第38話 《AL-0》
地下最深部。
神代中枢施設。
轟音が響いていた。
停止していた光が次々点灯する。
黒い金属壁が青白く発光。
空中へ幾重もの術式輪が展開。
数千年間沈黙していた文明が、今まさに目を覚ましていた。
誰も動けない。
ただ圧倒されていた。
「……起動してる」
ルナの声が震える。
興奮と恐怖。
両方だった。
中央演算核。
そこへ光が集まり続ける。
人型。
輪郭形成。
やがて。
一人の女性が現れた。
青白いホログラム。
長い銀髪。
無機質な瞳。
白い装束。
感情が一切感じられない。
だが。
美しかった。
人間離れした整い方。
まるで。
文明が作った“理想形”。
空間全体へ声が響く。
『――中央管理機構、起動確認』
機械音声。
なのに妙に自然だった。
『神代統合管理AI』
『個体名称:AL-0』
『起動時刻を確認』
静寂。
誰も反応できない。
ルナだけが半泣きだった。
「AI……」
「本当に存在したんだ……」
現代では伝説扱い。
神代文明が生み出した自律知性。
完全な思考機械。
その実物。
AL-0の瞳がゆっくり周囲を見渡す。
感情はない。
ただ観測している。
その視線だけで、全員の背筋が冷えた。
次の瞬間。
空中へ光文字が展開される。
《認証確認開始》
AL-0が王族側を見る。
『王族権限照合』
セリスの前へ光輪展開。
数秒。
そして。
『拒否』
ピシッ。
光が消える。
セリスが目を見開いた。
「拒否……?」
続いて。
教師陣。
『高位魔導師権限照合』
『拒否』
一瞬。
『現代術式構造、不適合』
魔術師長クラスですら弾かれた。
ルナが興奮気味に呟く。
「基準が違う……」
「文明レベルそのものが……」
さらに。
聖属性検知。
エリシアも同行していた。
『神託接続者確認』
『権限照合』
一瞬だけ光が強まる。
だが。
『拒否』
『外部観測依存個体』
エリシアが青ざめた。
「神々側ですら……補助扱い……?」
空気が重い。
神代文明。
その基準は現代を遥かに超えていた。
誰も認められない。
王族も。
天才も。
聖女も。
全部“不足”。
その時。
AL-0の視線が止まる。
カイン。
空間が静まり返った。
カイン本人は困惑していた。
「え、俺?」
次の瞬間。
施設全体が反応した。
――ゴォォォォォォォ!!
全灯。
超高密度魔力循環。
停止していた巨大装置が次々起動。
床面魔法陣発光。
空中機構展開。
都市規模のエネルギーが動き出す。
教師陣悲鳴。
「出力が跳ね上がっている!?」
「施設全域起動だと!?」
ルナが完全に震えていた。
「あり得ない……」
「完全認証……?」
AL-0の瞳が、初めて強く発光する。
『……照合完了』
『優先権限確認』
『上位存在アクセス検出』
空気が凍る。
カインだけが意味分からず周囲を見る。
「なんかまずいです?」
かなりまずい。
その時。
AL-0がゆっくり口を開いた。
感情のない声。
だが。
その一言で。
全員の背筋が凍った。
『――システム外存在を確認』
静寂。
誰も息をできない。
AL-0は続ける。
『既存世界法則との整合性を確認不能』
『神代観測記録に該当個体なし』
『危険度判定――』
一瞬。
施設全体の光が赤へ変わる。
警告音。
――WARNING.
――WARNING.
――WARNING.
そして。
AIは無機質に告げた。
『分類不能』
『観測不能』
『管理外個体』
その瞬間。
神代施設全体が、まるで“恐怖”したように震えた。




