第19話 《学園最強》
王立魔導学園――中央闘技場。
朝から異常な熱気だった。
観客席は満席。
上級生。
教師。
貴族。
騎士団関係者。
さらには王都貴族まで来ている。
理由は一つ。
学院最強。
クロム・ヴァルディア。
対。
“山を斬った少年”。
この決闘だった。
闘技場中央。
カインは居心地悪そうに立っていた。
「……帰りたい」
もう恒例である。
対面では、クロムが静かに剣を構えていた。
黒髪。
鋭い視線。
洗練された立ち姿。
学院最強と呼ばれるだけの威圧感がある。
観客席は盛り上がっていた。
「クロム様なら勝てる!」
「いや相手は例の化け物だぞ……!」
「でも学生戦じゃ無敗だ!」
ざわめき。
熱狂。
完全に一大イベントだった。
ルナだけテンションが違う。
「実験だー!!」
「人聞き悪いこと言わないでください」
セリスは深いため息。
アイリスは腕を組んでいる。
「……クロムも災難だな」
「勝てないんですか?」
カインが聞く。
「いや」
アイリスは即答した。
「“戦闘”になるか怪しい」
酷い評価だった。
その頃。
クロムは静かにカインを見ていた。
周囲は騒いでいる。
だが彼だけは冷静だった。
学院最強。
それは単なる称号じゃない。
彼は実際に強い。
だからこそ分かる。
目の前の少年は異常だ。
気配が曖昧。
魔力感知不能。
なのに。
立っているだけで、本能が警鐘を鳴らしている。
クロムは低く言った。
「一つ聞く」
「はい?」
「お前、自分が何者か理解しているか?」
カインは困った顔をした。
「分かんないです」
即答。
クロムは目を細める。
嘘ではない。
本当に知らない。
だから厄介だった。
審判教師が前へ出る。
「両者、準備」
巨大結界展開。
闘技場全体を包む青白い障壁。
国家級魔法戦対応。
教師たちが総出で維持している。
「始め!」
瞬間。
クロムが消えた。
――ドォン!!
爆音。
地面が砕ける。
超高速移動。
次の瞬間には、カイン背後。
同時に十数の魔法陣展開。
「《雷帝砲》」
轟雷。
巨大雷撃がカインを飲み込む。
観客が沸く。
「すげぇ!」
「上位雷撃魔法だ!」
だが。
煙の中から出てきたカインは無傷だった。
「熱っ」
感想それだった。
クロムの目が細くなる。
追撃。
「《重力圧縮》」
空間歪曲。
超高位拘束魔法。
闘技場床が陥没する。
普通の人間なら即圧死。
しかし。
カインは普通に立っていた。
「なんか重い……?」
「…………」
クロムの表情が変わる。
観客席もざわつき始める。
「効いてなくない?」
「いやいや、あれS級だぞ?」
クロムはさらに魔法陣展開。
数が異常だった。
多重詠唱。
超高速演算。
学院最強の本領。
炎。
氷。
雷。
風。
高位属性魔法が同時発動する。
「《天輪連星》」
巨大魔法砲撃。
観客熱狂。
闘技場が光に飲まれた。
しかし。
その中心で。
カインは慌てていた。
「ちょ、ちょっと待っ――」
魔法が飛んでくる。
怖い。
だから。
反射的に。
手で掴んだ。
――ギュッ。
静寂。
空間が止まる。
カインの右手には。
圧縮された超高位魔法球。
本来、触れた瞬間に人体蒸発する代物。
それを。
素手で握っていた。
観客席が凍る。
「……は?」
教師たちの顔色が消える。
クロムですら絶句した。
カイン本人も困惑している。
「え、これどうすれば」
次の瞬間。
――バキィッ!!
魔法球が砕けた。
連鎖崩壊。
周囲の全魔法陣が同時消滅。
さらに。
闘技場結界へ亀裂。
教師たちが叫ぶ。
「結界維持!!」
遅い。
ドゴォォォォォン!!
結界ごと吹き飛んだ。
青白い障壁が粉々に砕け散る。
衝撃波。
観客席最上段まで揺れる。
闘技場半壊。
砂煙が舞う。
完全沈黙。
カインは青ざめていた。
「すみません!!」
もう条件反射で謝っている。
クロムは動かなかった。
いや。
動けなかった。
目の前の存在が理解できない。
防御魔法じゃない。
無効化でもない。
魔法そのものを“握り潰した”。
そんな現象、理論上存在しない。
やがて。
クロムは静かに剣を下ろした。
勝負にならない。
その事実を理解した。
観客席。
学生たちは呆然としていた。
「……今、何した?」
「素手で魔法を……」
「結界が……壊れた……?」
価値観が崩れていく。
これまで学んできた魔法理論。
戦闘常識。
努力。
才能。
全部。
目の前の少年が、当たり前みたいに踏み潰していた。
そして。
誰かが震える声で呟く。
「……あれ、人間なのか?」




