第13話 《王都》
馬車が王都へ近づくにつれ、街道の空気が変わっていった。
荷馬車の数が増える。
武装商人。
騎士団巡回。
巨大な輸送隊。
辺境では見ない規模だった。
カインは窓から外を眺めながら、小さく呟く。
「人、多いな……」
向かいに座るセリスが書類から目を上げた。
「まだ外縁部ですよ」
「これで?」
「ルクセリア人口は約三百万です」
「……え?」
理解が追いつかない。
アルディアの何十倍どころではない。
アイリスが鼻を鳴らす。
「田舎者丸出しだな」
「否定できません……」
珍しく素直だった。
やがて。
巨大な白壁が見えてきた。
カインが思わず息を呑む。
「うわ……」
王都ルクセリア。
王国最大都市。
その外壁は、山脈みたいに巨大だった。
高さ数百メートル級の純白城壁。
表面には無数の魔法陣。
空中には青白い光が流れている。
セリスが説明する。
「対国家級結界です」
「城壁に?」
「ええ。大規模侵攻にも耐えられます」
さらっと言う規模じゃない。
城門が開く。
その瞬間。
カインの視界が、一気に広がった。
「…………」
言葉が出ない。
巨大都市。
それしか表現できなかった。
空を横切る魔導列車。
青白い光の軌道を走る巨大車両。
高層建築群。
浮遊する塔。
空中橋。
魔導広告。
街全体が発光している。
人、人、人。
貴族。
冒険者。
獣人。
魔導技師。
あらゆる種族と文化が混ざり合っていた。
辺境都市アルディアとは別世界だった。
「すご……」
完全に観光客だった。
アイリスが呆れる。
「口閉じろ。虫入るぞ」
「いや無理ですよこれ」
カインは窓に張り付く。
魔導列車が頭上を通過した。
ゴォォォン……!!
轟音。
光の粒子が尾を引く。
「飛んでる……」
「乗りたいですか?」
セリスが少しだけ微笑む。
「乗れるんですか?」
「王族専用車両があります」
「王族ってすげぇ……」
感想が小学生だった。
王都中心部へ入る。
景色がさらに変わる。
貴族街。
白亜の邸宅群。
巨大噴水。
庭園。
魔導照明。
歩いている人間の服装からして別格だった。
カインは自分の服を見る。
辺境仕様。
完全に場違い。
「……帰りたい」
「もう遅いです」
セリスが即答した。
その頃には、街中もざわつき始めていた。
「おい、あの馬車……王族紋章だぞ」
「誰乗ってる?」
「戦姫アイリスもいる……!」
「まさか例の……」
噂は既に王都へ届いていた。
山を断った少年。
戦姫を圧倒した化け物。
神殿停止事件。
尾ひれがつきまくっている。
カインは視線に気づいて縮こまった。
「めちゃくちゃ見られてません?」
「当然です」
セリスは平然としている。
「現在、あなたは王国最高機密ですから」
「最高機密ってこんな注目されるんですか」
「ええ」
全然安心できない。
やがて馬車は、王城へ到着した。
ルクセリア王城。
巨大だった。
もはや都市。
空へ突き刺さる白銀の中央塔。
周囲を囲む複数の副城。
その全体を覆う超高位結界。
カインは口を開けたまま見上げる。
「住む場所じゃなくないですかこれ」
「王家は国家そのものですので」
スケール感が狂っている。
馬車が城門を潜る。
その瞬間だった。
――ビキィン。
低い振動音。
カインが顔を上げる。
空気が震えた。
王城全域を覆っていた青白い結界光が、一瞬だけ歪む。
騎士たちの顔色が変わった。
「なっ……!?」
「結界反応異常!」
城壁上の術師たちが騒ぎ始める。
警報術式が点滅。
アイリスが眉をひそめた。
セリスも表情を消す。
「……今のは」
王城地下。
超高位防衛結界。
神代級魔導炉で維持される、王国最終防衛機構。
本来、国家級災害でも揺るがない。
それが。
カインが近づいただけで。
震えた。
カイン本人だけが事情を理解していなかった。
「え、何かあったんですか?」




