第28話 《模擬戦》
王立魔導学園・第一演習場。
広大な円形闘技場。
通常は上級生徒しか使用できない特別区画だ。
しかし今。
観客席は異様な熱気に包まれていた。
「始まるぞ……!」
「生徒会が直々に動くとか初めてだ!」
「相手、“観測外”だろ?」
噂は一瞬で学園中へ広がっていた。
結果。
ほぼ全校生徒集合。
教師陣まで来ている。
完全に公開処刑か祭りである。
カインだけ胃が痛そうだった。
「帰っちゃダメですか?」
「ダメ」
セリスが即答。
最近容赦がない。
演習場中央。
カイン。
対面には生徒会メンバー。
レオン。
シオン。
ベルク。
さらに数名の上級生役員。
完全武装。
対してカイン。
制服。
しかも若干眠そう。
温度差が酷い。
審判教師が緊張した顔で言う。
「……で、では模擬戦を開始する」
教師なのに若干敬語だった。
ルナは観客席最前列で興奮している。
「実験だぁ!!」
「最低ですよあの人」
アイリスは遠い目。
「もう誰も止められんな」
その時。
ベルクが前へ出た。
筋肉の塊。
巨大戦斧を肩へ担ぐ。
「会長」
「まず俺が行く」
レオンは静かに頷いた。
「様子を見ろ」
「おう」
ベルクがニヤリと笑う。
「安心しろよ」
「死なねぇ程度に殴る」
カイン青ざめる。
「死ぬ前提なんですか!?」
周囲は真剣だった。
なぜなら。
ベルクは普通に強い。
生徒会戦闘担当。
純粋火力なら学園トップクラス。
実際。
彼が一歩踏み出した瞬間。
地面が砕けた。
ドォン!!
魔力強化。
身体能力爆上がり。
観客席が沸く。
「速っ!?」
「ベルク本気だ!」
超加速。
一瞬でカイン目前。
巨大戦斧が振り下ろされる。
だが。
届かなかった。
――バチィッ。
空気が歪む。
ベルクの表情が変わる。
戦斧へ刻まれた強化術式。
加速術式。
衝撃増幅術式。
それらが。
接触前に全部消えた。
「は?」
次の瞬間。
術式暴走。
逆流。
「ぐおっ!?」
ベルク自身が吹き飛んだ。
ドゴォォォォン!!
演習場壁へ激突。
観客席沈黙。
壁にめり込むベルク。
煙。
瓦礫。
カイン本人が一番混乱していた。
「えぇぇ!?」
何もしてない。
本当に。
ただ立っていただけ。
シオンが目を細める。
「……やはり」
彼女には見えていた。
カイン周囲。
見えない領域。
そこへ入った瞬間。
魔法式が維持できなくなる。
術式崩壊。
強制解除。
現象否定。
まるで。
世界そのものが“他の法則”へ塗り替えられているみたいに。
ルナは完全に興奮状態。
「出たぁ!!」
「法則上書き!!」
「意味分かんないよこれ!!」
教師たちは顔面蒼白だった。
「結界に影響出てるぞ!?」
「術式安定しない!」
実際。
演習場結界が明滅している。
カインが存在するだけで、周囲の魔法構造が乱れていた。
観客席もざわめく。
「何したんだ?」
「触ってないよな?」
「ベルクが勝手に吹っ飛んだぞ……」
恐怖が混ざり始める。
普通の強者ではない。
“成立している理屈”が違う。
瓦礫が動く。
ベルクが立ち上がった。
額から血。
だが戦意は消えていない。
「……上等だ」
再び突撃。
今度は魔法を使わない。
純粋な肉弾戦。
筋力のみ。
観客が息を呑む。
だが。
カインは慌てて両手を振った。
「危ないですよ!?」
その瞬間。
ベルクの身体強化が消えた。
「なっ――」
重心崩壊。
勢い余って。
そのまま地面へ顔面ダイブ。
ズドォン!!
静寂。
観客席が凍る。
ベルク、動かない。
完全敗北。
しかも。
一度も触れられていない。
カインは半泣きだった。
「だから俺何もしてないですって!!」
説得力ゼロ。
シオンは冷静に分析を続ける。
「カイン周辺では、術式構築優先権が奪われている」
「通常魔法が成立できない」
教師の一人が震える。
「そんな現象……理論上……」
存在しない。
そのはずだった。
その時。
レオンが前へ出る。
銀髪が揺れる。
空気が変わる。
観客席が息を呑む。
学園最強クラス。
本命。
彼はベルクを一瞥し、そしてカインを見る。
その顔から、余裕は消えていた。
完全に真顔。
合理主義者として。
彼は理解し始めていた。
目の前にいるのは。
“戦闘力が高い人間”ではない。
もっと根本的に。
存在の定義が違う。




