第36話 《禁書庫》
王立魔導学園・地下封印区画。
そこは、存在自体が秘匿されている場所だった。
王族。
学園長。
一部の宮廷魔術師。
その許可がなければ立ち入りすら不可能。
数百年。
誰も最深部へ到達できなかった禁域。
そして今。
重厚な封印扉の前に、カインたちは立っていた。
「……なんで俺まで」
カインは本気で嫌そうだった。
隣のルナは逆にテンションがおかしい。
「禁書庫だよ禁書庫!!」
「神代文明の遺産!!」
「ロマン!!」
完全に研究者の顔。
セリスは小さくため息を吐いた。
「本来なら国家機密なんですが……」
「カインが原因なら放置もできません」
実際そうだった。
数日前。
地下深部の封印術式が突如反応。
しかも。
カイン接近時のみ活性化。
偶然では済まない。
アイリスが周囲を警戒していた。
「妙な気配だ」
地下空間全体が静かすぎる。
生物の気配がない。
代わりにあるのは、
“古い”
という感覚。
長い年月眠っていた場所特有の空気。
巨大扉前へ到着する。
黒い金属。
表面には無数の古代文字。
現代では完全解読不能とされる神代文明語。
ルナが目を輝かせる。
「うわぁぁ……!」
「本物だ……!」
彼女は文字へ触れようとして。
――バチッ!!
弾かれた。
「痛っ!?」
小さな雷撃。
ルナ涙目。
「拒否されたぁ……」
セリスも試す。
反応なし。
アイリス。
無反応。
レオンも静かに観察していた。
「……完全封印か」
教師陣が顔をしかめる。
「やはり開かないか」
数百年間、誰一人突破できなかった。
王国最高術者たちですら無理だった。
その時。
全員の視線が、ゆっくりカインへ向く。
カイン固まる。
「いやいやいや」
「嫌な流れですよねこれ?」
完全にそうだった。
ルナが笑顔で押す。
「行ってみよ!」
「軽いなぁ!?」
だが。
他に方法がない。
カインは恐る恐る扉へ近づいた。
空気が変わる。
――ゴォォォォォ……
低い振動音。
扉表面の古代文字が発光を始める。
教師陣が息を呑む。
「反応した……!」
「馬鹿な……!」
さらに。
カインが一歩近づくたび、封印術式が次々起動。
光輪展開。
古代魔法陣浮上。
地下全体が揺れる。
ルナが半狂乱。
「すごいすごいすごい!!」
「認証されてる!!」
カイン本人は青ざめていた。
「俺なんもしてないですよ!?」
もう聞き飽きた台詞だった。
その時。
扉中央へ文字が浮かぶ。
《識別開始》
誰も読めない。
だが。
カインだけは読めた。
「……え?」
自然に意味が理解できる。
頭へ直接流れ込む感覚。
次々表示される古代文字。
《外部因子確認》
《権限照合》
《適合率――》
空気が張り詰める。
そして。
――ピコン。
《認証完了》
轟音。
ドゴォォォォォン!!
巨大扉が動いた。
数百年間、一度も開かなかった封印。
それが。
カインが触れただけで開く。
全員絶句。
ルナは震えていた。
興奮で。
「うそ……」
「本当に選ばれてる……」
扉の向こう。
暗い通路。
青白い光。
そして壁一面。
神代文明の記録。
現代魔法を遥かに超えた技術式。
教師たちの顔色が変わる。
「これが……神代文明……」
「失われた時代の知識……!」
だが。
カインだけが妙な違和感を覚えていた。
懐かしい。
知らないはずなのに。
ここを知っているような感覚。
その時。
通路奥。
さらに巨大な扉が見えた。
今まで隠されていたもの。
地下最深部。
そして。
カインが近づいた瞬間。
――ゴゴゴゴゴ……
その扉までもが、ゆっくり開き始めた。
地下深くから。
まるで何かが目覚めるような音が響いていた。




