々が神像を引き倒していた。
巨大な石像が崩れ落ちる。
轟音。
悲鳴。
誰かが叫ぶ。
「神なんかいなかったんだ!!」
その言葉。
世界の常識そのものが砕け散る音だった。
王城。
緊急会議。
空気は最悪だった。
貴族。
騎士。
神官。
全員疲弊している。
「地方都市で暴動発生!」
「教会派と反教会派が衝突!」
「帝国国境で難民流入確認!」
「魔導通信網がパンクしています!」
セリスは机へ手をついていた。
寝ていない。
目の下に隈。
それでも。
王女として立っていた。
「……被害状況は」
「現在確認中です」
「確認が追いつきません!」
もう国家単位では処理できない。
世界崩壊。
その入口だった。
アイリスが低く言う。
「軍だけでは抑えきれん」
ヴァレリアも腕を組む。
「当然だろ」
「人間は、自分の世界が偽物だって言われて正気でいられるほど強くねぇ」
重い沈黙。
その中。
カインだけが静かだった。
窓の外を見る。
燃える街。
怒号。
泣き声。
彼は小さく呟く。
「……俺のせいなのかな」
セリスが即座に否定する。
「違います」
強い声だった。
だが。
カインは納得できない。
自分が迷宮へ行った。
真実が開示された。
その結果。
世界が壊れている。
ルナが苦しそうに言う。
「でも……止められなかった」
「知らないままでも、たぶんいつか壊れてた」
誰も否定できない。
その時。
外から轟音。
ドォォォン!!
王都城壁付近。
兵士が飛び込んでくる。
「報告!!」
「北門へ大規模避難民集団到達!!」
セリスが顔を上げる。
「数は!?」
兵士が青ざめながら答えた。
「……数万です」
空気凍結。
王都ルクセリア。
世界最大級都市。
その王都へ。
各地から難民が押し寄せ始めていた。
崩壊した世界から逃げるように。
そして。
その群衆の中では、ある噂が急速に広がっていた。
『観測外存在』
『神を超えた存在』
『世界の外の人間』
『カイン』
人々は恐怖し。
同時に。
救いを求め始めていた。




