第48話 《適格者試験》
第三層《神話荒野》。
神話魔獣群を突破した遠征隊は、さらに迷宮深部へ進んでいた。
だが。
進むほど空気が変わる。
重い。
圧迫感。
まるで迷宮そのものが、侵入者を観察しているようだった。
その時。
AL-0が静かに告げる。
『前方に精神適格試験領域を確認』
嫌な予感しかしない。
ヴァレリアが露骨に顔をしかめた。
「今度は何だ」
『精神耐性確認です』
「雑!」
だが。
次の瞬間。
空間が変わった。
景色崩壊。
遠征隊全員の視界が白く染まる。
――精神投影開始。
その瞬間。
セリスは玉座の前に立っていた。
崩壊した王都。
燃える街。
無数の死体。
民衆の悲鳴。
玉座には誰もいない。
そして。
全員が彼女を責めていた。
『王女が選択を誤った』
『お前が世界を壊した』
『守れなかった』
セリスの顔が青ざめる。
「違……」
だが声が届かない。
王国崩壊。
民衆死亡。
国家滅亡。
責任。
全部が彼女へ突き刺さる。
膝が震えた。
一方。
アイリス。
彼女の前には戦場。
死体の山。
守れなかった仲間。
王国。
騎士団。
全部壊れている。
そして中央。
血まみれのセリス。
アイリスの剣は届かない。
『最強』
『なのに守れなかった』
『無力』
戦姫の顔が歪む。
呼吸が乱れる。
さらに。
ルナ。
そこは研究室だった。
無限に増殖する数式。
暴走する知識。
脳へ直接流れ込む神代情報。
止まらない。
理解したい。
もっと。
もっと。
もっと。
だが。
脳が耐えられない。
「ぁ……っ」
ルナが頭を押さえる。
知識欲。
それが逆に彼女を壊していく。
遠征隊全体が苦しみ始めた。
恐怖。
絶望。
後悔。
精神を直接折りに来る。
まさに適格者試験。
その中で。
カインだけが普通に立っていた。
「……?」
周囲を見回す。
何も起きない。
静か。
逆に不気味。
カインは困った顔をする。
「これ、始まってるのか?」
その瞬間。
空間全体へ警告音。
――ERROR.
――ERROR.
赤い神代文字が次々浮かぶ。
《観測失敗》
《対象認識不能》
《精神構造未定義》
《恐怖投影不可》
《絶望因子接続失敗》
迷宮側が混乱し始めた。
ルナが半泣きになる。
「またエラー起こしてる!!」
カイン本人は意味が分からない。
「え、俺なんかした?」
してる。
存在そのものが。
その時。
精神試験空間がさらに変化。
カインへ無理やり幻覚接続を試みる。
空間歪曲。
強制精神侵入。
そして。
突然。
空間そのものが震えた。
――拒否反応発生。
バチィッ!!
幻覚領域崩壊。
逆流。
迷宮システム側がダメージを受ける。
AL-0が珍しく沈黙した。
『……理解不能』
迷宮そのものが。
カインの精神を解析できない。
恐怖を読み取れない。
絶望を定義できない。
そもそも。
“正常な生命構造”として認識できていない。
その結果。
試験システムそのものが停止した。
そして。
ゴゴゴゴゴ……
遠くで巨大な音。
空間中央。
閉ざされていた巨大扉がゆっくり開く。
白金の光。
深淵へ続く道。
AL-0が静かに告げる。
『適格者試験……突破確認』
ヴァレリアが引きつった顔で呟く。
「突破っていうか」
「迷宮が諦めただけだろ……」
誰も否定できなかった。
そして。
最深部への道が、静かに姿を現した。




