第17話 《魔法学園》
「却下です」
カインは即答した。
王城会議室。
対面にはセリス。
隣にアイリス。
そしてルナがいた。
「なんで!?」
「なんでじゃないです」
カインは机を叩く。
「学園ってアレですよね!? 貴族の子供とか通うやつですよね!?」
「ええ」
「絶対俺場違いじゃないですか!」
「その通りです」
セリスが肯定した。
酷い。
だが表情は真剣だった。
「現在、王都ではあなたへの不安が拡大しています」
「山脈切断」
「神殿停止」
「王城停電」
全部広まっていた。
もはや都市伝説レベルである。
「このまま隔離し続ければ、余計に恐怖が膨らみます」
セリスは静かに続ける。
「だから“普通の生活”を見せる必要があります」
「普通……?」
「王立魔導学園への短期編入です」
全然普通じゃない。
王立魔導学園。
王国最高峰。
貴族・天才・将来の国家中枢候補だけが集まる超エリート機関。
辺境荷物持ちとは最も縁遠い場所だった。
カインは顔を覆う。
「帰りたい……」
「諦めろ」
アイリスが言う。
最近ずっとそれだった。
ルナだけはテンションが高い。
「学園なら常時観察できるね!」
「しないでください」
「解剖室もあるよ!」
「怖いこと言わないで!?」
完全に危険人物だった。
――そして数日後。
王立魔導学園《アストラル学院》。
王都中心部。
巨大な白亜建築群。
空中演習場。
浮遊魔法塔。
広大な訓練場。
学生たちは高級な制服を着こなし、魔法を操りながら歩いている。
完全に別世界。
カインは学院門の前で固まっていた。
「……無理だってこれ」
「行きますよ」
セリスが背中を押す。
今日は簡易護衛仕様らしく、王女感は抑えめだった。
それでも目立つ。
カインが門をくぐった瞬間。
周囲の視線が集まった。
「……あれ誰?」
「平民?」
「制服似合ってなくない?」
「ていうか噂の……」
ざわざわ。
完全アウェー。
カインは縮こまる。
一方、ルナは元気だった。
「見て見てカイン! あれ第三魔導塔!」
「聞いてます!?」
教室へ入る。
空気が止まった。
王立学院上級クラス。
将来の騎士団幹部や宮廷魔術師候補が並ぶエリート教室。
そこへ、噂の問題人物が入ってきた。
貴族生徒たちの視線が鋭くなる。
「……アイツか」
「辺境の」
「戦姫様に取り入ったっていう?」
露骨だった。
その中でも、一人の男子生徒が鼻で笑う。
金髪。
高級装飾制服。
典型的上級貴族。
「随分みすぼらしいな」
カインが反応する。
「え?」
「ここは選ばれた者の場所だ」
周囲の取り巻きも笑う。
「荷物持ちが来る場所じゃない」
テンプレみたいな煽りだった。
カインは困った顔をする。
「いや俺もそう思ってます」
空気が少しズレた。
貴族生徒が眉をひそめる。
「……は?」
「帰れるなら帰りたいです」
本音だった。
逆に反応に困る。
その時。
教師が入室した。
「静かにしろ」
老魔術師。
学院主任教師。
彼は咳払いすると言った。
「本日は編入初日だ。まずは魔力量測定を行う」
教室がざわつく。
定番イベントだった。
測定用大水晶が運ばれてくる。
直径二メートル級。
高級品。
教師が説明する。
「一般成人平均は50」
「優秀層で200前後」
「学院上位で500以上」
誇らしげだった。
最初の生徒が測定する。
《213》
歓声。
次。
《487》
「おお……!」
さらに。
《1204》
教室が沸く。
「さすがレオニス様!」
先ほどの金髪貴族だった。
彼は得意げにカインを見る。
「見たか」
カインは普通に感心していた。
「すご……」
素直。
そして。
教師が言う。
「次。カイン・ヴェルクロフト」
空気が変わる。
教室中の視線が集まった。
カインは嫌そうな顔で前へ出る。
「これ壊れませんよね……?」
「壊れん」
教師が断言した。
「学院最高級品だ」
嫌なフラグだった。
カインは恐る恐る水晶へ触れる。
瞬間。
沈黙。
数秒。
何も起きない。
「……?」
教師が眉をひそめた、その時。
水晶内部が白く染まった。
次の瞬間。
――ジュゥゥゥゥゥ!!
「は?」
水晶が蒸発した。
爆発ですらない。
消えた。
白煙。
衝撃波。
教室窓ガラス全破砕。
さらに。
ドゴォォォォン!!
校舎半壊。
壁が吹き飛んだ。
生徒たち絶叫。
教師転倒。
魔法陣暴走。
天井崩落。
カイン本人が一番パニックだった。
「またぁ!?」
もう恒例だった。
煙の中。
生徒たちは呆然としていた。
学院最高級測定水晶。
一瞬で消滅。
しかも余波だけで校舎半壊。
価値観が崩壊している。
ルナだけが大興奮だった。
「蒸発した!! 分解じゃなく存在消滅!!」
「喜ばないで!?」
その時。
崩れた壁の向こうから、重い足音が響いた。
静寂。
一人の男子生徒が現れる。
黒髪。
鋭い眼光。
学院制服の上からでも分かる圧倒的存在感。
周囲の空気が変わる。
「あ……」
「来た……」
ざわめき。
学院最強。
王国学生戦闘序列一位。
クロム・ヴァルディア。
彼は崩壊した教室を見回し、最後にカインを見た。
数秒沈黙。
そして。
静かに告げる。
「お前に決闘を申し込む」




