第14話 《王城会議》
ルクセリア王城――《アルス・グランデ》。
その最上層。
円卓謁見室には、王国中枢が集められていた。
巨大な円形空間。
白銀の柱。
天井に浮かぶ魔導照明。
床には国家級結界術式が幾重にも刻まれている。
そこへ並ぶのは、王国最高権力者たち。
騎士団総長。
宮廷魔術師団。
大神官。
大貴族。
軍務卿。
財務卿。
そして。
玉座には、一人の男が座っていた。
王国国王。
レオンハルト・ルミエル。
壮年の王。
威厳ある黄金の瞳。
静かな存在感。
その場にいる全員が頭を垂れる中、彼だけが絶対的中心だった。
だが今。
その王ですら、机上の報告書を難しい顔で見ている。
《辺境山脈切断》
《神殿機能停止》
《戦姫アイリス敗北》
《王城結界異常反応》
一つずつでも国家転覆級案件。
それが全部、一人の少年へ繋がっている。
王が静かに口を開いた。
「……確認する」
低い声が広間へ響く。
「この少年は、本当に存在しているのだな?」
沈黙。
誰も冗談と言えない。
セリスが一歩前へ出た。
「事実です、陛下」
彼女の声は冷静だった。
「カイン・ヴェルクロフトは現在、王城内へ保護済みです」
その瞬間、会議が一気に荒れる。
「危険すぎます!」
怒鳴ったのは軍務卿だった。
「なぜ即時封印しないのです!」
「封印できる保証がありません」
セリスは即答した。
「刺激した場合の被害予測は?」
「王都消失の可能性があります」
空気が凍る。
誰も反論できない。
神官側が口を開く。
「そもそも、あれは人間なのですか?」
「神殿装置は《世界外因子》と表示しました」
「神敵認定すべきでは――」
「待て」
低い声が遮る。
アイリスだった。
彼女は壁際に立ったまま腕を組んでいる。
全員の視線が集まる。
アイリスは淡々と言った。
「敵対だけはするな」
広間が静まり返る。
騎士団最強。
王国最大戦力。
その彼女が断言している。
「私は実際に戦った」
アイリスの蒼眼が全員を見渡す。
「勝てない」
その一言は重かった。
誰も軽視できない。
軍務卿が顔をしかめる。
「貴様ほどの騎士が何を弱気な」
「弱気ではない」
アイリスは冷たく返す。
「事実だ」
空気が張り詰める。
「奴は強者ではない」
「……?」
「災害だ」
その表現に、多くの者が息を呑む。
アイリスは続ける。
「剣技ではない」
「魔法でもない」
「理屈そのものが成立していない」
彼女は思い出していた。
空間斬撃を指で止めた瞬間を。
あれは防御ではない。
世界側が成立を拒否していた。
「敵対した場合、勝敗以前に“戦闘”が成立する保証がない」
沈黙。
重苦しい空気が流れる。
その時。
年老いた大神官が杖を鳴らした。
「だからこそ危険なのだ!」
鋭い声。
「世界法則外の存在など許されるはずがない!」
神官たちが頷く。
「神々への冒涜です」
「神敵認定を!」
対して貴族側から別意見が出る。
「待て」
財務卿だった。
「もし制御可能なら、あれ以上の抑止力はない」
利用派。
つまり“国家兵器化”。
「他国へ渡れば均衡が崩壊するぞ」
「ならば先に王国へ組み込むべきだ」
「教育と管理を――」
議論が激化する。
■排除派
危険すぎるため即時抹殺。
■利用派
国家戦力化。
■神聖視派
神の使徒として扱うべき。
完全分裂だった。
だが。
セリスだけは一歩も引かなかった。
「カイン・ヴェルクロフトは保護対象です」
その声に感情が混じる。
珍しかった。
「彼に敵意はありません」
軍務卿が吐き捨てる。
「今は、だろう」
「違います」
セリスは真っ直ぐ見返した。
「彼は、自分の力に怯えています」
一瞬、空気が止まる。
セリスは続けた。
「だからこそ、我々が誤れば終わります」
誰より危険性を理解しているからこその言葉だった。
王は長く沈黙していた。
やがて、ゆっくり口を開く。
「……結論を急ぐな」
その一言で全員が静まる。
王は静かに報告書を閉じた。
「まず確認する」
「カイン・ヴェルクロフトとは何なのかを」
その瞬間。
会議室後方から、低い笑い声が響いた。
「ようやく話が進みますか」
全員が振り返る。
そこには、一人の老人が立っていた。
長い白髪。
黒金の魔導衣。
無数の術式が周囲へ浮かんでいる。
王国宮廷魔術師長。
賢者エルグレイン。
王国最高魔導師。
彼は興味深そうに笑っていた。
「理論外の存在など、研究者としては最高の題材です」
セリスが眉をひそめる。
「……何をするつもりですか」
エルグレインは杖を鳴らした。
「決まっているでしょう」
その瞳が妖しく細まる。
「測定ですよ」
広間の空気が変わる。
王国最高魔術師が。
国家最高設備で。
カインを解析しようとしていた。




