第44話 《時間停止回廊》
第二層転送ゲート。
青白い光が遠征隊を包み込む。
浮遊感。
視界が歪む。
そして次の瞬間。
全員、別世界へ立っていた。
「……ここが第二層」
セリスが小さく呟く。
景色は異様だった。
白い回廊。
どこまでも続く直線。
壁も床も天井も、全部同じ白。
影がない。
音もない。
静かすぎる。
まるで世界そのものが停止していた。
ルナが周囲を見回す。
「何この空間……」
「術式反応が変……」
AL-0が静かに告げる。
『第二層《時間停止回廊》』
『超高位時空固定領域』
『侵入者拘束機構を確認』
全員が嫌な顔をした。
拘束。
その単語が危険すぎる。
ヴァレリアが肩を回す。
「結局また罠かよ」
アイリスは剣へ手を置く。
「警戒しろ」
その瞬間。
回廊全体へ光が走った。
――ピィィィィ……
乾いた音。
次の瞬間。
全員、止まった。
完全停止。
セリスが歩こうとした姿勢のまま固まる。
ヴァレリアも。
アイリスも。
兵士たちも。
S級冒険者も。
空気すら動かない。
時間停止。
絶対静止。
カインだけを除いて。
「……え?」
普通に声が出た。
普通に歩けた。
カインが困惑する。
「みんな?」
返事はない。
完全静止。
その光景に、カインの顔が引きつる。
「え、怖っ」
一方。
止まった世界の中。
一部だけ意識が微かに残っていた。
セリス。
視界だけ動く。
だが体が動かない。
呼吸すら止まりそうだった。
(動けない……!)
恐怖。
圧倒的恐怖。
時間そのものへ拘束される感覚。
世界法則に固定される絶望。
その中で。
カインだけが普通に歩いていた。
セリスの背筋が冷える。
本当に。
この人は何なんだ。
一方。
ルナ。
目だけ動いていた。
そして。
めちゃくちゃ興奮していた。
(動いてる!!)
(時間固定の中を!?)
(なんで!?)
(意味わかんない!!)
恐怖より知的興奮が勝っている。
研究者。
末期だった。
アイリスは逆に理解不能だった。
(あり得ん……)
戦士としての本能が告げている。
これは力ではない。
技術でもない。
理屈そのものが違う。
カインは止まった仲間たちを見回す。
「どうすればいいんだこれ……」
困っていた。
その時。
回廊奥。
光が揺れる。
誰かいた。
小さな少女。
白い髪。
薄い青の服。
半透明。
幻影みたいな存在。
カインは目を丸くする。
「……子供?」
少女はこちらを見る。
感情のない瞳。
だが。
どこか寂しそうだった。
そして。
少女が歩く。
回廊奥へ。
まるで。
“ついて来い”と言うように。
カインは困惑しながら後を追った。
その瞬間。
彼が通った場所だけ。
止まっていた時間が少しずつ動き始める。
セリスが息を飲めるようになる。
ヴァレリアが指を動かす。
ルナは完全に壊れた。
「うわぁぁぁ!!」
「時間法則を書き換えてる!!」
まだ止まってるけど叫んでた。
怖い。
カインは気づかないまま、少女を追う。
静かな白い回廊。
止まった世界。
その奥で。
少女の幻影がゆっくり振り返った。
そして初めて。
小さく微笑んだ。




