第25話 《観測外》
王都ルクセリア。
中央大聖堂。
その日。
王国史上最大規模の神託儀式が行われようとしていた。
大聖堂前広場は、人で埋め尽くされている。
市民。
貴族。
騎士。
冒険者。
全国から集まった巡礼者。
さらに。
各国使節までいた。
理由は一つ。
“観測不能の英雄”。
カイン・ヴェルクロフト。
彼が何者なのか。
聖女エリシアによる正式神託で、ついに明らかになる。
王国全土へ向けた魔導映像中継も展開済み。
事実上、全国放送だった。
広場は異様な熱気に包まれている。
「神の使いだろ!」
「いや災厄だ!」
「聖女様なら真実が分かる!」
ざわめきは止まらない。
一方。
当の本人は。
「帰りたい……」
大聖堂控室で小さくなっていた。
セリスが深いため息を吐く。
「今さら逃げられません」
「なんでこんな大事に……」
「あなたが原因です」
否定できなかった。
ルナだけは興奮状態。
「世界規模神託とか歴史的瞬間だよ!?」
「怖いこと言わないでください」
アイリスは静かに壁へ寄りかかっていた。
だが表情は険しい。
「嫌な予感がする」
珍しく、直感ではなく確信に近かった。
そして。
大聖堂最奥、《神託の祭壇》。
エリシアは中央へ立っていた。
純白の聖装。
長い銀髪。
だが、その顔色は明らかに悪い。
大神官が厳かに告げる。
「これより公開神託を執り行う」
巨大魔法陣展開。
大聖堂全域へ光が走る。
神代級神託術式。
数百年ぶりの完全起動。
鐘が鳴る。
ゴォォォォン――。
世界が静まる。
エリシアはゆっくり目を閉じた。
神々へ接続する。
いつも通り。
そのはずだった。
――だが。
接続した瞬間。
神域側が壊れていた。
《観測不能》
《修正対象》
《因果崩壊》
《世界線固定失敗》
無数の声。
神々が騒いでいる。
混乱。
焦燥。
怒号。
今まで一度も聞いたことのない状態。
エリシアの呼吸が乱れる。
「っ……!」
その時。
神域の奥。
“何か”がこちらを見た。
瞬間。
神々の声が止まる。
沈黙。
完全停止。
エリシアの瞳が見開かれる。
神々が。
恐れている。
あり得ない。
そして。
祭壇下。
カインが不安そうに見上げていた。
ただそれだけ。
なのに。
神域全体がノイズを上げている。
《観測――》
《外――》
《認識不――》
神託暴走。
バチバチバチィッ!!
神託陣に亀裂。
大神官たちが絶叫する。
「術式維持!!」
「魔力制御が効きません!」
大聖堂が揺れ始める。
空間震動。
鐘が狂ったように鳴り始めた。
ゴォン! ゴォン! ゴォン!!
広場が騒然となる。
「何だ!?」
「神託が暴走してる!?」
空が暗く染まる。
雲が渦巻いた。
そして。
――ビキィィィッ!!
空そのものへ巨大な亀裂が走る。
世界規模異常反応。
各地の神殿。
魔導塔。
神代観測機関。
同時に警報発生。
帝国。
教国。
魔族領。
世界中が異変を観測する。
そして。
祭壇中央。
エリシアが絶叫した。
「この方は――!!」
世界中が息を呑む。
魔導中継。
誰もが見ている。
神々の声が、最後に流れ込む。
《観測不能》
《世界外》
《管理対象外》
エリシアの瞳から涙が溢れた。
恐怖。
理解。
戦慄。
全部混ざっている。
そして。
彼女は震える声で、宣言した。
「神々の観測外です」
沈黙。
世界が止まった。
次の瞬間。
大聖堂神託陣が完全崩壊。
ドォォォォォン!!
光柱が天を貫く。
空の亀裂がさらに広がる。
世界中の神殿鐘が同時に鳴り響いた。
誰も理解できない。
だが。
一つだけ確かなことがある。
カイン・ヴェルクロフト。
その存在を。
世界そのものが認識した。
――帝国。
黒衣の魔導師が立ち上がる。
「……確定か」
――教国。
法皇が静かに目を開く。
「神々の外側……」
――魔族領。
漆黒の玉座で、魔王が笑った。
「面白い」
――神域。
神々が沈黙する。
そして。
カイン本人だけが、完全に置いていかれていた。
「……え?」
誰より困惑している。
その姿を。
世界中が見ていた。
第二章《王都覚醒編》――完。




