第35話 《王国最強候補》
王立魔導学園・第一特別演習場。
学園最高機密区画。
国家級結界。
多重障壁。
対軍用耐久構造。
本来、生徒が使う場所ではない。
だが今。
そこへ学園中の視線が集まっていた。
理由は一つ。
生徒会長レオン・アルヴェルト。
再戦要求。
しかも。
「本気で戦う」
と宣言した。
観客席は静まり返っていた。
昨日の敗北。
あまりに圧倒的。
誰もが理解した。
レオンですら届かない。
それでも。
彼は退かなかった。
演習場中央。
レオンが静かに立つ。
銀髪。
整った姿勢。
だが今の彼からは、普段の余裕が消えていた。
代わりにあるのは覚悟。
対面。
カイン。
今日も制服。
若干眠そう。
完全に温度差がおかしい。
「……本当にやるんですか?」
カインが困った顔で聞く。
レオンは頷く。
「必要だ」
「俺自身のためにも」
静かな声だった。
彼は合理主義者。
感情では動かない。
だからこそ。
確認しなければならなかった。
自分はどこまで届くのか。
そして。
この存在をどう扱うべきなのか。
観客席。
セリスが小さく息を吐く。
「止めなくていいんですか?」
アイリスは腕を組んだまま答えた。
「止まらん」
ルナはワクワクしている。
「ついに本気レオンかぁ!」
「見たことないんだよね!」
それほどだった。
レオン・アルヴェルト。
彼は王国でも数少ない、
《王国最強候補》
と呼ばれる存在。
まだ学生。
だが。
未来の騎士団頂点候補。
実力は本物。
その時。
レオンが静かに剣を掲げた。
「――魔装起動」
瞬間。
空気が震えた。
ドォォォォン!!
超高密度魔力噴出。
銀色の光が全身を包む。
装甲形成。
魔力回路展開。
複数術式同時起動。
観客席がどよめく。
「うそだろ……」
「超高位魔装……!」
「学生で!?」
レオンの姿が変わっていく。
銀白の魔力装甲。
浮遊する術式輪。
背後に展開される魔導剣群。
まるで一人の戦略兵器。
教師陣すら息を呑む。
「完成度が高すぎる……」
「王国騎士団長級だぞ……」
それほどの力。
だが。
カインは普通に引いていた。
「え、変身した……」
感想が軽い。
レオンは剣を構える。
「行くぞ」
次の瞬間。
消えた。
超加速。
空間震動。
音すら置き去り。
一瞬でカイン目前。
剣閃。
二撃。
三撃。
さらに背後の魔導剣群が同時射出。
演習場が光に埋まる。
観客席が悲鳴を上げた。
「速すぎる!!」
「見えない!」
「これが本気……!」
しかし。
カインだけは困惑していた。
「危ない危ない危ない!?」
慌てて手を出す。
その瞬間。
――バチィッ。
世界が軋む。
魔導剣群停止。
術式崩壊。
さらに。
レオンの剣が。
カインの片手で止まっていた。
静寂。
完全停止。
超高位魔装。
学園最高奥義。
王国最強候補の本気。
それを。
片手。
たったそれだけで。
レオンの目が見開かれる。
止められた。
いや。
違う。
“成立していない”。
自分の魔法が。
強化が。
技術が。
全部。
目の前の存在へ届く前に意味を失っている。
その瞬間。
カイン周囲の空間が揺れた。
ミシッ。
レオンの魔装術式に亀裂。
「……っ!」
彼は即座に後退する。
だが遅い。
バキバキバキッ!!
超高位魔装崩壊。
術式輪消失。
魔導剣粉砕。
銀色装甲が砕け散った。
衝撃波。
ドォォォォォン!!
レオンが地面を滑る。
停止。
静寂。
観客席、誰も喋れない。
完全敗北。
しかも。
力負けですらない。
“次元が違った”。
カインは慌てている。
「す、すみません!!」
「壊すつもりじゃ……!」
本気で謝っている。
レオンはしばらく黙っていた。
膝をつく。
呼吸を整える。
そして。
ゆっくりカインを見る。
その瞳から、敵意は消えていた。
代わりにあるのは理解。
合理主義者だからこそ。
認めざるを得ない。
これは。
敵にしてはいけない。
勝てないからではない。
存在そのものが違う。
もし敵対すれば。
国家が壊れる。
世界が壊れる。
レオンは静かに剣を下ろした。
「……敗北だ」
観客席がざわめく。
生徒会長が認めた。
完全敗北。
そして。
レオンは真っ直ぐカインを見る。
「お前は、排除対象ではない」
「絶対に」
その言葉。
重みが違った。
学園最強候補。
エリート頂点。
その男が。
完全に屈服した瞬間だった。




