第33話 《ルナ暴走》
王立魔導学園・中央研究棟。
深夜二時。
普通の学生なら寝ている時間。
だが。
研究棟の一室だけは、未だ狂ったように明かりがついていた。
「ふふふふ……」
笑い声。
怖い。
机の上には大量の論文。
術式。
神代文字。
解体された魔導器。
床には丸めた失敗式。
そして中央。
ルナ・フィールディア。
目の下の隈が酷かった。
完全に研究者モード暴走中である。
「あとちょっと……!」
「あとちょっとで再現できる……!」
彼女は魔導式を書き殴る。
《世界法則上書き仮説》
《優先権強奪理論》
《観測外干渉構造》
内容が危険すぎた。
その時。
術式を起動。
バチバチッ!!
魔法陣暴走。
部屋半壊。
煙。
しかしルナは気にしない。
「違う違う違う!」
「この構造じゃ“世界側”が拒絶する!」
完全に沼っていた。
三日徹夜。
食事ほぼ無し。
睡眠ゼロ。
周囲の研究者たちは既に避難済み。
誰も止められない。
その頃。
廊下。
カインがパン袋を抱えて歩いていた。
「……まだ灯りついてる」
最近ずっと研究棟に泊まり込んでいるルナが気になったのだ。
扉を開ける。
瞬間。
煙が吹き出した。
「うわっ!?」
中は惨状だった。
床焦げてる。
壁消えてる。
術式暴走してる。
そして中央。
ルナがふらふら立っていた。
「……あ、カイン」
目が死んでいる。
カイン青ざめる。
「寝てないですよね!?」
「三日くらい?」
「死にますよ!?」
正論だった。
だが。
ルナはケラケラ笑う。
「研究者は死ぬ直前が一番頭回るんだよ!」
危険思想。
次の瞬間。
ふらっ。
ルナの身体が揺れる。
「あ」
そのまま前へ倒れた。
カインが慌てて支える。
「ちょっ!?」
完全に気絶していた。
数時間後。
学園医務室。
ルナはベッドで眠っていた。
医師が呆れた顔をする。
「過労です」
「極度の魔力消耗」
「栄養不足」
「あと睡眠不足」
全部だった。
カインは小さくため息を吐く。
「なんであそこまで……」
医師が苦笑する。
「天才というのは大体ああですよ」
「理解されないことにも慣れている」
その言葉に、カインは少し考え込んだ。
夜。
医務室。
静かな空間。
ルナが目を覚ました。
「……ん」
ぼやけた視界。
そして。
椅子に座っているカインが見えた。
「起きました?」
「……あれ」
ルナが瞬きをする。
「なんでいるの?」
「看病です」
机には水。
軽食。
あとパン。
やはりパン。
ルナは少しだけ目を丸くした。
「……帰らなかったの?」
「倒れた人放置できないですよ」
当然みたいに言う。
ルナはしばらく黙った。
彼女は昔から天才だった。
だから周囲は二種類に分かれた。
利用するか。
恐れるか。
研究成果だけ求められた。
頭脳。
才能。
結果。
そこしか見られない。
だからルナ自身も、人との距離感が分からない。
でも。
カインは違った。
研究成果ではなく。
普通に心配している。
それが妙に不思議だった。
ルナが小声で言う。
「……研究、気持ち悪くなかった?」
「え?」
「私」
「かなり変だよ?」
「解剖したいとか言うし」
「術式見て発狂するし」
「普通引くじゃん」
カインは少し考える。
そして普通に答えた。
「好きなことに本気なんだなって思いました」
ルナが止まる。
「……は?」
「あと楽しそうですよね」
「研究してる時」
あまりにも自然な言葉だった。
評価でも。
恐怖でもない。
理解。
ただそれだけ。
ルナはしばらく黙り込む。
胸の奥が変な感じだった。
今まで。
誰もこんな風に言わなかった。
《危険な天才》
《変人》
《研究狂》
そんな扱いばかり。
でもカインだけは。
普通に“ルナ本人”を見ている。
ルナはベッドへ顔を埋めた。
「……ずるいなぁ」
「?」
「君、そういうとこ」
カインは意味が分からず首を傾げる。
その姿を見て。
ルナは少しだけ笑った。
そして静かに呟く。
「……君、ほんと何なの?」




