第45話 《死の罠》
第二層《時間停止回廊》。
白い空間を抜けた先。
遠征隊を待っていたのは。
“悪意”だった。
ゴォォォ……
重い音。
回廊終端。
巨大な黒い扉がゆっくり開く。
その向こう。
闇。
底の見えない空間。
AL-0が淡々と告げる。
『第三試験区画へ到達』
『生存判定領域』
嫌な単語しかない。
ヴァレリアが顔をしかめた。
「生存判定ってなんだよ」
『生き残れるか確認します』
簡潔。
怖い。
その時。
遠征隊が足を踏み入れた瞬間だった。
――ズンッ。
空間が歪む。
重力反転。
「っ!?」
兵士たちが吹き飛ぶ。
床だった場所が壁になる。
空間感覚崩壊。
さらに。
黒い霧が噴き出した。
ルナが悲鳴を上げる。
「呪詛!!」
即死級。
触れた兵士の一人が崩れ落ちる。
「が……ぁ……!」
生命力消失。
肌が灰色へ変わる。
教国治癒術師たちが慌てる。
「回復急げ!」
だが。
間に合わない。
呪いそのものが強すぎる。
その瞬間。
空間がまた歪んだ。
――ミシィッ。
何かが削れる音。
AL-0が警告する。
『存在消去現象発生』
『接触を回避してください』
誰も理解できない。
次の瞬間。
S級冒険者の腕が消えた。
斬れたわけじゃない。
最初から存在しなかったみたいに。
「……え?」
本人が固まる。
血も出ない。
ただ。
腕だけ消滅。
絶叫。
恐怖が遠征隊を飲み込む。
「撤退!!」
「無理だこんなの!!」
各国精鋭が崩れ始める。
重力崩壊。
即死呪詛。
存在消去。
全部が理不尽。
迷宮そのものが殺しに来ていた。
セリスが歯を食いしばる。
「結界を!」
だが術式が安定しない。
世界法則自体が歪んでいる。
アイリスですら苦戦していた。
「チッ……!」
床が突然消える。
空間断裂。
回避。
その直後。
背後で騎士が消滅。
ヴァレリアが舌打ちする。
「ふざけた場所だな!」
超軍事魔法展開。
だが。
放った瞬間。
術式そのものが崩壊。
「なっ!?」
ルナが叫ぶ。
「法則が一定じゃない!!」
「魔法式が固定できない!!」
つまり。
現代魔法が通じない。
絶望的。
その時だった。
カインが普通に歩いていた。
「うわっ」
足元の重力反転。
でも平気。
即死呪詛直撃。
無反応。
存在消去空間。
普通に通過。
本人だけ。
完全に自然。
「なんか変な風だなここ」
軽い。
軽すぎる。
遠征隊全員が止まる。
グラディオですら絶句。
「……何故」
カインは首を傾げる。
「え?」
その瞬間。
彼の周囲だけ空間が安定した。
重力固定。
呪詛消失。
存在崩壊停止。
まるで。
世界法則がカインを避けている。
ルナが震える。
「違う……」
「避けてるんじゃない」
「成立してない……」
死。
呪い。
消滅。
そういう“結果”そのものが。
カインには届かない。
その時。
迷宮全域へ異音が響いた。
――ERROR.
――ERROR.
赤い文字列が空間へ浮かぶ。
《致死判定失敗》
《法則適用不可》
《観測エラー》
遠征隊凍結。
そして最後に。
空間中央へ巨大文字が浮かび上がった。
《判定不能》
迷宮そのものが。
カインを理解できず、混乱していた。




