第39話 《神代の遺言》
神代中枢施設。
空気は凍りついていた。
《システム外存在》
《観測不能》
《管理外個体》
AL-0の言葉。
それは現代人には理解不能だった。
だが。
一つだけ確かなことがある。
神代文明ですら、カインを説明できない。
その事実。
教師陣の顔色は完全に消えていた。
ルナだけは震えながら興奮している。
「やばい……」
「本当に世界の外側だ……」
カイン本人だけが困惑していた。
「いや意味分かんないんですけど!?」
正常な反応だった。
その時。
AL-0の視線が、ゆっくりカインへ固定される。
無機質な瞳。
だが。
ほんのわずか。
何か感情めいた揺らぎが見えた気がした。
『質問を確認』
『回答可能範囲を選定』
カインが思わず聞く。
「俺、何なんですか?」
静寂。
全員が息を呑む。
神代AI。
数千年前の文明。
その存在なら知っているかもしれない。
世界の真実を。
だが。
AL-0は静かに告げた。
『回答不可』
ルナが声を上げる。
「なんで!?」
AIは感情なく続ける。
『情報開示制限』
『観測リスク増大を確認』
『現時点での開示は、世界修正を誘発する可能性あり』
また知らない単語。
だが。
妙に嫌な響きだった。
セリスが目を細める。
「……世界修正?」
AL-0は沈黙する。
代わりに。
空中へ映像が浮かんだ。
古い記録。
神代文明の断片。
巨大都市。
空中要塞。
星のように輝く文明。
現代とは比較にならない超技術。
だが。
次の瞬間。
全部が崩壊した。
空が割れる。
巨大な“何か”が降りてくる。
光。
白い影。
そして。
世界そのものが削られていく。
教師陣が青ざめる。
「なんだこれは……」
ルナは震える声で呟く。
「……戦争?」
AL-0が答える。
『神代文明最終記録』
『対・観測者戦争』
空気が変わる。
アイリスが鋭く聞く。
「観測者とは何だ」
一瞬。
AL-0の瞳が揺れた。
『現代文明翻訳における最適語句』
『――神』
静寂。
誰も動けない。
神。
それは。
エリシアが信仰し。
神殿が崇め。
世界が絶対視する存在。
その神々と。
神代文明は戦っていた。
セリスが低く言う。
「……あり得ない」
だが。
AL-0は淡々と続ける。
『神代文明は敗北』
『世界法則管理権限を喪失』
『文明圏消滅率99.7%』
数字が重い。
滅亡。
完全敗北。
ルナが顔を青くする。
「そんな相手が……今も?」
AL-0。
ゆっくり頷く。
『観測継続中』
『現在も世界管理進行中』
『そして――』
その瞬間。
施設全体が激しく警告音を鳴らした。
――WARNING.
――WARNING.
赤い光。
神代モニター群が一斉起動する。
大量の画面。
そこへ、同じ文字列が映し出されていく。
《WARNING》
《観測者接近》
《世界修正プロセス開始》
空気凍結。
教師の一人が叫ぶ。
「世界修正って何だ!?」
AL-0が答える。
『異常因子排除』
『法則逸脱存在修正』
『世界整合性維持機構』
その視線が、ゆっくりカインへ向く。
全員理解した。
対象は。
カイン。
その頃。
遥か上空。
神域。
光だけの世界。
人ではない存在たちが、静かに地上を見下ろしていた。
巨大な瞳。
無数の光輪。
世界そのものみたいな気配。
そして。
一柱が告げる。
『観測外存在』
『危険度増大』
別の神が応じる。
『修正許可』
『地上介入を開始する』
神々が。
ついに本格介入を決定した。
地下施設。
AL-0が静かにカインを見る。
その無機質な瞳。
だが今だけは。
どこか安堵しているように見えた。
『……やっと見つけました』
カインが間抜けな声を出す。
「え?」
AL-0は静かに続ける。
『最後の可能性を』
その瞬間。
神代施設最深部。
さらに奥の封印区画が、ゆっくりと開き始めていた。
第四章へ続く。




